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薬をやめても腸内変化が続く──数年後まで残る影響

体は通常、薬を数時間から数週間で排出します。しかし、近年の研究では、数年前に使用した薬であっても腸に影響が残り続けること、さらに使用頻度や期間が長いほどその影響が大きいことが示唆されています。

9月に『mSystems』誌に掲載された研究によると、一般的に使用される薬の約9割が腸内細菌に持続的な変化を与えており、これは従来「消化機能とは関係がない」と考えられていた薬にも当てはまると報告されています。

この現象は抗生物質だけでなく、高血圧、不安、胃酸過多の治療薬にも見られます。

「一般的な薬が腸の健康に及ぼす影響を、私たちは過小評価している可能性があります」と、研究に関与していないResbiotic Nutritionのパートナーシップディレクターで栄養士のカラ・シードマン氏はエポックタイムズに語りました。
 

腸は「記憶する」

今回の発見は、医師がこれまで主に抗生物質による腸内細菌の乱れを認識していた範囲を超え、抗うつ薬・β遮断薬・オメプラゾール(酸逆流治療薬)・ベンゾジアゼピン・メトホルミンといった「人体細胞を対象にした薬」でも腸内微生物叢(マイクロバイオーム)が再構成されることを示しました。

「薬は人体の細胞にのみ作用すると考えられがちですが、実際には腸のエコシステム――微生物、腸のバリア、免疫系――とも相互に影響し合っています」とシードマン氏は述べています。

研究では、多くの薬が腸内に長く影響を残し、中止から3年以上経っても変化が見られることが確認されました。研究チームは、薬そのものが原因であるかを確認するため、一部の被験者を追跡調査しました。その結果、薬の使用開始によって腸内環境の変化が予測どおりに起こり、使用を中止するとしばしば逆転することが観察され、薬と腸内変化の因果関係が裏付けられました。

この発見は、一般的な薬が抗生物質と類似した影響を持つことを示しています。たとえば、不安の治療に用いられるベンゾジアゼピンは、腸内の微生物多様性を特定の広域抗生物質と同程度に減少させることが確認されました。また、抗うつ薬も抗生物質と似たパターンの腸内変化を引き起こしていました。
 

影響を受ける腸内微生物

抗うつ薬やβ遮断薬などに曝露した際に増加する代表的な細菌群は、クロストリジウム属です。これらの一部の種は、人間にまれな感染症を引き起こすことがあります。

ベンゾジアゼピンの使用は、ドレア・フォルミシゲネランス と ルミノコッカス・トルクエスの増加と関連しています。ドレア・フォルミシゲネランスは一部の研究で肥満や代謝症候群と関連するとされていますが、有益な代謝物も産生します。一方、ルミノコッカス・トルケス は腸粘膜のムチンを分解する細菌で、多量に存在するとクローン病・過敏性腸症候群・代謝異常などの腸疾患と関係します。

ただし、同じ種類の薬でも腸への影響は異なります。たとえば、ベンゾジアゼピンの中でもアルプラゾラムは、ジアゼパムよりも腸内微生物多様性の損失が大きいことが報告されています。

さらに、プロトンポンプ阻害薬は、ストレプトコッカス・パラサングイニス や ベイロネラ・パルブラ といった口腔細菌の増加と関連しており、これらは歯周病や虫歯とも関係しています。

最も注目すべきは、こうした変化の「累積的な影響」です。抗生物質を使用した経験のある人は、最終投与からどれだけ時間が経っても、使用歴のない人と同じ腸内多様性を完全には回復できなかったと報告されています。
 

薬が腸内微生物叢にどう影響するか

薬が腸内細菌に影響を与えるメカニズムはいくつもあります。

薬は一部の腸内細菌の成長を遅らせたり止めたりする一方で、別の細菌の繁殖を促進し、腸内微生物叢のバランスを変化させます。中には有益な微生物を直接殺したり抑制したりするものもあり、また胃酸を変化させたり、免疫反応に影響を及ぼしたり、腸の粘膜を弱めたりすることもあります。

抗うつ薬は腸内細菌によるエネルギーの生成や利用を乱し、場合によっては直接的に細菌を殺すこともあります。非ステロイド性抗炎症薬は腸の粘膜を刺激して炎症や漏れを引き起こし、腸内で生育できる微生物の種類を変えることがあります。

有益な微生物は、炎症を抑える短鎖脂肪酸を作り出します。これらの微生物が減ると、短鎖脂肪酸のレベルが低下し、腸の炎症やバリア機能の破綻を招くおそれがあります。

腸の炎症やバリア機能の低下は、脂肪肝やインスリン抵抗性、心血管リスクの増加といった代謝異常にもつながります。

薬の使用を中止すれば腸内の微生物は回復します。特に、もともと多様性が高かったり、食事によって再生がサポートされていたりする場合には回復しやすくなります。ただし、完全に除去されてしまい、補充されなかった微生物は失われる可能性があります。

2024年のレビューでは、回復が必ずしも完全ではないことが指摘されました。多様性が戻ったように見えても、細菌の構成が数か月にわたって変化したままであったり、一部の菌種が戻らずに別のものに置き換わることがあるからです。

乳児は腸内微生物の変化に非常に敏感です。

2022年の研究では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を400日以上投与された乳児の腸内微生物叢は多様性とバランスが低下しており、投薬を中止してから1か月経ってもその変化が持続していました。研究者たちは、PPIを長期間使用することで、短期間の使用よりも腸内微生物叢への影響が大きくなると結論づけました。

幼少期の抗生物質への曝露は、代謝疾患やアトピー性疾患のリスクを高め、成長後のアレルギーや喘息、代謝異常の可能性も上昇させることがわかっています。
 

回復には個人差あり

薬はある程度予測可能な方法で腸に影響を与えますが、その影響の強さには大きな個人差があります。

「食事は微生物叢の健康と回復力にとって、最も強力な要因です。食べるものが微生物の多様性、食物繊維の発酵、胆汁酸の産生に影響を与え、これらすべてが薬との相互作用に関わってきます」とシードマン氏は述べています。

高繊維の食事は、抗生物質使用後の腸内バランスの回復を助けます。一方で、低繊維の食事は腸のバリア機能を弱め、炎症を悪化させ、腸内微生物叢の回復を遅らせる可能性があります。腸の炎症は薬の吸収速度を変え、胆汁酸の変化は脂溶性の薬の代謝に影響を与えます。

また、もともとの腸内微生物叢の構成も重要な要素です。

「同じ薬を服用しても、腸内の微生物コミュニティの多様性や回復力の違いによって、バランスの変化や回復までの期間が大きく異なります」とシードマン氏は語っています。
 

腸を守る方法

継続的に薬を服用する必要がある人に対し、シードマン氏は腸の回復力を高め、腸内エコシステムをサポートする具体的な方法を提案しています:

  • 食物繊維の多様性に注目:全粒穀物、豆類、果物、野菜を幅広く取り入れることで、微生物の多様性を高め、回復をサポートしてくれます。
     
  • ポリフェノールが豊富な食品を加える:ベリー類、緑茶、ココアなどを取り入れることで、有益な細菌の栄養源となり、炎症を軽減することが期待できます。
     
  • 発酵食品を摂取する:ヨーグルト、ケフィア、ザワークラウト、キムチなどを日常的に取り入れることで、生きた微生物や腸の健康を支える化合物を補うことができます。
     
  • 目的に合ったサプリメントの使用:特定のプロバイオティクスで腸内バランスを整え、プレバイオティクス(善玉菌のエサとなる食物繊維)やポストバイオティクス(微生物が作り出す有益な化合物)を活用して、腸のバリア機能を高め、炎症をコントロールすることが期待されています。

(翻訳編集 日比野真吾)

執筆活動を始める前、レイチェルは神経疾患を専門とする作業療法士として働いていた。また、大学で基礎科学と専門作業療法のコースを教えていた。2019 年に幼児発達教育の修士号を取得した。2020 年以降、さまざまな出版物やブランドで健康に関するトピックについて幅広く執筆している。