【芸術秘話】氷の上の肖像画

18世紀の肖像画家ギルバート・スチュアートはロンドンで順調に画家として名を広め、多くの上流社会の人々から肖像画を依頼されました。

雪が降ったばかりのこの日、ウィリアム・グラントという若い男性がスチュアートのアトリエにやってきて、自身の肖像画の作成を依頼しました。しかし、この若い弁護士はずっと同じポーズを保っていることが苦手で、窓から外の雪景色を眺めながら、「こういう日はじっと座っているより、外でアイススケートをしているほうがずっと楽しいだろうな」とつぶやきました。

この言葉がスチュアートの興味を引きました。当時、ロンドンには人工的に作られた湖があり、冬の間、多くの人がそこでスケートを楽しんでいました。2人はその場所へと向かい、ともにスケートを楽しむことにしました。意外にも、スチュアートは画家として才能があるだけでなく、運動神経も良くて、スイスイと氷の上を滑っていきました。

しかしその一方で、自らスケートがしたいと言ったにもかかわらず、氷の上に立ったグラントは固まってしまい、ずっとスチュアートの服を掴んだまま全く動こうとしません。それどころか、ここに来たことを後悔したのか、早くアトリエに帰ろうと言い出し、一刻も早くこの場から離れたがりました。

今回の外出が気晴らしになったのか、スチュアートの頭の中に、ある考えが突然ひらめきました。スチュアートはアトリエに戻ると、直ちに絵筆を取り、グラントの肖像画のスケッチを修正し、彼がスケートしている姿を想像して描き始めたのです。

グラントが余裕をもって氷の上を滑っているこの作品を見て、本当は彼が全く滑れないことが分かる人などいるでしょうか。

これはイギリス絵画史上初の、動いている最中の姿を描いた肖像画であり、もちろん、大成功を収めました。

グラントが腕を組みながら滑っているというおかしなポーズに違和感を感じる人もいるでしょう。実はこのポーズ、18世紀における典型的なスケート姿勢なのです。

(翻訳編集・天野秀)

史多華