英語に「You are what you eat」ということわざがあります。直訳は「人は何を食べるかだ」、つまり「人の健康と幸福は食べたものに左右される」という意味です。例えば、健康的な食事は妊婦にとって非常に重要だと誰でもそう思っています。しかし、シドニー大学の最新研究では妊婦だけではなく、子供を授かるまで父親の食生活も胎児の健康に影響を与えることがわかりました。
この研究は男性が正しい食生活を選ぶことは自身の健康だけでなく、未来の胎児への影響も思っていたよりはるかに大きかったと強調しました。
研究の試験では雄マウスの栄養バランス(食事中の炭水化物、タンパク質、脂肪の割合)が胎児の心身健康に影響を与えることを示され、精子の遺伝子が親の食事によって変えられたことが原因だと考えられます。この新しい分野の研究は妊娠する前の期間に、男性は意識して食事を選択することの重要性を強調しました。健康な子供を授かるために将来のパパ達はどんな食事を選ぶべきでしょうか。
父親の食生活が未来の子供にどのように影響するか
父親の食生活は未来の子供へどのような影響をもたらすかを十分に理解するには、さらなる研究と人体実験が必要です。しかし、多数のエビデンスによって、妊娠前に摂取した食べ物が胎児の健康に関わることを証明しました。
今年4月「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)」に発表された研究は雄マウスが摂取した栄養素は性別が異なる胎児への影響も違うことを指摘しました。雄マウスが食事で摂取した脂肪は雌の胎児に大きな影響を与え、炭水化物とタンパク質の相互作用は雄の胎児にのみ影響を与えることが示されました。
高脂肪食を摂取した雄マウスは「皮下脂肪肥満、褐色脂肪不足」状態を示しました。父親の食事に含まれる脂肪の割合は雌の子供の体脂肪に直接に影響するため、雌の子供2型糖尿病のような代謝疾患の早期症状が見られました。
高タンパク食を摂取した雄マウスから生まれた雌の子供は、血糖値が低い数値を保ています。一方、タンパク質が少なく炭水化物が多い食事を摂取したマウスの雄の子供は、より不安を感じやすく、迷路試験ではより安全でリスクの少ないエリアを選んで活動します。
興味深いことに、低タンパク食を摂取した雄のマウスは最終的に食べる量が多い傾向がみられます。この新しい研究は、父親の食事における栄養素の組み合わせはカロリー摂取と同じくらい大事で、またはカロリー摂取より重要であることを示唆しています。
2022年に「フロンティアーズ・イン・ニュートリション(Frontiers in Nutrition)」に発表された研究では、受精前にオメガ3脂肪酸を多く摂取した雄のマウスの子供が、不安や憂鬱な行動が低減、社交能力、学習能力、記憶力が向上する傾向があると掲載しました。
2016年の「サイエンティフィック・レポーツ(Scientific Reports)」に発表された研究も、栄養不良となる雄の齧歯動物から生まれた子供は出生体重が低く、体脂肪と代謝の疾患に繋がる兆候があると発表しました。
2013年の研究では、食事に含まれている葉酸がマウスの精子に影響を与えることが確認され、「父親の葉酸不足は頭部や筋肉の奇形を含む子供の体の欠陥に関係している」と結論づけられました。また、糖尿病やがんに関連する遺伝子変化にも関係していることがわかりました。
2006年に発表された早期研究では、断食を強制させられた雄マウスの子供は血糖値が良好な状態を保てることがわかりました。
2016年に『分子新陳代謝(Molecular Metabolism)』に発表された研究では、雄マウスが摂取した高脂肪食は二世代にわたって子孫の代謝システムに影響を与えてしまうとされています。
エピジェネティクスとは何ですか
エピジェネティクスは、DNA塩基配列の変化を伴わない細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化を研究する学問領域です。簡単に言えば塩基配列以外の要因で遺伝子のオンとオフを決めるしくみです。
AmBari Nutrition社の最高経営責任者(CEO)兼創設者であるケビン・ハフマン(Kevin Huffman)博士は、本紙「エポックタイムズ」へのメールで「DNAは生命のコードであれば、エピジェネティクスは細胞に遺伝子を表現する方法を指示するマニュアルです」と述べています。
変化は、環境、食事、生活習慣などの要因によって影響を受け、遺伝子の表現方法を変えられます。遺伝子のオンとオフは、まるでスイッチのようです。この切り替えは、人々の健康や成長に大きな影響を与えます。一部のエピジェネティックな変化は代々伝わることもあり、これは親の生活習慣が子供の健康に影響を与えると意味しています。
「機械設備の操縦レバーと思ってください、そのレバーは発達している子供の特定の遺伝子を調整できる」とホフマン博士は説明します。彼は整形外科医であり、肥満治療の認定医でもあります。「適正体重を保つこともメンタルケアも大事です。肥満は精子の質を低下する悪影響をもたらします。それを避けるために、適正体重を保つことも運動を続けることも必要である」。
「父親の食事に加工食品、飽和脂肪酸、および添加糖類がたくさん含まれている場合、子供は肥満や代謝異常を起こしやすくなります。父親はエピジェネティックな変化を通じて、子供の体が栄養素を処理する方法や脂肪を蓄える方法に影響を与え、将来肥満や代謝問題を引き起こしやすくする恐れがあります」
つまり、子供を授かる前に父親が選ぶ食物は、エピジェネティクスの変化を左右し、つまり遺伝子のオンまたはオフを変化させます。
パパになろうとする人への食事アドバイス
父親になろうとする人は子供の健康を確保するために食事にどんなことを心掛ける必要があるでしょうか。R2メディカルクリニックの医療ディレクターであり、整形外科医のエリック・ナトキン博士(Dr. Erik Natkin)は、エビデンスに基づいて、食事をアドバイスしました。
彼はエポックタイムズへのメールで、「葉物野菜は葉酸を豊かに含んでいるので、遺伝子の表現に重要な役割を果たすメチル化メカニズムを円滑に行うことを促進します。また、果物や野菜に含まれている抗酸化物質は、酸化ストレスから精子を守り、変異した遺伝子を次の世帯に伝承させるリスクを低減する」と述べています。
「研究によれば、加工食品やトランス脂肪酸を多く含む食事は精子の質に悪影響を与え、遺伝子の表現を変え、そしてこの変異した遺伝子を次の世代に伝承させてしまいます。日常生活では、パパになろうとする人はナッツ、種子、魚類、そして多種多様な野菜や果物を摂ることを推奨します。この食べ方は自身の健康だけでなく、これから授かる子供の健康にも役立つでしょう」
バランスの良い食事のほかに注意すべきものもあります。2018年に「糖尿病(Diabetes)」誌に発表された研究では、父親の身体活動レベル(PAL)が次の世代の成人後の代謝機能に影響を与える可能性があることが発表しました。研究者は高脂肪食を強いられた雄マウスの子供が耐糖能異常障害を患うリスクは高いですが、その雄マウスが運動を行うことによって、子供が耐糖能異常障害を患うリスクも解消されたことを発見しました。
発表者であるオハイオ州立大学医学部(Ohio State University College of Medicine)生理学および細胞生物学の研究員、クリスティン・スタンフォード(Kristin Stanford)さんは、ウェクスナー医療センター(Wexner Medical Center)に対して「例え高脂肪食を続けても、父親が運動を取り入れれば、次の世代が成年後の代謝機能への悪影響を改善できた」と報告しました。
この研究では、パパになろうとする男性はバランス良い健康食とポジティブな生活習慣を保てば、食べ物がもたらす健康被害のリスクを低減できるし、健やかな未来を子供に与える約束ができることを示しています。
(翻訳編集:正道 勇)
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