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待つ力が若さに

忍耐が細胞の老化を遅らせる仕組み

17歳のとき、米国を離れ、メキシコの田舎の小さな農場でギャップイヤーを過ごし、そこで時間との異なる関係を発見しました。

夕食のパンはビニール袋からではなく、朝にこねられた生地を数時間かけて温めた粘土製のオーブンから出てきました。夕食用に数か月前から、土地を耕し種を蒔くことから始まることもありました。雨が降り、太陽がしっかり照っていれば、やがて食料は育ちます。全ての作物には旬があり、ゆっくりとその実を実らせていきます。

この時期に、中国のことわざ「瓜熟蒂落」—「瓜は熟すと、茎から落ちる」を初めて知りました。人為的につるを揺さなくても、最も美味しい時にその実は自ずと落ちるのです。

物事には無理強いできない事が多々あり、時には、忍耐が唯一の選択肢という場合もあります。

今日、私たちは衝動的に画面をめくり、荷物をリアルタイムで追跡し、物事が予想より長くかかるとイライラします。ある調査によると、Amazonのページの読み込みが1秒遅くなると、年間16億ドルの損失を被るという結果が出ています。

私たちは時間を商品化し、待つ時間をなくすためのシステム全体を設計してきました。私たちは熟していない瓜を食べている社会です。

焦りは精神の健康を損なう破壊的な感情であり、研究が示唆するように、慌ただしい瞬間ごとに私たちの人生から何年もの時間を奪っている可能性があります。
 

焦りがあなたの細胞に影響

『PNAS』に掲載された研究では、研究者が「遅延割引」と呼ぶものをテストし、基本的には金銭的選択を通じて忍耐力を測定しました。

大学生には、明日 100 ドルを受け取るか、1 か月後に 120 ドルを受け取るかという選択肢が提示されました。

研究者は参加者のテロメアを分析しました。DNAをロープに例えると、テロメアは端にある保護部分で、生物学的老化の重要な目印です。テロメアが短いほど、細胞は老化していると、研究の著者でシンガポール国立大学の遺伝学者で心理学教授のリチャード・エブスタイン(Richard Ebstein)氏は述べました。

エブスタイン氏は、この調査結果を2人の架空の学生を例に挙げて説明しました。「アレックスは『今夜の外出に必要かもしれない!』と言って100ドルを今受け取ることを主張します」と彼はエポックタイムズに語りました。「サムは『たった1か月だから、後で自分にご褒美をあげるよう』と考えて120ドルを受け取るまで待ちます」

研究の結果、平均して「アレックス」の細胞はテロメアが短く、生物学的に細胞が老化していることが判明しました。一方、「サム」と呼ばれる学生は、細胞が若く見えることが判明しました。

「だからこそ、忍耐は単に美徳であるだけでなく、内面も外面も若さを保つ秘訣かもしれません」とエブスタイン氏は述べました。
 

急ぐことの生物学

瞬間的な焦りはすぐに細胞を殺す事はないとしても、習慣的な焦りはコルチゾールを慢性的に高く保ち、細胞に酸化ダメージを与え、炎症を起こしやすい体にします。

「2分の待ち時間に耐えられない人は、瞑想を怠り、睡眠を先延ばしにし、ファストフードに手を伸ばす可能性も高く、これらはすべてテロメアの健康に関連しています」とエブスタイン氏は述べました。

一方、忍耐強い人は待ち時間に心穏やかにお茶を飲み、バランスの取れた食事を作り、良い睡眠をとることができます。

心理的な負担も同様に記録されています。大学生の研究では、忍耐力が高い人はうつ病が47%少ないという結果が判明しました。「他人に対して忍耐強く、許すとき、ポジティブな関係を築く可能性が高まります」と、研究著者のナセル・アガババイ(Naser Aghababaei)氏は述べます。また、これらのポジティブな相互作用は自然にメンタルをも高める、と語りました。

『JAMA』に掲載された縦断研究では、3300人以上の若年成人を15年間追跡し、焦りは高血圧に繋がる事がわかりました。

焦りスコアが最も高い人は、最も低い人に比べて高血圧を発症する可能性が84%高かったです。

そして、「忍耐は予防医学です」とエブスタイン氏は述べました。
 

待つことの心理学

なぜある待ち時間は耐え難く感じられ、ある待ち時間はあっという間に過ぎるのかを理解することで、より上手に待つことができるようになります。デビッド・H・メイスター氏のエッセイ「The Psychology of Waiting Lines(待ち行列の心理学)」では、待ち時間を耐えやすくする、または耐え難くする重要な原則を特定しました。

最初の原則:占有された時間は占有されていない時間よりも早く過ぎます。アメリカの哲学者ウィリアム・ジェームズは、退屈は時間自体の経過に注意を払うことに起因する、あるいはより一般的には「見張っている鍋は決して沸騰しない」と述べました。

この洞察は現実世界で応用されています。ニューヨークのホテルで、宿泊客はエレベーターの待ち時間が長すぎると繰り返し不満を口にしました。エンジニアがエレベーターのアップグレードは費用がかかりすぎると計算したところ、スタッフが代替案としてエレベーターロビーに鏡を設置することを提案しました。

鏡が設置され、お客様は待ち時間に自分の外見を調整したり、他人の様子を見たりし始めました。エレベーターの速度は変わりませんでしたが、待ち時間に関する不満は大幅に減少しました。待ち時間の体験は、時間を短縮することではなく、どのように過ごすかによって変化したのです。

メイスター氏は他の要因も特定しました。不確実な待ち時間は既知の待ち時間よりも長く感じ、説明されない遅延は説明されたものよりも長く感じ、誰かが列に割り込む不公平な待ち時間は耐え難いものです。

カフェのカウンターで注文したのに、番号札もレシートも確認のメッセージもないのを想像してみてください。「注文はちゃんと届いているかな? ここで待つべき? それとも座って待たないといけないの?」と不安になります。サービスが始まっているのかどうかさえわからないこの不安は、「数分でお持ちします」と言われた時よりも、待ち時間がずっと長く感じられ、ストレスも溜まります。

「この提案の真実は多くのサービス組織によって発信されています」とメイスターは書きました。医療機関が「まもなく医師がお伺いします」と告げたり、航空会社が遅延時に頻繁にアナウンスを行うのも、まさにこのためです。待ち時間が予想され、説明がつくのであれば、待ち時間は正当化され、時間をどのように考えるべきかをどう教えられるかが、私たちの時間体験を形作るのです。
 

待つ脳の再配線

「焦りはすべての感情と同様に完全に正常です」と、忍耐の研究者でカリフォルニア大学リバーサイド校の心理学教授ケイト・スウィーニー氏はエポックタイムズに語りました。

場合によっては、物事を進めたり声を上げる必要があるとき、焦りは有益です。しかし、これらの感情を調節することが重要です。「短期的に感情を暴走させるのは簡単ですが…その状況で下す決定は長期的な結果をもたらす可能性があります」と彼女は述べました。幸い、感情をコントロールするツールはいくつかあります。

最初のツールは簡単なリフレーミングです。南カリフォルニアに住むスウィーニー氏は、交通渋滞でこの方法を使います。「そういう時に私がとる戦略は、たいてい『少なくとも良いポッドキャストがあるし、ガソリンもたっぷりある』といったように、状況を再評価することです」

2番目のアプローチは積極的な管理、つまり、期待を管理することで焦りを防ぐことです。ラッシュアワーに出発する場合、遅延を予想します。医者が回復に数週間かかると言うなら、奇跡を期待しないでください。

「遅延を予想すれば、それに対して焦って反応する可能性ははるかに低くなります」とスウィーニー氏は述べました。

エブスタイン氏は、焦りが高まったときは20秒間立ち止まり、深呼吸を2回(4秒吸って、6秒吐く)することを勧めています。そして、「これを急ぐことで結果が変わるか?」と自問します。深い呼吸は迷走神経を活性化し、ストレスを下げます。研究では、毎日5分のゆっくりした呼吸が酸化ストレスマーカーを下げることを示しています。

長期的な忍耐を築くために、エブスタイン氏は週1回のエクササイズを推奨します。それは、5分間自分自身に「今日できることで、将来の自分が感謝してくれることは何か?」と問いかけるというものです。これによって、前頭前野で遅延報酬(がまんして待つ力)をコントロールする神経回路が強化されます。

彼はまた、毎日の「マイクロウェイト」チャレンジを提案します。「エレベーターの待ち時間、コーヒーの抽出など、毎日一つの遅延を選び、何もしないのです。電話も、マルチタスクもなし。ただ観察する事です。60秒の退屈に耐えられるか?」これは脳に待つことが急ぐ必要がないことを教え、大きな遅延への耐性を築きます。研究では、マルチタスクや退屈の回避が衝動性を増加させることが示唆されています。
 

巧みな待ち方

「何らかの忍耐を実践せずに良い人生を送ることはできません」とアガババイ氏は述べました。「良いことは時間がかかります」

しかし、彼は重要な注意を述べます:見識のない忍耐は受動性になる可能性があります。目標は無限に待つことではなく、巧みに待つことです。

忍耐をバランスの取れた人生の必須の要素と考えてください、と彼は述べました。忍耐は不可欠ですが、他の美徳から独立して存在しません。行動する勇気、他人とつながる慈悲、待つべきときと動くべきときを知る知恵が必要です。

忍耐は物事を育み、開花させます。注意深い傾聴による共感、ゆっくりとした瞬間を味わうことによる感謝、座ることのない木を植えることによる遺産を育みます、とエブスタイン氏は述べました。

次に急がなければならないという緊急事態が発生したら、瓜を思い出してください。

忍耐を習慣、特性、または美徳として捉えるかどうかにかかわらず、教訓は同じです、とエブスタイン氏は述べました。「どのように待つかが、私たちのなりゆきを形作ります—細胞レベルにまで」

(翻訳編集 日比野真吾)

生物医学科学の理学士号と人文科学の修士号を持つ健康分野のライター。メリーランド大学で生物医学研究に従事し、NASAのデータ分析プロジェクトに参加したほか、ハーバード大学ギリシャ研究センターの客員研究員も務める。健康ジャーナリズムでは、綿密な調査をもとにした洞察を提供することを目指している。