文・中原

益の道は時の巡りとともに

『易経』の易は変易すること。すなわち、『易経』は動的次元に立って、絶えず遷り変わる万物の末々およびそれの内なる規律を窺い知る学問である。

12月16日、世界インターネット大会が中国の烏鎭で開かれた。習近平主席は開会式で基調演説をし、『易経』益の「凡益之道、与時偕行」(いったい、益の道は時の巡りとともに行われるものである)をもって締めくくった。

05年6月から、習氏は英国訪問やシンガポール訪問の際に、かつて3回ほどこの言を述べた。今回は4回目になり、かつ基調演説の結語とした。習氏が推重する「益」は何の卦か、習氏はそれで何を発信しようとしているのか。

『易経』によれば、益は、遠くへ往くのに利(よろ)しい。大きな川を渉るのに利しい。益の彖伝ではこう記されている。

益は、上を損(へ)らして下を益すのであって、人民がこれを悦ぶことかぎりがない。上から下のものにへり下るので、その道が大いに広がるのである。遠くへ往くのに利しいとは、六二(二爻)と九五(五爻)とが中正なので慶(さいわい)があることである。大川を渉るのに利しいとは、木道(巽は木を象徴する。川を木の舟が進むのにかけて、五行説による木道が行われる)が行われることである。益は、活動して巽(へりくだ)るので、日々に進んで、その進むことかぎりがない。天が生気を布(し)き地を生い立たせるように、益の万物を益することは、言い表しようもないのである。いったい、益の道は、時の巡りとともに行われるものである。(『書経・易経』、平凡社)

『易経』の第四十二卦の益は、第四十一卦の損に相対し、周王朝の隆盛から衰微に至った史実をもって損と益との弁証的な道理を示し、とりわけ統治者に時を移さず、時機にかなった変の措置をとることを戒めるものである。

昨年から、習氏は次第に真面目(しんめんぼく)を顕し、己の執政理念と政治抱負がいよいよ顕在化してきた。伝統文化の復興、法制の重視、腐敗撲滅、軍の改革などの一連の方策は、いずれも上を損らして下を益す所為であり、ことごとく益の卦にかなった方略だ。習氏は過日の占いで、この益の卦を得たのだろうか。

年の瀬に、伝統文化を重んじる習氏は、再度「益」をアピールし、時宜にかなった抱負と共に、今こそ大なる益の道であることをあらためて示したのだ。

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私は経済記者として1990年代後半から日本経済、そしてさまざまな産業を見てきた。中でもエネルギー産業の持つ力の巨大さ、社会全体に影響を与える存在感の大きさが印象に残り、働く人の真面目さに好感を持った。特にその中の電力産業に関心を持った。