【エンタ・ノベル】麻雀の達人(7)-積善の家の余慶-

【大紀元日本7月8日】三人は、満福が完全に打ち負かされて精神的に崩壊したのを見届けると、さも得心が行ったという風に満足げに微笑み、「…では、終局にいたしましょうか」と告げた。

少しおいて、顔淵が「あなたの先祖である金満量は、儒学を良く修め、この教えを西方に広めるのに貢献すること大でした。しかも、時の権力者に弾圧されて亡くなるまで、その教えを貫いた儒門の功労者でした」と述べた。

郭雲は、「あなたの先祖である金道雲は、蛾眉山の道観建設に多大な寄付をされました。道士ともども厚く御礼を申し上げる」と深々と礼をし、「さらには道士の多くを自宅に招いて食客として養ったことがありました」と告げた。

良然は、「あなたの先祖である金元服は、湾で溺れていた佛家修道者を何度も船で救った命の恩人です。まさに渡りに船の大徳の士でした」と告げた。

これらを聞いた満福は、何か救われた気がした。

「では、今晩の負けは先祖の陰徳に免じてチャラということで…積善の家に余慶ありといいますし…」と満福が水を向けると、「勝負は勝負!」といって三人は譲らない。かといって満福の手元には、清算できる現金がない。三人はますますカサにかかったように「では、どうやって清算するのか!どうやって清算するのか!」と迫ってくる。

気が付くと、満福の足元にぬめぬめとした赤い液体が流れてきている。それははたして人の血液であった。卓のあちこちで清算に困った客人が、鬼たちに金棒で脳天を割られて流血している。隣の客人は、すでに脳袋が破れ、脳みそが頭から飛び出している。また腹が黒いとはらわたの中に金棒を入れられてグリグリとやられている輩もいる。

阿鼻叫喚の地獄絵図に満福は、頭を抱えて震え上がった。「先祖に徳があるのなら、何で俺がこんな目に遭わなくちゃならないんだ!」と絶叫してみるが、三人は「あの世とこの世は逆の作り、逆の発想だ」などといいながら、「どうやって清算するのか!?」「どうやって償うのか!?」と指弾の手を緩めない。

すると「騒がしいぞ!」と、奥の方から鶴の一声が轟いたかと思うと、あたりがみるみるうちに一斉に静かになった。既にあたりを制圧するかのような威厳が四方八方にヒタヒタと充満している。奥から現れたのは、優に二メートルを超そうかと言う大巨漢であった。

その巨漢は、顎に立派な髭をこれでもかという風に蓄え、筋骨隆々、腕ぶす古代の武人という風体でゆっくりと歩をすすめる。すると、一歩大地を踏みしめるたびに「亭」がぐらぐらと揺れた。巨漢は、満福の前で歩を止めると、これを見下ろしおもむろに挨拶した。「…亭主の関である」。

満福がちらりと盗むようにして拝むと、その亭主と名乗る巨漢は腰に大きな青龍刀を佩いていた。

(続く)