オーストラリアの心臓研究所Heart Research Institute(HRI)の研究者たちは、毎日何百万人もが食べている一般的な野菜が、世界の主要な死因の1つを予防し、治療効果があることを発見しました。
『アメリカ化学会中央科学』誌が発表したこの研究は、3年にわたる研究の結果、ブロッコリーに含まれる天然化学物質が血液の凝固を改善し、脳梗塞(急性虚血性脳卒中)を治療する血栓溶解薬の効果があると明らかにしました。
現在の脳卒中治療法とそのリスク
アメリカでは、40秒に1人が脳卒中にかかっています。2021年には、心血管疾患で亡くなった人のうち、6人に1人が脳卒中でした。
脳卒中には、脳梗塞と脳出血、クモ膜下出血の3種類があります。脳梗塞は脳血管が血栓によって塞がれる状態を指し、脳出血は脳血管が損傷して破裂し、脳内出血を引き起こすものです。アメリカ心臓協会のデータによると、脳梗塞は全ての脳卒中の87%を占めます。
現在、脳梗塞の唯一の薬物治療は組織型プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)で、これは血栓を溶解し、脳への十分な血流を回復させる溶栓剤です。残念ながら、t-PAには大きな制限とリスクがあり、脳内出血を引き起こす可能性があります。一度発生すると、死亡率は45%に達することがあります。
プロジェクトの主任研究員であり、化学生物学の博士号を持つ劉旭宇氏は、2022年にHRIのウェブサイト上で次のように述べています。
「現在の治療法は、血栓を除去する一方で、患者が緊急手術を必要とする場合に脳内出血のリスクを増大させるという、いわば「両刃の剣」です」
「私たちは自然界の中に、患者が血栓溶解治療を受けることができるような手掛かりを探し、このような奇跡的な抗凝固薬を見つけることを強く望んでいます」
HRIの研究チームは、ブロッコリーに含まれる天然化学物質であるスルフォラファンがtPAの性能を向上させることを発見しました。より安全で新しくより効果的な薬と同等の物質だとわかりました。
劉氏は2022年のHRIでのインタビューで、「新鮮な果物や野菜を多く摂取し、飽和脂肪の少ない食事が心臓病や脳卒中の予防に役立つことはわかっています。しかし、1つの野菜が脳梗塞の治療に役立ち、逆の脳出血にも役立つことができるのか?私はできると考えており、私のチームはその点を分子レベルで証明するために努力しています」と述べています。
スルフォラファンの保護特性:抗酸化、抗炎症
劉氏はオーストラリア放送協会のインタビューで、チームメンバーたちと3年前からブロッコリーと他のアブラナ科の野菜を研究し始めたこと、100種類以上の天然製品をスクリーニングして、脳の血栓を防ぐ効果があるものを探していたと言います。
彼の専門分野は、健康的な食事によるがん予防の方法を探ることでした。現在は、アブラナ科の野菜から抽出されたスルフォラファンに焦点を当て、それが循環系における血栓を治療出来るかどうかを研究しています。
スルフォラファンはブロッコリーに限らず、アブラナ科の野菜が昆虫や他の害虫から自身を守るために防御機構として生産されるものです。劉氏は、例えば完全な状態のブロッコリーにはスルフォラファンは含まれていませんが、それを調理し、食べる段階で、化学反応が起こり、スルフォラファンが生成されると説明しました。
スルフォラファンの抗酸化および抗炎症特性は本来植物を保護するためのものですが、人間が摂取した場合、スルフォラファンは抗がん作用、健康保持の効果があることが明らかになりました。
(つづく)
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