【モンゴル「草点」便り】モンゴル人は「一人ぼっち」が寂しい

【大紀元日本11月18日】草原に住むモンゴル人は、ゲル(丸いテント型の移動式家屋、直径は4~6m)で暮らしています。ゲルに入ると左右に2本の柱があり、テントの中央に煙出しと採光のための天窓が開けられていて、寝転がるとお空がぽっかりと見えます。鍋やストーブやベッドなど遊牧民の生活必需品は、簡素に無駄なく部屋のしかるべき位置に整然と納まっていて、どこにもプライベートゾーンを守る現代的な間仕切りはありません。

たった一つの大きなまるい部屋の中に包み込まれる安らぎを、モンゴルの遊牧民達は暮らしの中で自然に感じ取っているに違いありません。家族みんなが集うゲルでは、一人ぼっちの生活などありうべからざる事です。理想のゲルで一人のんびりと草原生活をしてみたいなどと考えるモンゴル人は、世界中探してもきっとどこにもいないでしょう。

そういえばこんな話があります。ようやく日本の都会暮らしに慣れたモンゴル人が、田舎へ出稼ぎに出かけました。だだっ広い部屋に泊り込んで、アルバイトをすることになりました。夜になるとまわり一面真っ暗闇で寝静まり、ヤギや鳥の鳴き声はするけれど一人ぼっちを感じてとても辛かったと語ってくれました。幽霊が出て来そうで怖かったとも・・・。

ゲルのような広さの部屋で一人ぼっちで眠る時は、明かりを点けたままにして孤独な気分を落ち着かせています。とある朝そんな現場を目撃して可笑しみを禁じえませんでした。都会で孤独に暮らすモンゴル人の就眠儀式の一つを垣間見た思いでした。

そういえば、モンゴルにはこんな民話があります。自分のシッポと影以外には友達がいない『アナグマとヤマネコ』の話です。アナグマは一人ぼっちが寂しくて、ヤマネコを訪ね、兄弟になろうよと挨拶に出かけます。するとヤマネコは「いやだ、だって君は僕が捕まえたウサギを盗ってしまったじゃないか!」アナグマはすごすごと帰って行きました。しばらくすると、今度はヤマネコも一人ぼっちが寂しくなり、思い直してアナグマのところへ出掛けて行き、「アナグマさん、兄弟になろうよ」と言いました。するとアナグマは「いやだよ、だって君は僕が大事に取って置いた鹿の足を盗って行ったじゃないか!」ヤマネコはすごすごと帰って行きました。

しばらくすると、アナグマは追い返したことを後悔して、「ヤマネコさん、兄弟になろうよ」と言いにまた出掛けました。するとヤマネコは「いやだ、だって君は僕の野ウサギを盗ったじゃないか!」アナグマはすごすごと帰って行きました・・・、こうしていつまでもアナグマとヤマネコは兄弟になることは出来ませんでした。

一人ぼっちなんて寂しいことだ。意地を張って友達を失くすより友達になればどんなにか楽しいのにという思いが、この民話のストーリーに込められているように思います。大自然の摂理とダイレクトにつながった遊牧民の草原生活では、お互いを必要とする一人ひとりの親密なつながりと役割分担がなければ暮らしていくことは出来ません。

草原生活は一人ぼっちではいられない。そんなモンゴル人が日本の都会生活で一人ぼっちを満喫する時が来るとしたら、それは新しい幸せを発見したということなのか?果たして・・・。

(ヤポンバヤル)