アングル:日朝交渉、安倍首相が意欲 実務協議などハードルも

[東京 26日 ロイター] – 安倍晋三政権は、拉致問題の解決を図るため、日朝首脳会談に強い意欲を示している。9月の自民党総裁選でも外交力を前面に出すことで3選を狙う構えだ。ただ、その前提となる実務者レベルでの交渉が日朝間で進んでいないとの見方が与党内にあり、一部には日朝首脳会談の早期実現はハードルが高いとの観測も浮上。自民党総裁選の行方とも絡み、同党内には、様々な思惑が交錯している。

米朝首脳会談が12日に行なわれて以降、安倍首相は北朝鮮との直接対話に強い意欲を示してきた。トランプ米大統領が米朝首脳会談で拉致問題を提起し、その後の日米首脳電話会談で「拉致問題は解決ずみ」と金正恩・朝鮮労働党委員長が発言しなかったことを確認。その直後から「米朝会談を機に北朝鮮と直接向き合う」「拉致は北朝鮮と直接、解決しなければならない」と述べていた。

複数の自民党関係者によると、金正恩委員長から「拉致問題は解決済み」との言及がなかったことを安倍首相とその周辺が評価。今後は拉致や核・ミサイル問題が解決するならば、人道支援や経済支援の検討が可能になるとのスタンスに変化してきたという。

また、安倍政権内には、早期の日朝首脳会談実現に前向きな声もあり、複数の政府・与党関係者は、8月の平壌訪問や9月中旬にロシアのウラジオストクで開催される東方経済フォーラムに出席する日朝首脳が、何らかのタイミングで会談することも選択肢の1つとして上がっているという。

だが、首脳会談の実現には、高いハードルが待ち受けている。ある自民党関係者は、金丸信・元自民党副総裁のような北朝鮮との太いパイプを持っている有力政治家が今はおらず、小泉純一郎・元首相が平壌を訪問した時のように、政府内に北朝鮮政府高官と頻繁にコンタクトできる交渉ルートもないと話す。

その自民党関係者は「現在のところ、政府ルートの日朝間の太いパイプはないだろう」と述べる。

外務省の志水史雄・アジア太平洋局参事官が今月14日、ウランバートルで開かれたモンゴル政府主催イベントで、北朝鮮のキム・ヨングク外務省軍縮平和研究所所長と接触した。

だが、北朝鮮政府内で、どのような影響力を持つポストなのかも不明で、自民党関係者の1人は「韓国の文在寅大統領とそのスタッフに相談したほうが早道」と懸念する。

また、別の自民党関係者は、安倍首相にとって、首脳会談が実現しても、拉致問題で目立った成果がなければ「政治的には逆効果になる」と話す。

このため「ウラジオストクのイベントに参加し、金委員長と短時間、会談するほうが望ましいのではないか」と述べる。

一方、国内の政治情勢をみると、今月10日の新潟県知事選で与党系候補が勝利して以降、安倍首相にとって有利な風が吹き始めた。内閣支持率をみても、支持率が不支持率を上回る結果が相次ぎ、一部の世論調査では支持率が50%を超えた。

このため自民党内でも、安倍首相の「3選が基本シナリオ」(閣僚周辺)との声が広がり出した。

萩生田光一自民幹事長代行はロイターとのインタビューで「永田町では、安倍首相3選の雰囲気が強い。『モリカケ』があって、やや、もういいんじゃないかという人もいるが、経済・安全保障、政策的には失敗していない。前進しているよね、というのが国会議員の正しい評価だ」と述べた。

財政再建を巡る姿勢などから、安倍首相に批判的な党内ベテラン議員も「トランプ大統領と互角に外交を仕切ることができるのは、安倍さんしかいない」として3選支持を明言する。

安倍首相にとって外交問題は、自民党総裁選における「得点源」ともいえ、その意味でも日朝首脳会談を「いつ」「どこで」「どのように」開催するのかは、最重要なテーマに浮上している。

 

 

(竹本能文 編集:田巻一彦)

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