五月待つ花橘(はなたちばな)の香をかげば昔の人の袖の香ぞする(古今集)
歌意「五月(さつき)に咲く橘の花を、今年も心待ちにしてきました。その香をかぐと、昔親しかった、あの殿方の袖の香を思い出せますもの」。
よみ人知らずの歌です。「袖の香」の持ち主は男性ですので、歌の作者は女性でしょう。作者が男性であれば、女性がもつ「長く美しい髪」を歌に詠んだはずです。柑橘類である橘は、花は鑑賞の対象になりませんが、芳香がすばらしいので文学の題材となります。
ちなみに顔の美醜については、和歌の世界ではあまり題材になりません。なにしろ暗くて、相手がほとんど見えない室内での恋愛ですので。
古文での五月は、ほぼ新暦6月に当たります。橘の花も、ちょうど今の季節です。
(聡)
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