東大 コバルト不要のリチウムイオン電池開発! 

高容量かつ劣化しにくい

リチウム電池の世界的な需要の高まりにより、金属コバルトの需要も上昇しています。しかし、時間の経過とともに、また他の地政学的要因等によって、コバルトは地球規模の不足が起こるかもしれません。東京大学は最近、リチウム電池に使われるコバルトを代替する方法を開発しました。

リチウムイオン電池(LIB)は、エネルギー密度が高く、寿命が長いです。過去数十年間、モバイルデバイスや機器に電力を供給する標準となってきましたが、蓄電量やエネルギー密度は時間の経過と共に低下してしまいます。そのため、より優れた電池の開発が急務となっていたのです。

東京大学が新しい電極と特殊電解液を開発し、この劣化問題を解決しました。新しいリチウムイオン電池は、コバルトを含まない状況でも、平均電圧4.3 Vを実現しています。1千回以上のフル充放電を繰り返しても良好な電池容量を維持できます。さらに、この新しい電池のエネルギー密度は、過去のものよりも60%高いです。これは以前には考えられなかった進歩です。

このリチウム電池の正極は酸化ケイ素(SiOx)、負極はリチウム・ニッケル・マンガン酸化物(LiNi0.5Mn1.5O4)です。電解液はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiFSI)と炭酸メチル2、2、2(FEMC)です。この組み合わせにより、正極表面の劣化が効果的に抑制され、電解液は溶解しやすい負極に対して高い抑制効果を果たしているため、電池全体の安定性が向上したのです。

上記の高濃度(3.4M)の電解液は、低濃度(1.0M)の電解液と比較して、不安定なリチウムイオンとの密接な関係を築くのに優れていることが研究者によって発見されました。これにより、リチウムイオン電池はより安定しています。

研究者らは、充放電サイクル試験も行いました。実験の結果、前述の高濃度電解液を使用した電池は、80サイクル後も93%の容量を維持します。放電効率も97%で、いずれも低濃度電解液を使用した場合の数値を大きく上回っています。高濃度電解液を使用する電池は、電位が4.9Vに達します。100回の充放電サイクルを経ても電池容量の保持率は90%以上で、放電効率は約99%です。低濃度電解液を使用する電池よりも優れた性能を示したのです。

研究チームは、濃度の異なる電解液を使用したリチウムイオン電池を、通常の商用リチウムイオン電池と同時に300回、500回、1千回の充放電サイクル実験にかけました。その結果、電解液濃度の高い新型リチウム電池が最も性能が良い結果となりました。

500回以上の充放電を繰り返しても、電池容量の劣化はごくわずかで、放電効率は約100%でした。電池全体で1千回以上の長期充放電を繰り返しても、容量低下はわずか20%程度です。一方、従来のリチウム電池は電圧が3.2V〜3.7Vで、充放電サイクルが500回しかできません。高い新型リチウム電池はより優れた性能を出したのです。

研究者らは今後、将来的には電極材料と電池設計を最適化し、電池の全体的な性能と安全性を向上させ、さまざまな過酷な環境での性能と正常な動作を維持できるようにする予定です。

コンゴ民主共和国の採掘環境に関する報道、過酷な労働環境なども、研究者らがリチウムイオン電池を改善しなければならない理由です。また、供給面では、現地の政治的・経済的不安定さからコバルトの調達先が問題になっており、コバルトの使用を断念したいと考えています。

東京大学研究科化学システム工学専攻の山田淳夫(Atsuo Yamada)教授は、「新しい電池の化学的性質の初期バージョンで発生し、電池の寿命を大幅に縮める可能性のあるさまざまな望ましくない反応を抑えるのに苦労しましたが、これまでの結果には満足しています。しかし、安全性と長寿命をさらに向上させるためには、軽微な反応を抑える必要があります。現時点では、この研究が多くの用途で、バッテリーの改善につながると確信しています。しかし、極端な耐久性と寿命が要求される用途では、まだ満足できないかもしれません」と述べました。

山田教授とその研究開発チームは、リチウムイオン電池の応用を拡大しています。最近開発した新しいリチウム電池は、水の分解による水素と酸素の生成、鉱石の製錬、電気メッキなど、他の電気化学プロセスや装置にも使用できます。
本研究成果は、10月19日付の英国の学術雑誌「Nature Sustainability」電子版に掲載され、8千回以上閲覧されました。20以上のメディアがこの研究について報道したのです。

吴瑞昌