眠れないときに温かい牛乳にハチミツを入れて飲むという方法を試したことがある人も多いのではないでしょうか。この習慣は何世紀にもわたって受け継がれてきたものですが、単に気持ちを落ち着かせるだけでなく、科学的にも睡眠を助ける効果があることが分かっています。
その鍵となるのが、牛乳とハチミツに含まれる炭水化物です。炭水化物には、心と体をリラックスさせ、眠りにつきやすくする働きがあるとされています。
炭水化物はどのように睡眠を促すのか
炭水化物を摂取すると、体内でインスリンと呼ばれるホルモンが分泌されます。インスリンは、血液中のトリプトファン(必須アミノ酸の一種)の濃度を高める働きがあります。これにより、より多くのトリプトファンが脳に取り込まれ、セロトニンやメラトニンへと変換されます。これらは睡眠を調整する重要な神経伝達物質です。
「適量の良質な炭水化物を摂取することで、入眠時間、睡眠時間、睡眠の質を改善できます」と、ART Health Solutionsの栄養士メアリー・カリスティン(Mary Curristin)氏は『大紀元時報』の取材で語っています。
一般的に、極端に低炭水化物な食事では、炭水化物の摂取量を1日50g以下に制限します。標準的な低炭水化物食では、1日50g~150gの範囲とされています。どちらの食事法も、睡眠障害と関連する可能性があると考えられています。
炭水化物は、睡眠時間や睡眠の質だけでなく、睡眠の種類にも影響を与えます。研究によると、炭水化物の摂取量が十分な場合、低炭水化物の食事と比べて、レム睡眠(夢を見る睡眠段階)が約9分間延長されることが確認されています。レム睡眠は、脳の修復や記憶の整理に欠かせない重要なプロセスです。
ただし、炭水化物を多く摂ればよいというわけではありません。睡眠を最適化するには、夕食の摂取量・食べる時間・炭水化物の種類が重要です。
睡眠の質を高めるためには、食物繊維が豊富で血糖値の上昇が緩やかな低GI(グリセミック・インデックス)の食品を選ぶことがポイントです。これらの炭水化物は、不眠のリスクを低下させ、より深い睡眠をもたらすとされています。一方で、糖分や精製されたデンプンを多く含む食事は、睡眠中の覚醒回数を増やすことが分かっています。
精製糖や加工デンプンの摂取は、睡眠を妨げる可能性があります。しかし、天然の炭水化物(生ハチミツや牛乳など)を適量摂取することで、睡眠を促進する効果が期待できます。ハチミツはインスリンの分泌を促し、牛乳にはメラトニンの生成に必要なトリプトファンが含まれています。この2つを組み合わせて適量摂取することで、より良い睡眠をサポートすると考えられています。
3万9千人以上を対象とした研究では、全粒穀物、果物、非デンプン系野菜などを含む良質な炭水化物を摂取することで、睡眠の質が向上することが示されました。しかし、研究者は「炭水化物の摂取量には上限がある」とも指摘しています。1日の炭水化物摂取量が230gを超えると、睡眠の質が低下する傾向が見られました。
具体的には、中くらいのリンゴ5個(1個あたり約45gの炭水化物)や、茹でたパスタ2.5カップ(1カップあたり約90gの炭水化物)に相当します。これらを参考に、自分に合った適量を心がけることが重要です。
毎日の食事と間食の選び方
健康的な炭水化物を適量摂取する場合、1日の炭水化物摂取量は100〜150gが目安とされています。これにより、適正な体重を維持しながら健康をサポートできます。一方で、活動量の多い人は150〜200gの炭水化物を摂ることで、エネルギーを補い、睡眠の質を向上させることができます。
食物繊維を多く含む炭水化物は、睡眠により良い影響を与えます。ただし、繊維自体に直接的な睡眠促進効果があるわけではありません。繊維はインスリンの分泌を刺激しないため、メラトニンの生成を促す働きはありません。しかし、繊維とデンプン(全粒穀物や果物に含まれる)の組み合わせは、より良い睡眠をサポートすると考えられています。
1日100〜150gの炭水化物を摂る食事例:
- 朝食:ゆで卵2個、オートミール約45g(炭水化物約27g)、ベリー約40〜45g(炭水化物約6g)
- 昼食:キヌア約30〜35g(炭水化物約20g)、焼いた鶏胸肉、葉物野菜
- 間食:中サイズのリンゴ1個(25gの炭水化物)、アーモンドひと握り
- 夕食:玄米約50g(炭水化物約22g)、焼きサーモン、蒸したブロッコリー
- 夜の軽食:小さめのバナナ1本(23gの炭水化物)、カッテージチーズ
1日150〜200gの炭水化物を摂る食事例(活動量の多い人向け):
- 朝食:オートミール約90g(炭水化物約54g)、チアシード、ベリー約40〜50g(炭水化物約6g)、アーモンドバター大さじ1
- 昼食:レンズ豆のスープ1杯(約75gのレンズ豆使用、炭水化物約30g)、焼いた鶏胸肉
- 間食:中サイズのリンゴ1個(25gの炭水化物)、ギリシャヨーグルト1個
- 夕食:さつまいも約110〜135g(炭水化物約27g)、焼いた七面鳥の胸肉、炒めたほうれん草
- 夜の軽食:カッテージチーズ約120g、ベリー約100g(炭水化物約20g)
また、野菜にも炭水化物が含まれており、その量は少ないものの、1日の摂取量として積み重なります。そのため、食事計画を立てる際には野菜の炭水化物量も考慮することが重要です。
睡眠の質を向上させる間食について、ART Health Solutionsの栄養士メアリー・カリスティン氏と、米国栄養・食事学会(AND)のスポークスパーソンである登録栄養士デビー・プティパン(Debbie Petitpain)氏は、以下のような選択肢を推奨しています。
- オートミールボウル(オートミール、ギリシャヨーグルト、ミックスナッツ、シナモン、ハチミツ)。カリスティン氏によると、複合炭水化物、マグネシウム、トリプトファンが含まれており、リラックスと睡眠を促す効果が期待できます。
- バナナとアーモンドバター。プティパン氏によると、バナナには天然の糖分、カリウム、マグネシウムが含まれ、アーモンドバターは健康的な脂質と少量のタンパク質を補給できるため、睡眠をサポートするのに適しています。
- 全粒クラッカーとフムス(ひよこ豆のペースト)。プティパン氏は、ゆっくり消化される炭水化物と少量のタンパク質を組み合わせることで、血糖値を安定させ、リラックス効果を高めると説明しています。
また、一日の締めくくりに、温かい牛乳とはちみつを試してみるのもおすすめです。これは何世紀にもわたって実践されてきた方法であり、睡眠を促すのに役立つと考えられています。
タイミングが重要
摂取する炭水化物の質や、組み合わせる食品の種類は重要ですが、それと同じくらい食べるタイミングも大切です。
カリスティン氏によると、就寝の3~4時間前に炭水化物を摂取すると、セロトニンとメラトニンの生成が促進されるとされています。これらのホルモンは、睡眠のリズムを調整し、質の良い眠りをサポートする働きがあります。
このタイミングで炭水化物を摂取することで、血糖値とインスリンのレベルが徐々に上昇し、安定するため、入眠前にセロトニンとメラトニンが継続的に生成される環境が整うと考えられています。
(翻訳編集 華山律)
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