何清漣:香港株式市場は中国株式市場の二の舞?

【日本大紀元4月17日】中国政府と金融界は「四大商業銀行が香港株式市場に初上場する時期を決定した」ことを祝福し、中国の国有企業と民間企業が「資金囲い込み」の夢を香港株式市場に託しているが、まさにその時、一塊の暗雲が立ちこめた。その後、中国経済に関して「この金融汚職をめぐる大事件は中国各銀行の上場に影響を与えるのではないか?」という最大の懸念が浮上した。ロンドンの『フィナンシャル・タイムズ』の論評では「張恩照事件は外部の者に対し、中国の銀行業に支払い能力がなく、不良債権が巨大であるということを再度印象付けており、“これらの銀行は投資に値しない”と言ってよい」としている

この懸念は決して杞憂ではない。なぜなら、中国の四大銀行の香港上場は、やむをえない次善の策であり、数多くの証券取引所の中から香港を“選択”したということでは決してない。

中国政府は数年にわたり、世界の大株式市場の門を叩き続けたが、夢を実現するのは困難であった。そして、最後の相談相手として残されたのが、この“自家の裏庭”である香港なのである。

李(香港)が桃(中国)ためにどうして犠牲になる?

香港証券取引所は本年1月4日、建設銀行、中国銀行、交通銀行、民生銀行が本年、香港に上場することを公告するとともに、各銀行が上場時期、調達資金の規模、幹事会社等の事項について発表した。また、これら銀行の中で“フラッグシップ(最も重要なもの)”と呼ばれる中国建設銀行は、香港で50億ドルから100億ドルを調達することを計画しており、幹事会社として、シティバンク、モルガンスタンレー、中国国際金融有限公司が選定された。これら四銀行のうち、中国銀行の調達額は、上記公告において未発表であり、幹事会社もまだ確定していない。以前の報道をもとに推測すると、中国銀行のIPO(新規株式公開)幹事証券として予想されるのは、ドイツ銀行、JPモルガン、ゴールドマンサックス及びスイス銀行のうち1社であり、調達規模は30億ドルか40億ドル前後である。

しかし、この公告の背後に見えてくるのは、万策尽きた中国政府の姿である。建設銀行と中国銀行をパッケージング(一括)して上場させるため、中国政府は、昨年より450億ドルを資本注入し、これら銀行の不良債権の償却に充てた。また、政府が“大連合”を演出し、中央匯金有限会社、中国建銀投資有限会社、国家電網会社、上海宝鋼集団会社、中国長江電力株式会社を出資者とし、合計1942億元を投じて“中国建設銀行株式会社”を設立した。かくも巨大な資本を投入した目的はウォール街に進出し、確かな取引をすることであった。

昨年12月、中国のメディアが大々的に宣伝を行うと、中国のIPOは多くの人を誘惑する“牛の煮込み(買いを煽る状態)”となった。ロンドン、トロント、シンガポール等世界の大きな証券取引所が我先にと中国に押し寄せて客を奪い合った。世界の各大銀行もまた、先を争って中国と商談し、“戦略投資家”になろうとした。では、なぜ1ヶ月の内に風向きが一変し、中国は意外にも3大取引所であるニューヨーク、ロンドン、フランクフルトを捨て、上場の地として、区域限定的な香港のみを選択したのであろうか?また、宣伝を見て“中国風牛の煮込み”を買うために皿を持って行列をなした“戦略投資家”もまた態度を急変させ、儲けはもらうが損を負わない幹事会社であることのみを認め、中国の銀行(実質的に中国政府)とともにリスクを負担する“戦略的パートナー”であることを認めなくなったのはなぜなのだろうか?

この段階に到って、中国メディアは、かつて“海外の各証券取引所が中国に押し寄せて客引き”と宣伝していた頃の自信を完全に消失しており、これに代わって「香港のほかにオアシスはあるのか?」と、非常に自信のない疑念を呈している。

中国独特の足をウォール街の靴に合わせるのは困難

国有資産というケーキの最後の大きな塊である4大国有銀行を香港に放り込んだのは、中国政府の主体的な選択ということでは決してなく、やむを得ない措置であったというべきである。

どんな企業でも、上場先を選択する際には、まず資金規模、株式発行コスト、上場後のディスクロージャー等の監督環境を考慮する必要がある。この選択においては、主として次の事項が決定要因となる。

第一に、各取引所の中国企業に対する認知度が株式発行価額に及ぼす影響である。この点においてフランクフルトは全く優位性がない。この地で上場した企業はほぼ全く存在せず、中国企業に対する無知が現地投資家の購買意欲を削ぐことになる。

第二に、上場後の株式の流動性である。取引が活発でないと、企業の2回目からの調達が極めて不利になる。この点について比較衡量すると、ニューヨークがロンドン及びフランクフルトよりも優れている。

第三に、銀行の上場においては、現地証券市場における銀行株の状態を考慮しなければならない。投資家が銀行株を好むならば、中国の銀行が株式を発行するのに有利になる。この点について、ニューヨークとロンドンが伯仲しており、フランクフルトにおいては銀行株が少なく、上場しても売買高が少なくなることは必然である。

これら3大市場の特性と上場後の前途を考慮し、中国政府と銀行は以前から、ニューヨーク証券取引所に狙いをつけていた。胡錦濤や温家宝といった中国の上層部は自らアメリカの銀行とコミュニケーションをとり、国家元首の威厳をもってPR活動を行った。その意図は、アメリカ銀行業の好感を獲得し、中国の各銀行がウォール街に上場するための道路を整備し、橋渡しをすることであった。2004年の前半、時の中国建設銀行の行長であった張恩照は、かつてニューヨークを訪れ、同証券取引所などで、中国建設銀行の上場について担当官と打ち合わせを持った。中国銀行もまた、支店・本店各部門の責任者をアメリカに派遣して“国際金融機関の先進的理念と管理思想の学習”をさせた。中国工商銀行はさらに、アメリカの「SOX法案」の要求に従って企業経営とその指導のありかたを改革すると発表した。

中国はなぜニューヨークを捨てて香港を選択したのか?

違法な会計操作に慣れた中国の銀行と企業にとって、アメリカ株式市場の巨額資金の潜在力は、無論まぶしく、無限の誘惑であった。しかし、アメリカの監督制度の厳格さがその敵となってしまった。2002年7月にアメリカの国会で可決された「SOX法案」と、本法案可決後にニューヨーク証券取引所が改正した「企業統治規則(303A)」により、ニューヨークで上場する難度が大幅に高まった。

第一に、アメリカの監督制度は極めて厳格であり、株主保護のレベルが比較的高いが、上場企業へのそれは相対的に低く、上場企業の法的リスクが高くなっている。絶えざる法律上のトラブルに直面し、海外の上場企業は恐れをなしている。中国の銀行の不良債権の多さは世間の知るところであり(下表参照)、実際の経営状況が明るみに出れば、上場する望みは全くなくなってしまう。また、財務上の問題を隠蔽すれば、アメリカの投資家が訴訟を起こすリスクを抱えることになる。中国人寿保険事件はその一例である。「SOX法案」の中で、最も注目に値し、かつ最も実質的な影響を及ぼすCEO(最高経営責任者)とCFO(最高財務責任者)の個人に対し、財務諸表について責任を求める新規定であり、法案は、上場企業の詐欺行為に対する刑事罰を強化している。CEOとCFOがサインした財務諸表に問題が生じた場合、彼らはボーナスと給与を返還するほか、刑事責任を負わなければならない。この規定により、多くの中国企業の高級管理職はアメリカに上場する個人リスクを考慮せざるを得なくなった。また、ニューヨークへの上場を考えている中国国有銀行の責任者は、全て中共中央組織部が任命した副部長級である。もし、これら国有企業の上場後に、財務諸表の粉飾その他の問題が一度暴露されれば、こうした特殊な身分である大型国有企業の代表者は、アメリカの法律違反の嫌疑を受けることになる。

表:中国の銀行の不良債権比率

(評価機関)                          (銀行の不良債権比率)

中国政府(2004年3月末、対象は4大国有銀行)    1兆8900億元(19%)

中国政府(2004年9月末、対象は中国銀行を改組した中銀集団)   5.16%

スタンダード&プアーズ(2003年)                    44-45%

《中国金融リスク評価報告》(中国学者)                    35%

第二に、上場地の選定には、会計制度の差異も考慮しなければならない。ニューヨーク証券取引所はアメリカの会計原則を適用しており、ロンドンとフランクフルトは国際会計基準を適用している。この2つの会計原則の違いはあまりないが、アメリカのほうが若干厳格である。税に関して、アメリカの会計原則は、国外企業がアメリカ本土であげた利潤について、アメリカに納税することを求めている。しかし、イギリスとドイツにこうした規定はない。さらに、アメリカの納税申告はさらに厳格であり、これは国際業務を行う一部の銀行に影響を及ぼす。合併・買収、リース、減価償却についてもまた相違がある。現在、中国の銀行の多くは会計事務所に依頼し、基本的に国際会計原則に則した財務諸表を作成している。しかし、アメリカのSECの要求を満たそうとすると、数十万ページに及ぶ財務諸表の改定が必要となるが、この作業量は極めて多く、さらには高額の超過コストを負担しなければならず、かつ漏れがあってはならない。

第三に、企業情報のディスクロージャーについて、ニューヨーク証券取引所の要求レベルが他よりも高く、これが上場のコストを引き上げている。ニューヨークでは、税引後利益が2000万ドルの上場企業は、一年間の維持費が120万ドル~200万ドルにもなる。国有銀行のような企業になると、その費用は少なくとも1000万ドル以上になる。

以上の制約から、中国の国有銀行が、要求が最も過酷なニューヨーク証券取引所に上場しようとすると、必ず自らを換骨奪胎しなければならない。しかし、それは中国の銀行にとってはほぼ不可能なことである。

一方、現在の香港は、イギリスの植民地であった当時の光景が再び戻ってくることはない。1997年以後、香港は、中国の高官がマネーロンダリングをする場所、そしていかがわしい繁華街になりさがった。中国の政治文化における不正、腐敗及び無原則な機会主義といった特徴が、すでに香港に浸透してしまった。中国のメディア自身も次のように分析している。「文化が似ていることから、中国国内の企業は、香港に対して強い共通感を持っている」「香港金融管理局と香港証券取引所は、中国国内企業に対し、その特殊性を考慮して上場のプロセスにおいていくつかの免除条項を設けており、国内企業は“行き届いた柔軟性”と感じている」

その一方で、「WTO金融に関する条項」において、2006年は中国が参入障壁を除去する最後の期限となっている。

こうした事情から、中国政府には、ウォール街を徘徊して様子を伺うゆとりはない。中国銀行業の“中国独特の足”を削ってアメリカの「SOX法案」の靴に合わせるという策については、とにかく、まずは香港で資金を囲い込んで急場をしのいでから考えようということになった。

海外に上場した中国企業は訴訟が多い

中国企業は、上場を資金集めの手段とみなしてきた。これまで、中国企業は香港、ニューヨーク、ナスダック、シンガポールに上場した企業は370余りで、その市場価値は2兆1500億元(約2600億ドル前後)である。この規模は、国内A・B株の市場価値1兆2500億元よりを大きく上回る。これら海外上場企業のうち、ニューヨークに上場している企業は17で、調達規模が比較的大きい石油・石油化学、電気通信等の大型国有企業は、いずれも、同時にニューヨーク、香港の両市場に上場している。

しかし、中国で粉飾に慣れており、資金の囲い込みだけを考えて投資家に報いる責任をとらない中国企業は、アメリカにおいて、中国市場では遭遇しなかったトラブルに遭っている。イギリスの法律事務所「ハーバート・スミス」の数字によると、ニューヨークに上場している香港・中国内の企業のうち11.5%が集団訴訟を受けており、米国の店頭株式市場「ナスダック」においてはこの数字が17.2%にまで上昇する。中国人寿株式会社は、2003年12月17日にニューヨークへの上陸に成功したが、その半年後、中国国家監査署が、中国人寿集団に対する監査の結果を発表すると、中国人寿株式会社は、この結果に基づいてアメリカの投資家からの集団訴訟を受けた。その訴訟相手として、王憲章・会長、龍永図・独立取締役を含む5人の取締役の名前が挙げられていた。

予想できることとして、中国国有商業銀行をめぐる問題には、結果をもたらした相応のプロセスがあるはずである。中国の銀行監督管理委員(銀監会)は、2004年3月に「中国銀行、中国建設銀行の企業統治改革及び監督に関する指針」を発表したが、これら企業の統治改革は、決して一日で達成できるものではない。現在、中国の銀行は、半分は自分のため、半分はメンツのためという中途半端な改革をしており、銀監会の官僚自身が、次のような疑義を呈している、「(中国銀行、建設銀行)は株式会社なのに、会長と行長はなぜ中央組織部が任命するのか?」。

こうした背景の下、中国銀行と建設銀行が短期間のうちに「SOX法案」と「企業統治規則(303A)」の要求を、満たすことを期待するのは現実的でないのは明らかである。たとえ財務諸表を修正してアメリカに上場する目的を達成しても、こうした企業が後に訴訟を受ける可能性は極めて高い。昨年、かりに建設銀行がニューヨーク証券取引所への上場に成功し、最近になって張恩照の事件が発覚すれは、中国政府は必ずや、極めて困惑する事態になるだろう。

中国銀行業の深刻な問題について、国際的な投資銀行の専門家は理解していないということは決してない。例えば、BISのエコノミストは以前、「1999年に資産管理会社が国有銀行に対して発行した金融債券には政府保証がついておらず、将来償還されるのか」といった問題を提起した。また、近年来、中国銀行業の責任者が関わった大きな汚職事件は、なおのこと隠しようのない悪事であり、中国の銀行業における深刻な腐敗がその経営状態に大した影響を与えていないと考えるものは誰もいない。

香港株式市場は中国株式市場の二の舞か?

近年、中国経済のバブルが、一つ一つ相次いで破裂している。株式市場は、すでにバブルが破裂し、息も絶え絶えになっている段階である。昨年より、中国の株式市場はずっと“底値”の状態の下、“休みなく下落”している状態である。機関投資家の資金は株式市場から大規模に引き上げており、現在は、深みにはまって逃れることができない、散在する中小の民間投資家が市場を支えているのである。

中国の民衆は、中国の株式市場が、政府を胴元とする一大賭博上であることがはっきりと見えていた。数年来、政府は、民衆の十数兆元の銀行預金に対して強い関心を払っている。このため、いわゆる“国有企業の株式制改革・上場”計画は、政府の金融業務の重点の一つとなっており、「資本市場の発展、直接金融の拡大、銀行不良債権のリスクの低下」などと言い振りはまことに立派である。しかし、中国の投資家は、新株発行を“資金の囲い込み”と呼んでおり、政府が国有企業の上場を進めることの本質を見抜いている。政府・企業・投資家の3者が登場する舞台で、政府は、同時に監督と胴元等の役割を演じており、これが株式市場における多くの問題や内情の複雑化をもたらしている。現在、株式市場のファイナンス機能は衰弱状態に陥っている。興隆も衰退も、全て制度がもたらすものであり、そのリスクは、なおのこと制度化されたものである。現在の株価収益率は20倍前後にまで下落しており、その滅亡の日は間近であり、政府は救済策を欲している。

香港株式市場の長年にわたる繁栄・発達は、全て当時の香港イギリス政府の時期に作られた様々な制度に支えられてきたものである。数年間、“中国概念の株式”が香港で大量に上場した後、香港市場の投機性はすでに大幅に高まっている。現在、中国の銀行と民間企業は、一斉に香港市場で“資金の囲い込み”を狙っており、いわゆる“A+H方式”が創設された。その一方で、香港金融管理局と香港証券取引所は、意外にも「中国国内の企業に対し、その特殊性を考慮して上場のプロセスにおいていくつかの免除条項を設けること」を欲しているのである。香港市場は何と危険なことか!

TAIWAN NEWS 第178期

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