行きなやむ牛の歩みに立つちりの風さへあつき夏の小車(玉葉集)
歌意「真夏の炎天下。荷車を引く牛の歩みは重く、行き悩んでいるようだ。その車が巻き上げるのは、乾いた地面から立つ土ぼこり。風さえも熱気を帯びていて、よけいに暑さを感じさせる」。
藤原定家(1162~1241)の歌です。平安貴族による栄華の時代から二百年が下ったこの頃には、何やら夏の風景までが気だるさを思わせます。歌中の「小車」は、貴人が乗る牛車(ぎっしゃ)ではなく、庶民がつかう荷車と思われます。
不思議なことに、日本には「馬車の歴史」がありません。朝鮮半島から日本にもたらされた在来馬(木曽馬など)は、山地の荷駄には適していますが、都大路で重い木輪の車を引くには力不足だったのです。
(聡)
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