ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官(Adam Berry/Getty Images)

中国ネット上に飛び交う「キッシンジャー氏死亡説」世論逸らすため偽情報を流したか?

この頃、元米国務長官のヘンリー・キッシンジャー氏が「2月18日に死去した」と伝えるニュースが、華人圏内のツイッター上などで飛び交っている。

偽情報も飛び交う「怪現象」その出所は?

しかし世界の主流メディアはその件について一切報じておらず、同氏死亡の確認はとれていない。この怪現象について、中国国内の世論を注目させて、中国共産党への厳しい世論を逸らす当局の意図があるのではないかと指摘されている。

中国では、2月15日に複数の都市で起きた、医薬品補助の削減を伴う制度改革に抗議する運動、いわゆる「白髪革命」と呼ばれる大規模デモへの注目が集まっている。

そのようななか、突如現れたのが真偽不明の「キッシンジャー死去」のニュースであった。これについては早くも、中共がお得意とする世論操作の一つであり、国民の不満やデモへの注目を逸らすため「当局が意図的に流したニセ情報ではないか」と指摘する声もある。

真偽は不明ながら「キッシンジャー死去」を伝えるニュースやツイッター投稿へ寄せられる国内コメントには、同氏の死を「喜ぶ」発言が多くみられた。

これらの発言は「反中共」「親中共」のどちらからも来ている。なかには「なぜ臓器を交換しなかったのか」という、ぞっとするような指摘もあった。

中国では「体中の臓器を取り替えた」と生前に自身が言った元高官の死や、江西省の高校生が突然失踪し、106日後に「変死体」で発見された事件をきっかけに、再び臓器収奪問題への関心が高まっている。

対中「融和派」から「強硬派」への転換

キッシンジャー氏といえば、米中国交樹立の立役者で、一貫して米中友好を説いてきたいわば「対中融和派」の代表である。中国共産党からすれば「中国の古き良き友人」ということになる。

しかし、その「古き良き友人」も晩年に至った2020年10月、民間学術機関主催のオンラインの討論会で「今の米中関係は、戦争をしかねない危険性がある」として、中国の脅威を認める発言をしている。最近でも、同氏のこれまでの対中融和路線とは異なる強硬発言があり、中国国内からのバッシングを招いている。

中国ポータルサイト大手の網易(ネットイース)は10日、「キッシンジャー元国務長官:今の中国は国際秩序への挑戦者であり、米国は必要であれば武力を行使することができる(中国語原題:美前国务卿基辛格:中国是当前国际秩序的挑战者,必要时美可动武)」と題する文章を掲載した。

同文章は「この発言からは脅しのにおいがぷんぷんしてくる。中国が米国の地位を脅かしたというだけで、米国が武力行使せざるを得ないというのは野蛮きわまりない事だ」とした上で、「戦争による代償を(米国が)受け入れられるのならば、やってみればいい」と挑発的に締めくくった。

この文章には2800以上のコメントが寄せられたようだが、実際に見られるのはほんの一部だけだった。当局に不都合なコメントは関連部門によって削除された可能性もある。

そのせいか、表示されているコメントには「この老いぼれが!まだ死んでいなかったのか」などように、2月18日に死亡した(とされる)キッシンジャー氏への罵声が多くを占めていた。

しかし、なかには「中国人民の古い友人だ。キッシンジャーをここまで追い込むのにも、大変だったろう」や「まいた種は自分で刈り取らなければならない」と皮肉るコメントもあった。「米国にはもう親中派はいない!」と悲しむ人もいた。

今年2月現在、キッシンジャー氏は99歳のご高齢だ。5月27日には満100歳になる。「死ぬ直前の人の言葉には真実がこもる」というのが多くの人の感想のようだ。

いずれにしても、中国のSNSに流れた「キッシンジャー氏死去」の事実確認はとれていない。そのため「意図的に流された訃報」である可能性は否定できない。

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