ここ半年の間に少なくとも2度、鳥インフルエンザが科学者たちを驚かせた。
鳥インフルエンザはこれまでずっと、主に鳥の間で広がる病気だった。しかし、2023年12月に米国の乳牛で、牛が通常感染することのないA型鳥インフルエンザのアウトブレイク(集団感染)が発生した。
3月下旬、米国の酪農場の労働者が牛から鳥インフルエンザのH5N1亜型ウイルスに感染した。
5月22日には、2例目のH5N1亜型ウイルス感染例がミシガン州で報告された。感染者は事前に感染した乳牛にばく露していた。
同日、オーストラリアの子供が、ヒトに感染することが知られているA型インフルエンザのH7亜型に感染した。
鳥インフルエンザが人に感染することはまれであるため、これらの事件に科学者たちは大きな懸念を抱いている。
なぜこのようなことが起きているのか。私たちはいかに懸念すべきか。
本稿の目的は、この先起こりうるパンデミックに対する不必要な恐怖を回避することだ。読者に理性的な思考と、将来に向けた適切な見直しを奨励したい。
鳥類における急拡大
H5N1亜型ウイルスは、1996年に中国の広東省で病気のガチョウから初めて発見された。
H5N1亜型は変異するにつれて異なる遺伝的系統(クレード)を持つようになった。これは、新型コロナの変異株が絶えず出現してくるような、RNAウイルスの典型的な活動パターンに類似している。2013年、H5N1亜型ウイルスのクレード2.3.4.4bが出現した。それ以来、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカの約100カ国に急速に広がった。最も支配的なクレードとなり、家禽産業に大きな損失をもたらしている。
2021年12月、2.3.4.4bが米国の野鳥で初めて確認された。
このクレードは、北米の野鳥に広がっている他のA型インフルエンザウイルスとすぐに混合した。その結果、ウイルス遺伝子の再集合や組み換えが起こり、様々な特徴を示すようになった。これらの変異型の多くは哺乳類に重篤な病気を引き起こし、神経系に大きな影響を与える。
牛への感染
インフルエンザウイルスには、アヒル、ガチョウ、ハクチョウ、カモメ、アジサシ、渉禽類、ブタ、ウマなど、多くの自然宿主がある。
ある種のインフルエンザウイルスは通常、特定の宿主に感染し、宿主から別の宿主に移ることはない。
鳥インフルエンザウイルスにはH1からH19まで様々な種類があるが、そのほとんどは鳥や動物にとどまり、人間に感染することはほとんどなかった。
それが、H5N1亜型クレード2.3.4.4bで変化した。
このクレードが問題視されるようになったのは、スピルオーバーが頻繁に起こるためだ。スピルオーバーとは異種間伝播のことで、例えば鳥からウマやウシに伝播するようなことを指す。
米国農務省や疾病対策センター(CDC)によれば、2023年12月以降、高病原性H5N1亜型クレード2.3.4.4bウイルスが、米国の複数の州で乳牛に感染したことが報告されている。
今年初めから、一部の牛は乳量が減り、食欲も落ちていた。その後、H5N1亜型クレード2.3.4.4bウイルスが牛の乳と鼻腔サンプルの両方に存在することが確認された。米国農務省はこのクレードの牛でのアウトブレイクを初めて報告した。
12月に発表された米国農務省のプレプリントによると、感染牛群との関連性が不明な乳牛からも同じウイルス株が検出された。つまり、牛での感染はすでに静かに始まっており、無症状の牛がウイルスの急速な拡散に貢献した可能性が高い。
5月28日時点で、米国の9州で67の牛群がH5N1亜型ウイルスに感染している。感染牛群の数は少ないものの、これはもはや単なるスピルオーバーではなく、向性(ウイルスが特定の細胞に選択的に感染する性質)の拡大が顕著であることを示している可能性がある。いつ大規模なアウトブレイクが発生するかが懸念されている。
さらに、乳牛は人間の近くにいることが多いため、牛の感染が人間の健康にも影響を及ぼす可能性がある。
ヒトに感染する可能性
ヒトへの鳥インフルエンザ感染はまれではあるが、起こりうる。
過去20年間に、H5N1亜型ウイルスによるヒトへの感染が散発している。これまでに23カ国で888人の感染者と463人の死亡者が報告されている。感染者の大半はエジプト、インドネシア、ベトナムで発生している。世界保健機関(WHO)が収集したデータによれば、これらの感染者の累積致死率は50%を超えている。
これらの症例はほとんどがアジア全域に散らばっているため、欧米諸国では最近まであまり注目されていなかった。
2022年4月、コロラド州の養鶏場で働く労働者が感染し、その後回復した。これは、家禽からヒトへのH5N1亜型ウイルスの感染症例として米国で初めて確認されたものだった。
米国で2例目のヒト感染例が発生したのは3月下旬だった。テキサス州の酪農場労働者が両眼に出血性結膜炎の症状を示し、H5N1亜型クレード2.3.4.4bによる感染が確認された。呼吸器症状はなく、数日で完治した。
しかしこの感染者は、病気の鳥や死んだ鳥との接触はなく、病気の乳牛と密接な接触があったことを報告した。その乳牛は乳量減少、食欲減退、発熱、脱水症状を示し、H5N1亜型への感染が示唆された。
これは哺乳類の動物種からヒトへの感染が疑われる高病原性鳥インフルエンザH5N1亜型ウイルスの米国における最初の報告だ。
これらの事例は、ウイルスが哺乳類間で拡散する能力を獲得し、ヒトに感染する可能性があることを示唆しており、科学者たちに警告を発している。
これまでの症例で高い死亡率が観察されたことを踏まえると、もし高病原性H5N1亜型ウイルスが、ヒトからヒトへの感染を含め、ヒトの間で容易に拡散する能力を身につけたとしたら、ヒト集団に重大な影響を及ぼす可能性がある。
ただし、米国で牛から人へ伝播が確認されたのはこの2例だけであるため、同様の感染症の全容や死亡率は未知数だ。
一般的に異種間伝播は、食物連鎖を通じて自然発生する。例えば、感染した鳥を別の種に食べることで起こる。このような現象は小規模に起こるのが一般的で、米国の牛に見られるような広範囲に及ぶ現象とは異なる。
では、最近になって他の種から牛へと伝播した原因は何だったのだろうか?これまでのように自然でランダムな出来事なのか、それとも他の要因が関与しているのだろうか?
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