今、mRNA技術を用いた遺伝子治療の対象となる食品が増えている。最近では、エビの養殖にmRNAワクチンを導入することを目指すイスラエルのある企業が、投資家グループから825万ドル(約12億円)を調達した。経口投与のRNA粒子プラットフォームを通じて海洋種の動物の健康を促進・改善するためだという。
バイオテクノロジー企業のViAqua社は、リボ核酸干渉(RNAi)を利用してエビの遺伝子発現を操作するRNAベースのワクチン製品を開発した。RNAiとは、RNA分子が標的のmRNA分子を中和することによって遺伝子の発現や翻訳を制御する生物学的プロセスだ。
このワクチンは、白点症候群(WSSV)に対する抵抗力を強化するために設計された飼料サプリメントの形で提供される。白点症候群は、年間約30億ドル(約4480億円)の損失と世界で15%のエビ漁獲量の減少をもたらすウイルス感染症だ。ViAqua社は、食品に含まれるRNA分子が、病気の原因となる遺伝子発現を抑制できると指摘している。
2022年に実施されたPoC試験では、このワクチンは致死的なWSSVの抗原投与モデルにおいて約80%の効果を示し、優れた生体内での安全性プロファイルを示した。しかし、エビの遺伝子発現を変化させるリスクや、ワクチン接種を受けたエビを摂取することの影響は未知数である。
ViAqua社のシャイ・ウファズ最高経営責任者(CEO)はプレスリリースでこう述べた。
「経口投与は、個々のエビにワクチンを接種することが不可能であることと、疾病管理の運用コストを大幅に削減しながら結果を改善できる能力の両方から、養殖衛生開発における聖杯です。我々は、水産養殖における手頃な価格の疾病ソリューションの必要性に応えるために、この技術を市場に投入できることを嬉しく思います」
プレスリリースによると、ViAqua社は2024年にインドで生産を開始する予定で、自社技術を養殖業やそれ以外の分野にも数多く応用できると考えているようだ。
mRNAワクチンはすでに豚に使用されている
mRNAワクチンの標的とされているのは水産養殖業界だけではない。
動物用のmRNAワクチンを開発する新興企業、Genvax Technologiesは昨年、自己増幅型mRNA(saRNA)のプラットフォームを開発するために650万ドル(約9億6千万円)の資金を確保した。このプラットフォームは、疾病発生の原因となる循環している変異体に100%一致する群れ特異的ワクチンの迅速な開発を可能にする。
Genvax社の技術では、変異株に適合した特定の導入遺伝子または「目的の遺伝子」をプラットフォームに挿入する。その後、saRNAは、循環している株と病原体全体を一致させることなく、抗体反応を引き起こす。
昨年4月、Genvax社は米国農務省と共同でアフリカ豚熱(ASF)用のsaRNAワクチンを開発するため、食品農業研究財団から14万5千ドル(約2200万円)の助成金を授与された。ASFは感染力の強いウイルスであり、豚の死亡率は100%に達する。米国で発生したことはない。
「eClinicalMedicine」に掲載された2022年の論文によると、saRNA技術は脂質ナノ粒子(LNP)を用いてsaRNAをカプセル化しており、ワクチンとして注射すると、「エンドソームへの取り込みと生体内での標的細胞の細胞質への放出」が促進されるという。この新技術は、医薬品やワクチンに使用される「重要かつ未検証の可能性」を持っているという。
豚にmRNA技術を活用する企業はGenvax社が最初ではない。Merck社は2018年、「革命的な豚ワクチンプラットフォーム」であるSEQUIVITYを発表。RNA粒子技術を利用して「豚のA型インフルエンザウイルス株、豚サーコウイルス(PCV)、ロタウイルス、およびそれ以外のウイルス株に対するカスタマイズされた処方ワクチン」を作成するという。
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SEQUIVITYは、電子的遺伝子配列決定法を用いてRNA粒子を生成し、動物への注射によって、その配列をタンパク質に翻訳するよう免疫細胞に指示を与え、そのタンパク質が抗原として働く。これは、新型コロナワクチンが体内でスパイクタンパク質を生成させるのと似ている。つまり、動物の免疫系が実際の生きた病原体と接触したときに抗原を認識し、免疫反応を引き起こすということだ。
Merck社によれば、同社のRNA分子技術により、開発に何年もかかる従来のワクチンと比較して、「安全で柔軟な」カスタム豚インフルエンザワクチンをわずか8〜12週間で開発できるという。
RNA技術を利用したワクチンは安全で効果的であると主張されているが、ワクチン接種を受けた豚肉を摂取することが人体にどのような影響を及ぼすかについての研究はほとんど行われていないのが現状だ。
牛のmRNAワクチン、生産者の間で懸念高まる
全米牛肉協会によれば、mRNAワクチンは現在、米国産肉牛への使用は許可されていない。しかし、病気の治療と予防のために開発されたワクチンを接種した牛肉が食卓に上る可能性もある。
米国の畜産業の継続的な収益性と存続可能性を確保することを目的とし、5千人以上の会員を擁する非営利団体「R-CALF USA」は、mRNAワクチンの牛への使用について懸念を表明している。
2023年4月、同団体は世界の食料サプライチェーンにおけるmRNA注射の状況について、医学博士や分子生物学者と面談を行なった。獣医のマックス・ソーンズベリー氏が報告したところによると、mRNAとそれにコード化されたウイルスが、注射を受けた動物の乳製品や肉製品を介して、それを摂取した人間に移行する可能性があることを発見した研究者がいるという。
ソーンズベリー氏は、mRNAワクチンを注射された家畜の肉を摂取した場合の効果や未知の長期的影響について懸念を示し、より広範な研究を求めた。米国はまだmRNAワクチンの牛への使用を承認していないにもかかわらず、mRNAワクチンを牛に接種している他国、あるいは接種を計画している他国からの牛肉の輸入を増やしている。
「これは、COOL(原産国表示)の義務が緊急に必要であることを示しています。消費者には、mRNAが牛に投与されている国の牛肉を消費するかどうかを選択する権利があります。取りうる唯一の方法は、議会が牛肉に対するCOOLの義務化を可決することです」と、ソーンズベリー氏は語った。
R-CALF USAは、今後開かれる会合で組織の政策方針を策定する予定だが、米国の消費者が、購入する牛肉の産地が物議をかもすmRNA技術を牛に使用している国であるかどうかを知ることができるよう、「原産国表示義務の必要性を強く主張する」としている。
CEOのビル・ブラード氏は、ウェブサイトに掲載された論説の中で、同団体がその立場のために攻撃されていると述べた。製薬会社の支援を受けた出版物から、「恐怖を煽り、誤った情報を流している」と非難されたという。
「アイオワ州立大学の研究者は、牛RSウイルス感染に対する牛のmRNAワクチンシステムを試験するため、米国農務省に数年にわたる研究プロジェクトを提出しました」
「提出された書類によれば、研究者はプロジェクトの2年目に、2026年の完了を目標に、牛を用いたmRNAのテストを計画していました。このような研究プロジェクトを、米国産の牛へのmRNA注射の承認を得るための努力の表れであると考えないのは甘いです」
ブラード氏は、「製薬会社や政府を簡単に信用しないように」と人々に呼びかけた。
「私たちは、様々な科学的知見を開示し続け、牛へのmRNA注射の長期的影響についてさらなる研究を求め、製薬会社や政府にさらなる透明性を要求することで、真実を学ぶつもりです」
さらに同団体は、人々には摂取する食肉がmRNA技術を注入された動物のものであるかどうかを知る権利があると考えていると表明している。
テネシー州、アイダホ州、アリゾナ州、テキサス州、ミズーリ州などいくつかの州では、mRNAワクチンを投与した動物由来の製品に表示を義務付ける法案がすでに起草または提案されている。
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