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ココアを毎日少し——炎症・心臓・体重ケアにうれしい効果

チョコレートは好きですか? ココアはその原料としてよく知られていますが、実はそれだけではありません。かつては「神の食べ物」と呼ばれ、金と同じくらい貴重とされていた神秘的な食材でした。古代南米では、マヤ文明やアステカ文明の人々がココアを贈り物や通貨、さらには薬として用いていました。ココアを粉末にしてスパイス(唐辛子やバニラなど)を加えた飲み物にし、気分を高めたり、体力をつけたり、病気を予防する目的で飲まれていたのです。

ココアがヨーロッパに伝わった初期には、特に貴族や王族の間で大変な人気を博しました。当時はココアが非常に希少で運搬も困難だったため、1杯のホットココアはまさに贅沢な楽しみとされていたのです。小さなカカオ豆には、文化、富、そして健康の秘密が詰まっていて、多くの人々が競って手に入れようとしていました。
 

ココアの健康効果とは?

ココアは気分をよくしてくれる甘い食べ物というだけでなく、実は自然の「スーパーフード」でもあります。体の内側から外側までサポートしてくれる、抗炎症作用や抗酸化作用、気分の向上、代謝の促進といった多彩な効果があります。ココアに含まれる成分には、フラバノール、ポリフェノール、マグネシウム、鉄分、カリウム、カフェイン、フェネチルアミン(PEA)などがあり、これらはどれも私たちの健康に良い影響を与えるものばかりです。

では、具体的にどんな健康効果があるのでしょうか?
 

1. 炎症を抑え、心血管を守る効果

まず注目したいのが、炎症を抑える効果と心血管の健康を守る力です。現代社会では、特に都市部の生活はストレスが多く、睡眠不足や偏った食生活(糖分や脂肪が多い食事)により、体が慢性的な炎症状態に陥りやすくなっています。こうした慢性炎症は、肥満や糖尿病、心血管疾患などさまざまな病気の原因となります。

そんな中で、ココアに含まれる「フラバノール」は、抗酸化作用を持ち、心血管疾患の予防に役立つとされています。

2015年にはハーバード大学の公衆衛生大学院が大規模な追跡調査「COSMOS試験(ココアサプリメントとマルチビタミンに関する研究)」を実施しました。この研究では65歳以上の女性と60歳以上の男性、計2万人以上が対象となり、約3年半の間追跡しました。参加者はランダムに2グループに分けられ、一方はプラセボ(偽薬)、もう一方は1日500mgのココアフラバノールを含むカプセルを摂取しました。

その結果、ココアを摂取したグループは心血管系の病気の発症率が約10%減少し、心血管疾患による死亡率はなんと27%も低下したのです。この27%の減少は、科学的にも有意な結果とされ、毎日500mgのココアフラバノールを摂ることで、心臓病による死亡リスクが確実に下がることが示されました。

この研究には派生研究もいくつかあり、そのひとつ「COSMOS – 炎症と老化研究」では、598人を対象に、2年間にわたり体内の炎症マーカーを測定しました。特に注目されたのは「高感度CRP(hs-CRP)」というたんぱく質で、これは慢性の軽度な炎症の指標とされます。研究では、ココアフラバノールを毎日500mg摂取することで、このCRPの数値が年間約8.4%低下するという結果が得られました。つまり、ココアサプリメントには炎症を抑える効果もあると考えられます。

こうした一連の研究から、ココアは特に心血管系の病気や体内の炎症に対して有益であることが明らかになっています。日常的にココアを摂ることは、体だけでなく、心の健康にも良い影響を与えてくれるかもしれません。
 

2. 脳の働きと記憶力を高める効果

ココアには、脳の働きや記憶力を向上させる効果もあります。研究によると、ココアに含まれるフラバノールは、脳内の血流を良くし、酸素の供給を増やすことで、集中力や記憶力の向上につながるとされています。

2014年に発表された学術誌『ネイチャー・ニューロサイエンス』の研究では、8週間にわたり高濃度のココアフラバノールを摂取した被験者が、記憶テストで対照グループよりも約30%高い成績を記録し、海馬への血流も明らかに改善されたと報告されています。海馬とは、脳の中にある海馬のような形をした部位で、記憶の形成に深く関わる重要な構造です。

また、先ほどご紹介したCOSMOS試験には、認知機能に関する付随研究もありました。その結果、ココアフラバノールを摂取したグループは、特に「記憶力と実行機能」において顕著な改善が見られたそうです。特に、普段からフラバノールの摂取が少ない人ほど、効果がより大きく現れたといいます。

つまり、毎日適量のココアフラバノールを取り入れることで、心臓の健康だけでなく、脳の冴えや記憶力の向上にも役立つのです。
 

3. ストレス軽減と感情の安定に

ココアには記憶力の向上だけでなく、感情を安定させたり、ストレスを和らげたりする働きもあります。たとえば、ココアに含まれる「フェネチルアミン(PEA)」は「幸せホルモン」や「恋の分子」とも呼ばれ、脳内でドーパミンの分泌を促すことで、満足感や喜びをもたらしてくれます。ちなみに、合成されたフェネチルアミンは興奮剤として使われることもありますが、ココアに含まれる天然のものは作用が穏やかで持続時間も短く、依存性や副作用の心配もありません。

さらに、ココアには「トリプトファン」という成分も含まれています。これは「セロトニン」という脳内の神経伝達物質の材料であり、セロトニンはドーパミンとは異なり、穏やかで持続的な幸福感やリラックス感を与えてくれる物質です。感情のバランスや睡眠の質にも関わっています。

つまり、気分が落ち込んでいるときや、ストレスがたまっているときにチョコレートをほんの一口食べると、ココアに含まれる天然成分が脳にやさしく働きかけ、気分を和らげてくれるのです。
 

4. 代謝の促進と体重コントロールにも

「ココア=太る」と思われがちですが、実際に体重増加の原因になるのは、チョコレートに含まれる砂糖やバターなどの添加物です。ココアそのものには、ポリフェノールやフラバノールといった天然の抗酸化成分が豊富に含まれており、これらが細胞のインスリン反応を改善し、血糖値を安定させ、インスリン感受性を高めることで、脂肪の燃焼や体重のコントロールをサポートしてくれます。

『アメリカ臨床栄養学雑誌』(American Journal of Clinical Nutrition)に掲載されたある研究では、健康な大人15人がまず7日間ココア製品を断ち、その後、100gのダークチョコレートを摂るグループと、90gのホワイトチョコレートを摂るグループに分けて、15日間の比較実験が行われました。ダークチョコレートにはココア由来の機能成分が豊富ですが、ホワイトチョコレートにはほとんど含まれていません。

実験の結果、ダークチョコレートを食べたグループでは、インスリン感受性が有意に向上し、血糖の安定性も高まりました。つまり、ココアにはブドウ糖の効率的な利用を促す働きがあり、肥満を予防する可能性があるのです。

また、観察研究では、日常的に少量の高純度ダークチョコレートを食べている人は、平均的にBMIが低く、ウエストのサイズも小さい傾向が見られました。BMIとは肥満度を示す指数で、数値が低いほど健康的とされています。ウエストのサイズが小さいということは、内臓脂肪が少ないとされ、内臓脂肪の量はさまざまな病気と関係しています。

こうした結果は、ココアがエネルギー代謝を活性化し、腸内環境の改善にも寄与していることを示しています。動物実験では、ココアに含まれるポリフェノールが脂肪生成に関わる遺伝子の働きを抑え、摂取したエネルギーを熱として放出しやすくすることも確認されています。
 

ココアの上手な摂り方と選び方のポイント

「ココアにはそんなにすごい健康効果があるのに、チョコレートをよく食べている人がかえって太ったり、肌や健康が悪くなったりするのはなぜ?」と疑問に思う方もいるかもしれませんね。

それは、チョコレートに含まれる砂糖や脂肪などの添加物が原因です。特に砂糖の摂りすぎは肥満の大きな要因のひとつです。また、チョコレート売り場を見てみると、様々な風味や種類の製品が並んでいて、同じ「ダークチョコレート」でもカカオの含有量が60%台から100%まで幅広く存在します。それでは、どのように選べばよいのでしょうか?

一般的なダークチョコレートには、カカオマス、カカオバター、そして砂糖が含まれています。たとえば定番の70%ダークチョコレートでは、およそ45%がカカオマス、25%がカカオバター、残りの30%が砂糖となっています。ここでいう「チョコレートの含有量」は、カカオマスとカカオバターの合計を指しています。つまり、含有量が高いほどカカオマスが多くなり、健康成分も豊富に含まれるということです。

そのため、最低でも70%以上のダークチョコレートを選ぶのがおすすめです。たとえば、前述のCOSMOS試験では、被験者が毎日500mgのカカオフラバノールを摂取しましたが、これは70%ダークチョコレート1枚に含まれる量に相当します。

一方で、「代用カカオ脂」を使ったチョコレートには注意が必要です。近年、カカオバターは化粧品など幅広い用途で需要が高まり、価格が上がってきています。そのため、一部のメーカーではカカオバターの代わりにパーム油などを使用することがあります。しかし、これらの代用品にはトランス脂肪酸や飽和脂肪酸が多く含まれ、心血管の健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、あまりおすすめできません。

さて、今回はここまでとなります。最後にひとことお伝えしたいのは、日常の食品には健康に良いとされる成分がたくさんありますが、私たちが期待するような効果を実際に得るのは、なかなか難しいということです。

なぜなら、多くの実験は細胞や動物を対象に行われており、人間の体とはまだ距離があるからです。また、実験では摂取量や方法が非常に厳密に管理されており、使用される量も私たちの日常とは異なります。たとえば、シンプルなココアでさえ、毎日100g摂るのはなかなか現実的ではなく、多くの人にとってはチョコレート1枚が限度かもしれません。そして、フラバノールの高濃度サプリメントとチョコレートでは、体への吸収や代謝のされ方も違ってきます。

さらに、慢性病は時間をかけてじわじわ進行するものであり、年齢や体質の変化なども関係しています。いわば「量の変化が質の変化につながる」プロセスなのです。ですから、健康状態を改善したいなら、まずは自分の体と向き合い、少しずつ食生活や生活習慣を整えていくことが大切です。無理せず、でも着実に生活を「健康モード」に切り替えていくことで、私たちは自然とより健康な自分に近づいていけるでしょう。
 
(翻訳編集 華山律)