5年ごとにがん患者にワクチンを接種する計画について

ノーベル賞受賞者が語るがんのmRNA治療、安全性めぐる議論は割れる

ノーベル賞受賞者のドリュー・ワイズマン博士は昨年12月、がんのリスクが高い人々の発症を予防するためにmRNA技術を利用する計画について語りました。

ワイズマン博士は、昨年12月7日のノーベル賞受賞記念講演のなかで、mRNAワクチンによるがんの予防を提案しました。

「ここでの考え方は、がんになる前に治療するということです」

ワイズマン博士は昨年、カタリン・カリコ博士とともにノーベル医学賞を受賞しました。受賞理由は、実験室で合成されたmRNAが体内に注入された際に、免疫系が炎症反応を起こすのを防ぐ手法を開発し、それによって、この医療技術の治療利用を可能にしたことです。

両氏の開発した手法により、mRNAコロナワクチンの迅速な開発が可能になりました。現在、ワイズマン博士とペンシルベニア大学のチームは、mRNA技術をがん治療に応用することに注力しています。

同博士と研究チームは、mRNAを利用して体内でがん細胞を死滅させる免疫反応を引き起こす手法を研究しました。開発中のワクチンは、腫瘍細胞を識別し、それと闘うよう身体に教えます。

マウスを使った実験で、研究者たちはIL-12と呼ばれるタンパク質を産生するよう体に教えるmRNAを注射しました。IL-12は、がんを除去することができるエフェクターT細胞と呼ばれる免疫細胞を産生するよう、体に指令を出します。

毎年世界中で1800万件以上確認されるがんの症例のうち、およそ5〜10%は遺伝子変異に起因しています。例えば、BRCA遺伝子は乳がんのリスクを生じさせます。

開発中のワクチンは、がんのリスクを高める遺伝子変異を持つ人々を対象としています。

ワイズマン博士は講演の中で次のように語りました。

「臓器の機能を損なうほどに成長した大きな腫瘍ができるまでには、がん細胞が最初に出現してから5年か10年かかることがわかっています」

「エフェクターT細胞だけを作るワクチンで5年おきに治療したとすれば、形質転換した細胞を一掃し、除去し、死滅させることができるため、遺伝子変異をもつ患者にがんが現れるのを完全に防ぐことができるかもしれません」

mRNA治療の安全性をめぐって

すでに多くの製薬会社が、がん治療におけるmRNAの応用を研究しています。昨年12月、モデルナ社とメルク社は、肺がんの一種を発症した患者を対象に、mRNAを用いた実験的な個別化治療の後期臨床試験を開始したと発表しました。

v940と呼ばれるこのワクチン治療法は、T細胞を活性化させるために患者ごとに個別に処方が組み立てられます。v940はキートルーダという医薬品と併用されます。昨年7月、両社は皮膚癌であるメラノーマ患者を対象とした併用療法の後期試験を開始しました。

昨年初頭、mRNAコロナワクチンの製造においてファイザー社と提携した独BioNTech社は、英国政府とmRNA技術を使用した個別化がん治療に関する契約を結んだと発表しました。この契約によると、2030年末までに最大1万人の患者が臨床試験に登録される予定です。

mRNA技術はがん以外にも、アレルギー、遺伝性疾患、心臓発作、脳卒中、心不全、神経発達障害、HIV、マラリア、結核の治療への応用が研究されています。

しかし、既存のmRNAワクチン技術にかなりの欠陥がある場合、新型コロナ以外の病気に対するワクチン接種のためにmRNAを開発することは、いくつかの安全性の問題を提起します。

昨年12月16日にネイチャー誌に掲載されたある画期的な研究において、研究者たちはファイザー社のmRNAコロナワクチン内に、体内で「意図しない免疫反応」を引き起こす塩基配列を発見しました。専門家たちはこれを、大規模な「発生と制御の失敗」と呼んでいます。

モデルナ社やファイザー社のワクチンに使われているような合成mRNAは、人の体に注射することで新型コロナウイルスを模倣した特異的なスパイクタンパク質を体内で作り出すことを可能にします。身体はこの外来のタンパク質に反応し、防御免疫を生成します。理論的には、こうして出来た防御免疫が、体内に侵入してきた本物のウイルスを中和します。

上記の研究のプレスリリースには次のようにあります。

「英国医学研究会議(MRC)毒性学部門の研究者らは、mRNAの指示を読み取る細胞機構が、mRNA治療薬によく見られる化学修飾の繰り返しに出くわすとスリップ(読み飛ばし)を起こすことを発見しました。このスリップによって、(ワクチンの)標的であるタンパク質以外に、標的ではないタンパク質が産生され、意図しない免疫反応を引き起こします」

昨年12月の第1週に、米フロリダ州のジョセフ・ラダポ外科医は、ファイザー社とモデルナ社のコロナワクチンに含まれるDNA断片が「ヒトの細胞へ乗り移る」現象の発見について、連邦衛生当局に詳細な情報を提供するよう要求しました。

ラダポ医師は米疾病予防管理センター(CDC)と食品医薬品局(FDA)の職員に宛てた書簡の中で、ワクチンに含まれるシミアンウイルス40(SV40)のプロモーターDNAやエンハンサーDNAが、「宿主細胞にDNAが組み込まれる危険性を高めている」と指摘しました。

同氏は「DNAの統合は、理論的にはヒトのがん遺伝子(健康な細胞をがん化させる遺伝子)に影響を与える可能性がある」と警告しました。

また、mRNAコロナワクチンがビフィズス菌と呼ばれる有益な腸内細菌を減少させることを示す研究もあります。ビフィズス菌は、病原体やがんに対する免疫力を高めるとされています。

英語大紀元記者。担当は経済と国際。