私たちが心血管の健康について話すとき、血液を全身に送り出す中心的な役割を果たすのはもちろん心臓です。しかしその裏で、ふくらはぎの筋肉もまた、重力に逆らって血液を心臓へ戻すために絶えず収縮を繰り返すという重要な働きを担っています。このため、専門家はふくらはぎを「第二の心臓」と呼んでいます。もしふくらはぎの筋肉が弱まると、心臓や血管の機能全体に悪影響を及ぼす可能性があるのです。
静脈の健康が全身の循環を支える鍵
2021年にアメリカ血液学会が発表した研究によると、ふくらはぎのポンプ機能が低下すると、静脈血栓症の発症リスクが大きく上がり、深部静脈血栓症や肺塞栓症といった深刻な合併症につながる可能性があるとされています。
アメリカ・オハイオ州メンター市にある静脈ケアセンターの創設者であり、二つの専門分野を持つ医師のソニア・スティラー博士は、患者にふくらはぎを「第二の心臓」と説明すると、皆が納得し、「体を動かすことの重要性」に気づくと語ります。
なぜふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれるのか?
心臓は全身に血液を送り出すことは得意ですが、足や足裏から心臓へ血液を戻すことは容易ではありません。このとき活躍するのが、ふくらはぎの「ポンプ機能」です。
静脈の中には「弁(バルブ)」があり、これは血液が逆流するのを防ぐ一方通行の仕組みです。歩いたり、足を動かしたりすると、ふくらはぎの筋肉が収縮して静脈を圧迫し、血液を上へ押し上げて心臓へと送り返します。
この「ふくらはぎポンプ」が正常に働くことで、全身の血液循環が保たれているのです。
一方で、ポンプ機能が低下すると、血栓ができやすくなり、深部静脈血栓症や肺塞栓症といった命に関わる病気の引き金になることが研究で確認されています。
誰が注意すべき?「座りっぱなし」と「社会的遺伝」
スティラー医師は、長時間座りっぱなしでいるとふくらはぎのポンプ機能が衰え、血液が滞って血栓のリスクが高まると警告しています。特に次のような人は注意が必要です。
- 高齢者
- 妊婦
- 手術後で動きにくい人
- 肥満傾向のある人
さらにスティラー医師は「社会的遺伝」という考え方も紹介しています。これは、特定の遺伝子が血栓のリスクを直接高めるというより、親の生活習慣を子どもが受け継ぐことで、同じように座りがちになったり、偏った食事をとったりするようになり、その結果、似た健康リスクが生じるというものです。
足のだるさは「静脈のSOS」かも
自分の静脈が健康かどうかを知りたい場合、最もわかりやすいサインのひとつが「夕方になると脚が重く、疲れを感じる」という症状です。これは一日の活動による疲労だけでなく、血液の戻りが悪くなって老廃物が脚にたまっているサインでもあります。
こうした症状がある場合、医師の診察を受けることが第一ですが、スティラー医師は医療用の弾性ストッキング(コンプレッションソックス)を着用して血流を助けることも有効だと勧めています。
しかし、最も重要なのはやはり「日常的に体を動かすこと」。ふくらはぎの筋肉をしっかり使うことで、第二の心臓は再び活発に働き、血液循環を守る力を取り戻します。
いつでもどこでも「動く」ことが大切
長時間座りっぱなしの悪影響に対抗する最もシンプルで効果的な方法は、とにかく動くことです。静脈ケアの専門医であるソニア・スティラー医師は、いつでもどこでもできる簡単な動きとして「かかと上げ運動」をすすめています。
彼女はこう話します。「私はカフェで順番を待っているとき、こっそりかかと上げをしています。周りの人はストレッチだと思うみたいですが、私は笑って『いえ、心臓のケア中なんです』と言うんです」
スティラー医師は、このような習慣を一人ひとりが身につければ、静脈の健康状態が目に見えて改善すると強調しています。
アメリカ・サンフランシスコ州立大学の研究者エリック・ペッパー博士も、「私たちの身体は『動くため』に設計されており、『座り続けるため』にはできていない」と指摘します。
彼は次のような実践的なアドバイスを挙げています。
- 30分ごとに立ち上がって軽く動く
- オフィスでは、かかと上げ・その場足踏み・足首回しをする
- 可能なら立って作業できるデスクを使う
- スマホやパソコンのリマインダー機能で、動く習慣をサポートする
これらの提案は、2019年に44万人を対象に行われた大規模研究の結果とも一致しています。その研究では、「どれだけ運動するか」よりも、「どれだけ長く座り続けているか」のほうが、心血管疾患や糖尿病の発症リスクに強く関係していることが明らかになりました。
運動を「日常の一部」にする
運動を特別なことと考えず、歯みがきのように生活の一部にするのが理想的です。ジムに行く時間がなくても構いません。通勤途中、キッチンで料理中、テレビを見ながら――どんな場面でも、少しの動きを意識するだけでふくらはぎという「第二の心臓」がしっかり働きます。
ふくらはぎを動かせば血の巡りがよくなり、体が軽く、気持ちまで前向きになります。今すぐ、つま先立ちや足の上げ下げから始めてみましょう。小さな動きが、あなたの健康とエネルギーを確実に変えていきます。
(翻訳編集 華山律)
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