膵臓がんは治療が難しい病気である上に発見しにくく、初期の兆候が見過ごされがちです。その結果、多くの患者は病気が進行した段階で診断されます。ここでは実際の患者の事例を挙げて、膵臓がんの初期兆候を説明し、一般の人の認識を高めていくことができれば幸いだと思います。
膵臓がんの発見されにくさ
初期症状で見つけにくいため、膵臓がんは初期段階ではなかなか発見できません。診断されたときは、がんはすでに周囲の組織や他の臓器に広がっており、手術で取り除くことができない進行がんとなっている事が多いのです。進行した膵臓がんの治療は、症状を管理し、がんの進行を遅らせる化学療法、放射線療法、免疫療法がありますが、これらは治癒を目指すものではありません。膵臓がんが非常に早期に、局部的に発見された場合には、手術が治療の選択肢となり得るのです。
診断5年後の生存率は全患者のわずか12%です。膵臓がんが進行していると診断された患者は、診断後、約1年の生存が一般的です。腫瘍が大きくなる前、または広がる前に診断された場合、平均生存期間は3~3.5年です。早期診断を受けた膵臓がん患者の治癒率は約10%です。
膵臓がんの早期発見は、治療と予後にとって非常に重要です。
初期症状の事例分析
以下に挙げる4つの臨床事例は、膵臓がんの初期兆候を示唆しています。
事例1:糖尿病に似た症状
58歳の李さんは、以前に2型糖尿病と診断され、治療を受けていました。家族歴がなく、健康的な生活習慣を維持していたにも関わらず、突然、過度の喉の渇き、頻繁な尿意、体重の大幅な減少といった糖尿病の症状が現れました。
後に、彼は腰痛の治療を求めて私のもとを訪れました。彼は中医学の鍼治療で痛みを和らげたいと考えていました。しかし、治療中に彼がわずかに黄疸を発症していることに気づき、内科医の診察を勧めました。
検査の結果、李さんは糖尿病や椎間板ヘルニアではなく、初期の膵臓がんであることが判明しました。彼の膵臓の腫瘍は胆のうに近接しており、黄疸を引き起こしていました。
2015年のBMJのレビューによると、糖尿病前症および糖尿病の範囲での空腹時血糖濃度と膵臓がんの発生率との間には、強い直線的な用量反応関係があることがわかりました。空腹時血糖濃度が1ミリモル(mmol)あたり0.56ミリモル増加するごとに、膵臓がんの発生率は14%増加します。
この事例は、家族歴や不健康な生活習慣のない中年の人が突然糖尿病の症状を発症した場合、注意が必要であることを示しています。これは膵臓がんの初期兆候である可能性があります。
事例2:疲労と抑うつ
45歳のウォンさんは、健康問題もなく、明るく家族との生活を楽しんでいました。しかし、ある時から活動するエネルギーが湧かず、疲れやすく、気分が沈むようになりました。時には深い悲しみを感じ、涙を流すこともありました。
抑うつ症状を疑い、精神科医に相談したところ、食欲不振、体重減少、疲労感、集中力の欠如、趣味への関心喪失、不眠など、抑うつの典型的な症状が見られました。そのため抗うつ薬を処方されましたが、症状は改善せず、心理療法も特定の心理的原因を見つけることはできませんでした。
ウォンさんの症状の中には、私たちが気にかけるものがありました。彼女はたびたび腹痛を訴え、それは重度ではないものの、周囲に広がる痛みでした。さらに、ひどい胃酸逆流や腹部の膨満感にも悩まされていました。
このような場合、抑うつの原因として他の要因、例えば腫瘍の可能性も考慮することが大切です。腫瘍があると、炎症を引き起こすサイトカインが生産され、脳内のセロトニンやアドレナリンなどの神経伝達物質の代謝に影響を及ぼし、気分の調節に関わります。また、腫瘍は神経炎症細胞を活性化させ、脳や副腎に影響を与えるストレス反応を急激に増加させ、抑うつリスクを高めます。
様々な検査の結果、ウォンさんは膵臓がんと診断されました。幸い早期の発見で、部分切除手術を行い、がんは成功裏に治癒しました。
2019年に「Molecular Psychiatry」誌に掲載された研究では、抑うつや不安が臨床的に診断された人は、がんの発生率が高く、がんの生存率が低く、がんによる死亡率が高いことが明らかになっています。また、別の研究では、膵臓がん患者は特に抑うつと不安を併発しやすく、その間には生物学的な関連性があります。抑うつが膵臓がんの前触れである可能性も指摘しています。
これらのことから、消化器系の症状や遺伝性疾患の家族歴を持ち、原因不明の抑うつを経験している場合には、腫瘍の可能性を考慮するべきです。
事例3:下痢と便秘
60歳の王さんは健康体でしたが、最近になって慢性的な下痢を経験し、時には便秘にも悩まされるようになりました。下痢と便秘が同時に見られることは、気分の波や心理的なストレスと関連があることが多い過敏性腸症候群を示唆しています。しかし、王さんは心理的な問題を訴えていませんでした。
そこで、他に問題がないかを調べるために、さらなる検査を受けるよう勧めました。大腸内視鏡検査で、膵臓から発生した腫瘍が原因で腸に局所的な閉塞があることが判明しました。早期に発見できたため、すぐ手術を行い、その後の治療を経て、良好な回復が見込まれています。
慢性的な胃腸の問題で、改善の兆しが見られない場合には注意が必要です。特に便が黒い場合は、出血や貧血の疑いがあり、腫瘍の有無を警戒する必要があります。
事例4:不健康な食生活
張さんは、長い間続けてきた揚げ物や砂糖入り飲料、肉、お菓子の好みと運動不足により、肥満になってしまいました。肥満が健康に及ぼすリスクを理解した彼は、食生活の改善を決心しました。健康的な食事に切り替えた後、彼はすぐに体重を落とし始めましたが、しばらくしてから体重が減り過ぎたことに気づきました。食欲不振、強い疲れ、気分の落ち込み、エネルギーの低下も感じていました。病院で検査を受けましたが、症状の明確な原因は見つかりませんでした。
突然、お腹の痛みに襲われ、CTスキャンで膵臓に腫瘍が見つかり、後に膵臓がんと診断されました。
肥満が炎症やインスリン抵抗性、微生物群の変化などを介して膵臓がんのリスクを高めるとする研究があります。
長年の不健康な生活習慣は、がんのリスクを高めるため、早めに生活習慣を見直すことも重要です。もちろん、遺伝的な要因もあります。
膵臓がんの可能性がある症状の概要
次の症状が現れた時は、膵臓がんの可能性が大きいので、特に注意するようにしましょう:
・突然の血糖値の上昇
・原因不明のうつ状態
・急激な体重減少
・原因不明の疲労感
・腹部や背中の痛み
・継続する消化器系の問題
膵臓がんの早期発見と治療において、以上の症状を認識することは非常に重要です。この記事が皆さんの健康を守るために役立つ覚書となれば幸いです。
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