オピオイド系鎮痛剤 (Photo by John Moore/Getty Images)

中国が危険な薬物前駆体の主要供給元=調査

幾数かの中国犯罪組織の総称「三合会」の継続的な活動と中国の法執行機関の取り締まりの曖昧さが相まって、現在も危険な合成薬物の生産・流通が横行するという状況が続いている。

最近の研究によると、強い中枢興奮作用のあるメタンフェタミン類や合成オピオイドのフェンタニルなどの薬物がインド太平洋地域と米国の違法薬物市場に溢れている。こうした薬物は人生の破綻だけでなく、死をも招き得る。

ブルッキングス研究所の非国家武装集団イニシアチブを率いる上級研究員、バンダ・フェルバブ-ブラウン博士は、3月下旬に開催された同研究所のウェビナーで、「米国だけでなく、北米全域におけるフェンタニル製造に関連する前駆体化学物質の主要供給元は依然として中国である」とし、中国の法執行機関が「フェンタニルだけでなく、東南アジアで氾濫しているメタンフェタミンの前駆体化学物質の主要供給元である三合会の上層部を取り締まることは滅多にない」と述べている。

フェルバブ-ブラウン博士の見解は、2021年後半にインド太平洋地域と米州の麻薬捜査官、法執行官、企業幹部や実業家、調査報道記者を対象として実施された94件の現地調査の結果に基づいている。

同博士の説明によると、2020年10月から2021年9月の間に薬物の過剰摂取により死亡した10万人超の米国人のうち、オピオイド系薬物による死者は約8万人に上っている。

インド太平洋地域の正確な統計を入手するのは容易ではないが、利用できるデータに基づくと、2019年にオーストラリアで発生した薬物過剰摂による死者は2,000人、また違法薬物使用者数が400万人に上るインドネシアでは1日あたり推定33人の死者が報告されているなど、危機が急上昇している様子が伺える。

同博士が説明したところでは、国内における政府機関からの圧力の高まりに伴い、違法合成薬物を供給する中国犯罪組織は合成後の薬物を販売する代わりに、メキシコやミャンマーなどの地域に、フェンタニルやメタンフェタミンなどの薬物が合成される前段階の物質である前駆体化学物質を流すようになった。

同博士の知見から、現在、東アジアとメキシコにおけるメタンフェタミンの前駆体化学物質の主要供給元は中国であることが明らかにされた。同博士は、「中国からの前駆体化学物質はミャンマーなどの東南アジアの違法薬物生産者に流されている」とし、「その後、三合会といった中国の麻薬密輸網を通じて、アジア、オーストラリア、ニュージーランドへとメタンフェタミンが流れていく。メキシコの麻薬組織も中国から前駆体化学物質を仕入れ、米国などの他地域でメタンフェタミンの結晶や粉末を販売している」と説明している。

同博士が指摘したところでは、オーストラリアの闇市場に出回るメタンフェタミンは今も中国シンジケートが操作しているが、これはミャンマーで合成・製造されたものである。

中国では2019年5月からオピオイド(フェンタニル)系医薬品の全薬効分類と2種類の主要フェンタニル前駆体がより厳格に規制されるようになったが、同博士によると、中国犯罪組織がメキシコに出荷するのは汎用性の高い未規制の化学物質であり、これを麻薬の前駆体として使用するのはメキシコ側の製造施設であるため、出荷元の中国組織側が罪に問われることはない。

ウェビナーの開催と並行して2022年3月に発行された同博士の報告書には、中国政府は中国犯罪シンジケートが「政府のわずかばかりの条件に反しない限り」その運営に介入することはないと記されている。また、同報告書には「中国の政治的・戦略的・経済的利益の促進に手を貸すことで、中国犯罪組織は海外の中国機関や政府関係者と持ちつ持たれつの関係を構築している」とも記されている。

同博士が説明したところでは、中国政府にはメキシコの違法麻薬取引に対する責任を負う気は毛頭なく、同事態を規制して取り締まる義務はメキシコの税関当局と法執行機関であると一貫して主張を続けている。中国犯罪組織がマネーロンダリングに従事し、「野生生物の物々交換」を隠れ蓑として違法薬物取引を実施しているという多くの証拠が上がっていても、中国政府がこの主張を曲げることは決してない。

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