知恵の泉、中医学。食事で治す糖尿病。

血液中の水分不足が血糖値を上げる? 食事の調整で症状を改善

多くの人が、糖尿病血糖値が高い場合、その解決策として、血糖値を下げる方法を考えます。一般的には、血糖を分解したり、糖分の摂取を減らす方法が知られていますが、これは西洋医学的なアプローチです。一方、中医学では血液中の水分を増やすことで、血糖の濃度を自然に下げるという考え方を取ります。糖分の量は同じでも、水が多ければ糖度が低くなるように、水分を補給することで血糖値が自然に下がるのです。
 

血液中の水分不足―その証拠は?

糖尿病患者に典型的な症状である喉の渇き、多飲、多尿がその証拠です。現代医学では血糖値の上昇が検査で確認されますが、体が感じる症状としては、喉の渇きや熱っぽさが非常に分かりやすいです。古代中医学では糖尿病を「消渇症」と呼び、体内の水分不足が原因で喉の渇きが生じると考えられていました。

では、なぜ水分を摂っても喉の渇きが改善しないのでしょうか?その理由は、脾胃(ひい:消化器系)の機能にあります。脾胃の機能が低下すると、水分を血液に取り込むことができず、どれだけ水を飲んでも体に吸収されません。その結果、多尿が続き、水分がさらに失われ、ますます喉の渇きを感じるという悪循環が生じます。

体はこの状態に対処しようと、血糖の濃度を薄めるために多尿で糖分を排出しようとします。これは体の自衛反応ですが、根本的な原因である脾胃の機能不全が改善されない限り、腎臓の機能も次第に悪化してしまいます。

 

血糖値を下げるためには、脾胃と腎の機能を改善

中医学の五行の理論では、脾胃は「土」、腎臓は「水」に属し、土は水を制御する力を持つとされています。つまり、脾胃(消化器系)が不調になると、最初に影響を受けるのは腎臓です。そのため、糖尿病患者は脾胃の機能を改善しない限り、腎臓の状態も悪化していきます。脾胃と腎臓の機能を回復させることで、血液中の水分不足が解消され、結果的に血糖値も自然に下がるという仕組みです。

(pixta)

 

中医学の糖尿病治療の要点

中医学では、血液中の水分や体内の潤い成分を「陰」と呼びます。これが不足すると「陰虚」と言います。また、経絡には「気」というエネルギーが流れており、気が血を推動(物事を前に進める、または促進することを意味)することで、血液が体内を巡ります。気と血がスムーズに流れ、臓器が正常に働くためには、気血のバランスが重要です。そのため、中医学では、気血を調整し、気血の不足を補うことが治療の基本となります。

糖尿病の治療においては、初期の段階では水分を補給し、陰を補うことが中心です。しかし、長期にわたると、血液中の水分だけでなく、血液を巡らせるための「気」も不足してしまいます。これを「気虚」と呼びます。清末の名医、張錫純(ちょう しゃくじゅん)は、糖尿病の原因は「脾胃の不調、気陰両虚」だと指摘しました。つまり、脾胃の機能が低下し、気と陰が両方とも不足することで、体内の水分が不足し、喉の渇きや多飲、多尿といった典型的な症状が引き起こされるのです。

 

食養生「黄精長芋粥」

張錫純は、糖尿病患者に適したさまざまな食養生法を提案しています。その中でも、「黄精長芋粥(おうせいさんやくがゆ)」は、気陰両虚や脾腎不足タイプの糖尿病に適したレシピです。

材料:

黄精(おうせい)は、ユリ科の植物で、特にその根茎が漢方薬:適量

長芋(やまいも):適量

蓮の実(れんし):適量

もち米または白米:適量

黄精以外の材料は、通常の食材として使われますが、黄精は薬食両用の中薬で、血糖値や血中脂質を下げる効果があります。ただし、自分の体質に合うかどうかは、専門の医師の指導を受けることが望ましいです。

効能:

黄精:気を補い、陰を養い、体内の水分を増やします。

長芋:脾胃と腎を強化し、特に脾腎の虚弱を改善します。

蓮の実ともち米(または白米):脾胃の働きを改善し、陰を補い、乾燥や喉の渇きを緩和します。

 

糖尿病向けの食養生メニューの構成

張錫純の提案したこの食療法は、現代の糖尿病治療にも参考にできる価値があります。特に、気陰両虚タイプの糖尿病患者に適しています。さらに、現代の栄養学に基づき、低糖質・低カロリーの食材を適切に選び、体質を強化することで、より効果的な血糖管理が可能です。

張錫純のレシピを参考にしつつ、日本のスーパーで手に入る海産物や食材を組み合わせて、美味しく栄養価の高い、日常的に取り入れられる養生料理を作ることができます。この料理は、脾胃と腎を強化し、気血と水分を補うことで、血液中の水分不足による血糖値の上昇や喉の渇きを和らげ、糖尿病の症状を根本から改善することを目指しています。

 

メインディッシュ:長芋とキノコの蒸し鮭

人数:2〜3人分

材料:

鮭:300g

長芋:200g

キノコ(シイタケ、エノキ、またはお好みのキノコ):100g

青ねぎ:1本

生姜:4枚

醤油:大さじ2

料理酒:大さじ1

ごま油(またはオリーブオイル):少々

塩、こしょう:適量

作り方:

食材の準備 

鮭を洗い、料理酒、塩、こしょう、生姜を加えて15分ほどマリネし、臭みを取ります。長芋は皮をむき、1cmほどの半円形の厚さに切ります。キノコは洗って、適当な大きさに切るか手で裂きます。青ねぎは根元部分を短く切り、葉の部分は小口切りにします。

盛り付け準備 

蒸し皿に長芋とキノコを敷き詰めます。マリネした鮭を長芋とキノコの上に乗せ、生姜と青ねぎの根元部分を上にのせます。

蒸す 

蒸し器にセットし、沸騰したお湯の上で約10〜15分蒸します。鮭が完全に火が通り、長芋とキノコが柔らかくなればOKです。

仕上げ 

蒸し終わったら、青ねぎの根元部分を取り除きます。少量の醤油とごま油(またはオリーブオイル)をかけて味を整えます。最後にこしょうを軽く振り、小口切りにした青ねぎを散らして彩りを添えます。

 

中医学の効能

:体を温めも冷やしもしない中性の食材で、脾胃や腎臓を健やかにし、気血を補います。特に気血虚弱や脾腎機能が低下している方に効果的です。

鮭のムニエル(Shutterstock)

 

長芋:温和で、脾胃を健やかにし、腎を補い、免疫力を高める優れた食材です。特に脾胃と腎臓の機能改善に役立ちます。

キノコ:脾胃を整え、体内の気の流れを調整し、肺の熱を取り除く効果があります。特に秋の免疫力低下に効果的です。

 

おかず:海藻と大根のサラダ

材料(2〜3人分)

海藻(昆布、ワカメなど):60g

大根:100g

酢:大さじ2

醤油:小さじ2

うま味調味料(魚や昆布のだしなど):少々

ごま油:少々

焼きごま:適量

作り方:

下ごしらえ
海藻を水で戻し、水気を切っておきます。大根は細切りにします。

ドレッシングを作る
酢、醤油、うま味調味料、ごま油を混ぜ合わせてサラダドレッシングを作ります。

和える
海藻と大根をボウルに入れ、ドレッシングを加えてよく和えます。

仕上げ
最後に焼きごまを振りかけて完成です。

 

中医学の効能

海藻:体を冷まし、痰を取り除く作用があり、痰熱が体内に溜まっている方や、肥満、水腫(むくみ)の改善に役立ちます。

わかめ(Shutterstock)

 

大根:体を冷やし、肺や腸を潤し、咳を鎮め、痰を和らげる効果があります。また、消化を助け、腸の動きを促進するので、胃腸の調子を整え、湿気や熱、痰、胃の張りを取り除くのに効果的です。
 

スープ:豆腐と昆布の味噌汁

材料(2〜3人分)

豆腐:200g

昆布:20g

味噌:大さじ2

水:800ml

生姜:4枚

うま味調味料(日本のだし):少々

小ねぎ(小口切り):適量

作り方:

下ごしらえ
昆布は水で戻して柔らかくし、細切りにします。豆腐は一口大に切ります。

スープを作る
鍋に水を入れ、生姜を加えて沸騰させます。沸騰後、昆布を加えて3分ほど煮ます。

豆腐と味噌を加える
豆腐を鍋に加え、さらに1〜2分煮たら、味噌とうま味調味料を加え、全体をよく混ぜます。火を止めます。

仕上げ
器に盛り付け、小ねぎを散らして完成です。

 

中医学の効能

豆腐:陰を養い、肺を潤し、脾胃の虚弱を改善します。

豆腐(Shutterstock)

 

昆布:熱を取り、痰を消し、血の巡りを良くし、体内の湿気や熱が消化機能に与える悪影響を排除する効果があります。

 

食事全体の効果

この食療メニューは、脾胃と腎の機能を補強し、気血と水分を補い、内熱や消化不良の原因となる湿気を取り除く効果があります。喉の渇きや多尿の症状を緩和し、血糖値のコントロールにも役立ちます。特に、気血虚弱や脾腎虚弱の糖尿病患者に適しています。また、これらの料理は低糖・低カロリーで、血糖値を管理し、ダイエットをサポートする方にも最適です。

 

(翻訳編集 華山律)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。