精神障害の統計に、前例のない危険な変化

デジタルネイティブを中心に蔓延する「心の不調」が米国人の心を静かに蝕む(中)

画面はいかにあなたを依存させるか

ゲーム、ソーシャルメディア、インターネット、動画ストリーミングなど、画面上での活動が提供するのは、逃避である。ブエノスアイレス大学医学部教授で心理療法士のデイビッド・ローゼンフェルド博士は、エポックタイムズに次のように語っている。

新しいものや刺激的なものが与えられると、脳はドーパミンを放出する。ドーパミンの放出を誘発するものには中毒性がある。ドーパミンは快感をもたらすが、減少するとイライラしたり気分が悪くなったりする。

画面上での活動は、ドーパミンを定期的に放出させることで、私たちの注意を引くように設計されている。没入型のゲームをするように、レベルアップしたり、ボスを倒したり、新しいアイテムを見つけたりするなかでスリルを与えることで、画面はバーチャル世界でより多くの時間を過ごすように誘惑する。

ニューヨーク大学ゲームセンターでゲームデザインを教えるベネット・フォディ氏は、アダム・オルター著『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』(2017年)の中で、ガーディアン紙と同じように、次の言葉を引用した:「ビデオゲームはマイクロルールに支配されている」。

マイクロルールとは、キャラクターが特定の正方形を移動するたびに「チーン」という音が鳴ったり、白い閃光が出たりするもので、プレイヤーの行動と同調するため、プレイヤーは自分がその音や光を引き起こしたと感じることができる。こうしたちょっとした反応が報酬、やりがいに感じられ、継続的にゲームをするよう人々を夢中にさせる。

この仕組みは、テレビを見るような受動的な画面活動よりも、双方向的な画面活動が子供にとってより問題となる理由の説明にもなるだろう。

ダンクリー博士の観察によると、2時間テレビを見ることは子供たちの調節異常の徴候につながるが、ゲームのような双方向的な画面活動を30分行うだけで、そうした徴候を引き起こすのに十分な刺激になるという。 

多くのゲームは、ゲーム中にランダムな間隔で報酬がもらえる戦利品ボックスのような、ギャンブルで使われる戦略も採用している。プレイヤーは次の報酬がいつ手に入るか分からないため、たとえゲームが楽しめなくても、ゲームを続けざるを得なくなる。 

この戦略は心理学者バラス・フレデリック・スキナーの研究に由来する。スキナーはハトをボタンのある箱に入れ、ボタンを押すたびに餌を与えた。彼は、ボタンを押しても何回かに一回しか餌を与えられないハトの方が、ボタンを押すたびに餌を与えられるハトよりも、ボタンを多く押すことを発見した。

 この強迫観念は人間にもある。

ソーシャルメディアの投稿は情報をすぐに見られる長さに分割し、投稿、「いいね!」、コメントをするたびにユーザーにドーパミン刺激を与える。

さらに、ソーシャルメディアは、生活の多くの場面に内在する停止のきっかけを欠くように設計されている。

新聞記事であれ、本であれ、映画であれ、必ず終わりがある。従って、記事、章、映画の終わりが来れば、人は別の活動を選ぶことになる。しかし、ソーシャルメディアの場合、コンテンツに終わりはなく、永遠にスクロールし続けることができる。これはドゥームスクロールと呼ばれる。

ネットサーフィンも同じだ。検索エンジンに単語を入力すると、無限の検索結果と関連リンクが表示され、底なしの穴に落ちるように際限なく見続けてしまう。

スクリーンタイムが人の時間を奪う

テレビやゲーム、スマホなどが社会に広く受け入れられ、普及したため、人々は画面を見る時間、つまりスクリーンタイムをコントロールできない状況にあることにも気づきにくい。

今のところ、何をもってスマホ依存症(あるいはテレビ、ゲーム依存症)とするかについての一貫した基準は存在しないが、多くの米国人がそうしたデジタル機器の使用に問題を抱えていることを示唆するデータが増えている。

米国人は、学校や職場で過ごす時間を除いて、毎日平均7時間を画面の前で過ごしている。

テクノロジー依存症のための住宅治療センター、reSTART Lifeの共同設立者であるカウンセラーのヒラリー・キャッシュさんはエポックタイムズに対し、「デジタル機器の使用が人間の正常な活動に必要な時間を蝕み始めたら、それは問題だ」と語った。

人は毎日約8時間の睡眠を必要とし、平均の労働時間は8時間半だ。また、社交、運動、食事、入浴、日常生活や趣味の時間も必要だ。毎日7時間、画面を見ているということは、今あげたような人間に必要な活動が犠牲になっていることを意味する。

大学生がソーシャルメディアの利用時間を制限できるようにする12週間のプログラムの創始者であるディノ・アンブロージ氏は、TEDxの講演で、現在の18歳の人口の大半が90歳まで生きたとすると、生涯で残っている自由時間は334か月だと推定した。

この残された時間をどう使うかによって、「文字通り、あなたがどんな人間になるかが決まる」とアンブロージ氏は言う。しかし、アンブロージ氏の試算によれば、その334か月の約93パーセントは画面の前で、しかもほとんどが無意識のうちに過ごす。

インターネット・ポルノやゲームの依存症に悩む人々を治療するプログラムを1990年代に開始したキャッシュさんは、憂慮すべき傾向を観察してきた。

以前彼女のもとへ治療に来た人も、画面への依存によって大きな混乱を経験したが、十分な生活スキルを持っていた。それとは対照的に、現在治療に来る人の多くは、料理の仕方、身の回りの衛生管理、会話の仕方、有意義な人間関係の築き方、仕事の続け方など、生活に必要なスキルを持ち合わせていない。このような人々を治療するのは、さらに困難だ。

理由のひとつは、彼らが幼少期や思春期の早い時期に、逃避の手段を与えられてしまったからだ。その結果、彼らは人生における不便さや困難から逃避するのが習慣になった。キャッシュさんによれば、このような人々は、社会的なつながりを築き、困難を乗り越え、仕事を続けるのに苦労している。

ニューヨークを拠点とするエポックタイムズ記者。主に新型コロナウイルス感染症や医療・健康に関する記事を担当している。メルボルン大学で生物医学の学士号を取得。