通常国会が21日、閉会するが、金融市場でも観測の高まっていた衆院解散を先送りしたことで岸田首相(写真)の今後の政権運営リスクが高まったとの見方が出ている。写真は13日、都内で代表撮影(2023年 ロイター)

焦点:解散先送り、首相の求心力に低下リスク 防衛財源の先行き不透明に

[東京 21日 ロイター] – 通常国会が21日、閉会するが、金融市場でも観測の高まっていた衆院解散を先送りしたことで岸田文雄首相の今後の政権運営リスクが高まったとの見方が出ている。首相は内閣改造・党役員人事や秋以降の解散で政権基盤の強化を図るとみられるが、経済状況とも絡み、秋以降の解散が困難になる可能性を指摘する向きもある。首相の求心力が低下すれば、与党内にも異論のある防衛・少子化政策の財源問題は先送りの可能性もあるという。

<9月までに人事刷新、秋に解散か>

今国会での解散見送りについてある閣僚経験者は、準備を進めていた議員も多いと指摘、「選挙決起集会の会場を借りてしまった議員などは恨み節だ」と話す。

ある政府関係者は、解散延期の表向きの理由は「重要法案の国会審議にメドがたったことだ」と語る。元自民党幹部職員で政治評論家の田村重信氏は「首相が会期末解散を検討していたのは事実だろう」と指摘した上で「息子の翔太郎氏や木原誠二官房副長官の週刊誌報道、マイナンバーカードのトラブルなどで支持率が下落したことで躊躇したのだろう」と解説する。

今後の政権運営について田村氏は「まずは9月までに内閣改造など人事刷新や外交などの政策で支持率回復を狙い、秋以降解散のタイミングを計る」とみている。首相に近い与党関係者も「9月後半の国連総会後に開かれる秋の臨時国会冒頭で解散だ」と言い切る。

自民党のある中堅幹部は「もともと6月解散はないとみていた。今選挙で実績を収めても来年9月の総裁選まで時間が長すぎ、効果がない」として秋以降の解散で党内基盤を固めるのが首相の意向だと解説する。

<党内基盤の弱さ露呈>

しかし6月解散の先送りで首相の求心力に影響が出るのは免れないとの見方もある。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「専権事項である解散権さえもふるえない首相の党内基盤の弱さが露呈した格好で求心力は低下せざるを得ない」とみる。

木内氏は「秋には世界経済の減速や物価のさらなる上昇で、解散しても与党に厳しい選挙結果となるリスクがある」とも指摘する。

ある与党関係者は「自民党内に明確な岸田さんの対抗馬がいないのがせめてもの救いだが、解散しませんなどとわざわざ言う首相は聞いたことがない」と指摘、解散先送りで首相の言葉の重みに「影響が出る」と懸念する。

そもそも秋の衆院解散は難しいとの指摘もある。ある自民党幹部は「秋になれば今は3万円台の日経平均株価が相応に下落している可能性ある」と指摘。「下げ幅が大きければ解散は躊躇する。場合によっては2025年の衆参同日選まで解散に踏み切れない可能性もある」と予測する。

前述の閣僚経験者も「解散を決められなかった首相ということで、来年9月の総裁選で岸田さんが無風で再選される可能性は低下した」とみている。

<防衛・少子化、財源の行方は>

解散できない場合、解散しても大きく与党議席を減らす場合、「ともに政権基盤は弱体化し、防衛増税や少子化政策の財源など自民党内に異論の多い政策は先送りなどが想定される。財源が書き込めないと政策としては完結できない形になる」と野村総研の木内氏は懸念する。

同氏は「労働市場改革も失業増を招くとの意見に押される可能性がありえるのでないか」とみる。

ある財務省関係者は今回の解散見送りについて「衆院選の時期が不透明となり、財源の行方も見えなくなった」と述べる。

(竹本能文、山口貴也 編集:石田仁志)

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