日中は疲れやすく、眠気が取れないのに、夜になると逆に寝つけない。あるいは、やっと眠れても途中で目が覚めたり、朝起きても疲れが抜けない——こんな悩みを抱えていませんか? 漢方医の家系に生まれ、血流改善の専門医として知られる堀江昭佳氏によると、こうした不調の原因は「血液不足」である可能性が高いそうだ。そして、ある呼吸法を取り入れることで、ぐっすり眠れるようになるといいます。
夢の多さで「血の巡り」がわかる?
疲れているのに眠れない、寝ても途中で何度も目が覚める、朝起きても疲れが取れない——こうした悩みを抱えている人は少なくありません。実は、これは「血の巡り」が足りていない人に多く見られる症状なのです。
漢方の古典『金匱要略(きんきようりゃく)』には、「魂夜肝隠(こんやかんいん)」という言葉があります。漢方では、肝臓は血を蓄える重要な臓器とされ、「魂」は精神や意識を指します。
つまり、血が十分に巡ることで精神が安定し、深く眠れるという考え方です。しかし、血の巡りが悪くなると精神が落ち着かず、ぐっすり眠ることができません。その結果、夢を見る回数が増えてしまうのです。適度に夢を見るのは問題ありませんが、夢が多すぎると脳がしっかり休めず、疲れがたまってしまいます。
睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類があります。レム睡眠は記憶を整理する時間、ノンレム睡眠は脳が深く休息する時間です。本来ならノンレム睡眠のときに脳はしっかり休むはずですが、夢を見すぎると起きているときとほぼ同じエネルギーを消費してしまいます。
最近の研究では、脳が休んでいる間に「老廃物を排出して自浄作用を働かせる」ことが分かっています。
しかし、睡眠不足が続くと老廃物がたまり、翌日に眠気や集中力の低下を引き起こします。さらに、それが慢性化するとアルツハイマー型認知症のリスクが高まる可能性もあるのです。
血の巡りが良くなると、夢の回数が減り、深く眠れるようになります。自分の血流が足りているかどうかを、夢の多さでチェックしてみるのも一つの方法かもしれません。
血液の生成には「体内リズム」が重要 夜11時の就寝がカギ
漢方医学では、「陰」と「陽」という概念があり、自然界のあらゆるものがこの二つのバランスで成り立っていると考えられています。なかでも午後11時から午前1時(子の刻)は、体のリズムが切り替わる大切な時間。この時間帯にしっかり眠ることが、健康にとって非常に重要としています。つまり、夜11時までに寝ることが、良質な睡眠のカギなのです。
そして、午前1~3時は血液が作られる時間帯。このプロセスがスムーズに進むことで、体は十分な血液を生み出します。しかし、この時間に起きていると、血液がうまく作られないだけでなく、体内の浄化機能も低下し、長期的にはさまざまな不調や病気の原因になります。
実際に患者の就寝時間や睡眠習慣を調べると、寝る時間が遅く、睡眠時間が短い人ほど、血液が不足する「血虚」の状態が深刻であることが分かっています。健康な体を維持するためにも、できるだけ早めの就寝を心がけたいですね。
体内時計を整えるなら、朝7時に太陽の光を浴びよう
寝室に遮光カーテンを使っていますか? もし使っているなら、思い切って外してみましょう。遮光カーテンは確かに夜ぐっすり眠るのには役立ちますが、朝の目覚めを妨げ、不眠の原因になることもあります。
快適な睡眠のためには、光を適度に通すレースカーテンを使うのが理想的です。人間の体は眠っている間も、夜から朝にかけての光の変化を感じ取っています。朝日が少しずつ部屋を明るくすることで、自然に目覚めやすくなり、すっきりとした朝を迎えられるのです。
また、朝起きたら5分ほど太陽の光を浴びることも、不眠を改善するためにとても重要です。
太陽の光は、私たちの体内時計を調整する役割を果たしています。
脳の「松果体」は、体内時計を整えるホルモンであるメラトニンを分泌しますが、朝に日光を浴びるとその分泌が抑えられます。そして、約15〜16時間後に再びメラトニンの分泌が始まり、自然に眠くなるのです。例えば、夜11時に眠くなりたい場合は、朝7時にしっかり太陽の光を浴びることが大切です。
さらに、メラトニンや「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンの材料となるのが、トリプトファンというアミノ酸です。この成分は、大豆製品や肉・魚などの動物性たんぱく質に多く含まれています。そのため、しっかりたんぱく質と鉄分を摂ることは、血液を十分に作ることにもつながり、結果として質の良い睡眠を促します。これらの栄養が不足すると、夜にメラトニンが十分に作られず、セロトニンの分泌量も減少してしまいます。その結果、気分が落ち込みやすくなったり、睡眠の質が低下したりする可能性があります。
就寝前の「完全呼吸」で睡眠の質を大幅アップ
血液が不足していると、血流が滞り、体内に酸素をうまく運べなくなります。その結果、全身が軽い酸欠状態になってしまいます。しかし、深呼吸をすることで酸素が体内を巡り、細胞の新陳代謝が活発になり、体が自然と温まります。
さらに、深呼吸を少し工夫するだけで、より高い効果が期待できます。
東洋医学には「魄(はく)」という概念があり、これは心と体が一体となった状態を指します。脈拍のリズムと呼吸のリズムは密接に関係しており、現代医学でいう「扁桃体(へんとうたい)」の働きともよく似ています。
実際に扁桃体の脳波を調べると、呼吸と完全に連動していることが分かっています。不安を感じているときは、扁桃体が活発になり、それに伴って呼吸も速くなります。しかし、意識的にゆっくりと呼吸をすることで、扁桃体の働きが落ち着き、不安が和らぐのです。
このときにおすすめなのが「完全呼吸」です。完全呼吸とは、腹式呼吸と胸式呼吸を同時に行う呼吸法のこと。通常、人の呼吸は「吸う:吐く」の割合が「1:1」ですが、完全呼吸ではこの割合を「1:2」にします。つまり、「吸う時間の2倍の長さで息を吐く」ことがポイントです。
目安としては、4秒かけて息を吸い、8秒かけて息を吐きます。息を吸うと交感神経が優位になり、吐くと副交感神経が優位になるため、ゆっくりと息を吐くことで体がリラックスしやすくなります。
完全呼吸のやり方
- まず、息をすべて吐き切る
- 鼻から息を吸い、まずお腹を膨らませ(腹式呼吸)、次に胸にも空気を入れる(胸式呼吸)
- 息を止め、お尻の筋肉を軽く締める
- 口から息を吐く(吸った時間の2倍の長さを意識し、できるだけ吐き切る)
- これを3回繰り返す
完全呼吸は、一日のうちいつ行っても構いませんが、特に就寝前に行うのがおすすめです。一日の疲れを癒し、心身をリラックスさせる効果があるため、スムーズに眠りにつくことができます。ベッドに横になったまま行うと、より自然に体を休めることができます。3回の完全呼吸が終わったら、あとは自分のペースでゆっくりと呼吸を続けましょう。
このとき、「今日あった楽しかったこと」や「嬉しかったこと」を思い出すと、さらにリラックス効果が高まります。ポジティブな気持ちのまま眠りにつくことで、睡眠中もその良い気分が続き、質の高い休息が得られるのです。
人生の約3分の1は睡眠時間。どうせなら、その時間をより心地よく過ごしたいものです。たった3回の呼吸でリラックスできるなら、毎日の習慣にしない手はありませんね。
(翻訳編集 華山律)
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