50歳以上では、骨粗鬆症に関連した骨折のリスクが著しく高まり、死亡率が高くなります。最近の研究では、高齢者の股関節骨折後の生存率が、アメリカにおけるがん死亡原因の第2位である大腸がんの生存率よりもさらに低いことを示しています。
高齢者の「サイレントキラー」とも呼ばれる股関節骨折は、大腿骨(太ももの骨)が股関節付近で折れることで起こります。5月に「Journal of Bone and Mineral Research Plus」誌に発表された最近の研究によると、高齢者は骨折後の生存率が著しく低下し、中でも股関節骨折の予後が最も悪いことが判明しました。
低い股関節骨折の生存率
本研究では、2011~2015年の間に様々な部位で骨折を経験した65歳以上の患者、9万8474人を対象に調査しました。これらの患者は、性別、年齢、居住地(地方か都市)、骨折リスクに関連する併存疾患に基づいて、非骨折グループと1対1でマッチングされました。
最長6年間の追跡後、研究者たちは骨折患者の全生存率を評価し、非骨折グループの相対生存率と比較しました。その結果、股関節骨折患者の生存率が最も低く、次いで脊椎骨折でした。股関節骨折患者の1年全生存率は男性67.7%、女性78.5%でした。脊椎骨折患者の1年全生存率は男性75.5%、女性84.9%。一方、骨折のない患者の1年全生存率は男女とも90%以上を維持しました。
股関節骨折患者のうち、5年以上生存したのは男性で3分の1以下(32.3%)、女性は半数以下(44.7%)でした。脊椎骨折患者の5年全生存率は男性37.6%、女性54.1%。注目すべきは、85歳以上の患者の予後が最も悪かったことです。
特に、股関節骨折の男性の5年全生存率は17.9%と最も低く、脊椎骨折の男性の生存率は19.7%でした。女性の5年全生存率はわずかに高く、股関節骨折では30%、脊椎骨折では35.7%でした。さらに、非骨折グループと比較して、股関節骨折後の5年相対生存率は最も低く、男性で49.9%、女性で65%。脊椎骨折の場合、5年相対生存率はわずかに高く、男性で53.9%、女性で72.7%でした。
また、骨折後の生存率は一般的に男性より女性の方が高いのですが、女性は骨折のリスクが高く、骨折を経験する可能性も高いことがわかりました。このような後続骨折は、骨折した女性の総死亡数の最大3分の2を占めています。
この研究の筆頭著者であり、カナダのラヴァル大学医学部教授のジャック・ブラウン氏は、プレスリリースの中で、「ほとんどのタイプで、骨折後1か月以内の生存率は劇的に低下し、5年生存率はいくつかの一般的ながんと同等かそれ以下になった」と述べています。
この研究では、これらの参加者が住んでいた地域で、2012~2016年の間に診断されたがん患者の5年相対生存率が、前立腺がんの男性で94%、乳がんの女性で89%だったといいます。アメリカで一般的ながんのうち、メラノーマ(皮膚がん)の5年相対生存率が約94%、アメリカで2番目に多いがん死亡者数である大腸がんの5年相対生存率は約65%です。
比較すると、65歳以上の高齢者の股関節骨折の5年相対生存率は、上記のがんよりも低いとわかりました。
骨折患者の生存率が低い要因
骨折前1年間に骨粗鬆症の治療を受けたことがある患者は、女性で32〜45%、男性で7〜14%であり、脊椎骨折の患者はその割合は高いとわかりました。さらに、脊椎骨折の患者は、他の部位の骨折の患者と比較して、骨粗鬆症に関連した痛みのために処方したオピオイド(麻薬性鎮痛薬)の治療歴が多くあることがわかりました。
骨粗鬆症治療歴に加えて、研究者たちは65歳以上の生存率が低い他の理由についても議論しました。例えば、最初の骨折がさらなる骨折のリスクを増加させるため、その後の骨折は1年生存率低下の短期的要因になります。外科治療を受ける患者の周術期合併症も、骨折後数か月間の死亡率を高めます。
さらに、高齢者は体力がなくなり弱くなると死亡率の上昇に関連します。この弱まりは骨折後にさらに進行し、悪循環を引き起こす可能性があります。この研究は骨折患者の予後と、予後を改善するための対応する介入に焦点を当てたものであり、それによって骨折した高齢者の生存率を高めることができると述べています。
Brown博士はプレスリリースの中で、「これらの観察結果は、これらの患者に対するわれわれの態度を改め、米国骨代謝学会が推奨しているように、退院前に二次予防介入を早めに行うことが必要だと強調しています」
加齢による股関節骨折のリスク増加
ジョンズ・ホプキンス大学医学部によると、アメリカでは股関節骨折は一般的だといいます。年間35万件が報告されていますが、若い人の場合、股関節骨折は通常交通事故などの激しい外傷によって起こります。人は加齢とともに骨がもろくなり、股関節骨折の発生率は50歳を過ぎると、10年ごとに倍増します。したがって、股関節骨折の多くは60歳以上で起こり、転倒が最も多い原因となっています。
股関節骨折のリスクを減らす5つの予防ステップ
高齢者の股関節骨折は様々な合併症を引き起こし、死亡リスクを高めます。また、回復がより困難になり、自立心の喪失、生活の質の低下、うつ病を引き起こす可能性さえあります。
ジョンズ・ホプキンス・メタボリック・ボーン・センターのメディカル・ディレクターであるデボラ・セルマイヤー医師は、公式サイトで次のように述べています。「高齢者は、股関節骨折の手術中や手術後に、血栓、感染症、不整脈など、生命を脅かす合併症を起こす可能性があります」
彼女は、骨折、特に股関節骨折を予防するためにあらゆる手段を講じることの重要性を強調しました。
股関節骨折のリスクを効果的に減らすための5つのステップ
1. 骨密度の検査と骨強度の維持
65歳以上の女性はもちろん、骨折リスクの高い若い女性も骨密度検査を受けることをお勧めします。Sellmeyer博士は、骨粗鬆症のスクリーニング検査を受けることで、骨を強く保ち骨折を予防するための治療計画を立てることができることを指摘しました。
70歳以上の男性や、プレドニンのようなコルチコステロイド薬(炎症を軽減するための強い薬)を長期間使用している人は、骨がもろくなるリスクが高いので、骨粗鬆症検診について医師に相談する必要があります。
2. 筋力を保つ 筋力、持久力、バランス感覚を養う運動は、滑ったり、つまずいたり、転んだりすることによる骨折のリスクを減らすのに役立ちます。ある研究によると、定期的な運動は高齢者の転倒リスクを14.3%低下させます。
3. 骨の健康のために十分な栄養を確保する
50歳未満の女性と70歳未満の男性は1日1千ミリグラムのカルシウム、50歳以上の女性と70歳以上の男性は1日1200ミリグラムのカルシウム摂取が望ましく、また、カルシウムの吸収にはビタミンDが不可欠であると、セルマイヤー博士は指摘します。
70歳までは1日600IU、70歳以降は1日800IUのビタミンDを摂取することが推奨されています。この組み合わせは骨折のリスクを大幅に減らすことができます。さらに、バナナやほうれん草など、カリウムを多く含む果物や野菜をたくさん食べることも重要です。
セルマイヤー博士たちの以前の研究によると、カリウムはカルシウム代謝に良い影響を与えます。さらに、タンパク質は筋肉量を維持し、骨の成長をサポートします。
4. 薬と視力のチェック めまい、ふらつき、脱力感、歩行中のバランスの崩れなどを感じたら、医師に相談して、服用している薬を見直すと良いでしょう。また、定期的な眼科検診を受け、必要に応じて眼鏡の処方箋を更新することは、視力による転倒予防に役立ちます。
5. 家庭の安全性を高める 転倒の多くは家庭で起こりますが、簡単な工夫でリスクを大幅に減らせます。例えば、床や階段に物を散らかさないようにします。階段、浴槽やシャワー室に手すりの設置、浴槽や浴室の床には滑り止めマットを敷く、敷物を取り除く、また照明を強化するなどです。裸足や靴下での歩行も転倒のリスクを高めます。足に合った靴を履くことも重要です。
(翻訳編集 呉安誠)
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