9月22日のドナルド・トランプ大統領の記者会見で自閉症治療に関する発表があって以来、研究教授エドワード・クアドロス氏の電話は鳴り止まない状況です。
ニューヨーク州立大学ダウンステート校の教授で、生化学の博士号を持ち、葉酸吸収を専門とするクアドロス氏は、このニュースを聞いても驚きはしなかったとエポックタイムズに語りました。
ロイコボリンが食品医薬品局(FDA)による自閉症治療薬として初めて承認されたのは、20年以上にわたる研究の成果だとクアドロス氏は述べました。それ以前は、メトトレキサートの副作用を抑えるためにがん患者へ投与される補助化学療法薬として知られていました。
この薬は、研究で自閉症の子供の70%以上にみられるとされる脳の栄養不足に働きかけるものです。
脳葉酸欠乏症の発見
自閉症とロイコボリンの関係は、思いがけない流れから明らかになりました。
1998年、アメリカでは新生児の神経管欠損を防ぐため、食品への葉酸(ビタミンB9)強化が義務化されました。
長年の研究により、神経管欠損のある子を出産した母親は葉酸不足があり、赤ちゃんの脊髄が正常に閉じる能力に影響していたことが示唆されていました。
この政策により神経管欠損は減少しましたが、一部の母親は依然として神経管欠損を含むさまざまな発達異常のある子を出産していました。
クアドロス氏とベルギーの神経学者ビンセント・ラマエケルス博士は、その理由を追究していました。
2002年、彼らのチームは、出生前・出生後に葉酸補給を受けていたにもかかわらず、影響を受けた赤ちゃんの脳に深刻な葉酸欠乏があることを発見しました。脊髄液を調べると、ビタミンの活性型が著しく低いことがわかりました。
脳葉酸欠乏症の多くの子供は、脳の主要な葉酸レセプターに対する自己抗体を持っていることが判明しました。これらの自己抗体が葉酸レセプターをブロックし、食事や補給からの通常の葉酸吸収を実質的に妨げてしまうのです。
しかし、これらの子供がフォリン酸(ロイコボリンで吸収しやすい葉酸の形態)で治療されると、症状が改善しました。
彼らが調査した葉酸レセプター自己抗体を持つ25人の子供のうち、4人が自閉症でした。
ロイコボリンと自閉症
2013年、リチャード・フライ博士が主導し、クアドロス氏と共同で行われた研究で、クリニックに通う自閉症の子供の75%以上が、脳への葉酸取り込みを阻害する自己抗体を持っていることが判明しました。
ロイコボリンは、通常とは異なる経路で脳に入るため、自己抗体のブロックを回避でき、これらの子供にとって有効な治療法であることが示されました。
脳の葉酸不足を補うことは、神経学的に大きなメリットがあります。葉酸は神経伝達物質の生成や神経の健康維持のためのDNAの形成・修復、さらに神経信号を速めるミエリン鞘の形成を助けます。
脳葉酸欠乏は、運動や気分の障害から混乱、認知症まで、さまざまな合併症を自然に引き起こします。
自閉症の子供におけるロイコボリン研究を主導するフライ博士は、最も顕著な改善として言語面を挙げています。
「私は、ほとんど話せない子供や数語しか話さない前言語段階の子供を多く診ますが、ロイコボリンはどのレベルの子にも役立つようです」とフライ博士はエポックタイムズに語りました。
話せなかった子が言葉を発するようになり、すでに話せる子は言語のニュアンスをより理解できるようになったと述べています。
行動面でも改善が多くみられ、自己表現がしやすくなることで子供のフラストレーションが軽減されるのかもしれないと付け加えました。
精神科医デビッド・ダニシュ博士も、治療開始から数日〜数週間で多くの患者に有意な改善が見られ、親たちは、1語のフレーズから自発的に3〜4語の文を話すようになったり、複数段階の指示に従えたり、気分や社会性が向上したと報告しています。
制限と注意点
すべての子供がロイコボリンの恩恵を受けるわけではないとクアドロス氏は述べています。この治療は、脳葉酸欠乏が原因でない自閉症や、欠乏が主な要因でない子供には向きません。
言語や行動が改善したとしても、重度自閉症の子供にとって重要なポイントである知能の向上は、まだ決定的な結果が出ていません。
「ロイコボリンを『自閉症の薬』として扱うべきではありません」とフライ博士は警告します。
単剤治療として副作用は比較的少なく安全とされますが、一部の子供には多動や興奮が見られることがあるとクアドロス氏は述べています。
そのほかの副作用には、発疹や腫れ、呼吸困難を伴うアレルギー反応があり、抗発作薬を服用している子供では、ロイコボリン使用後に発作が増える可能性があります。
誰が恩恵を受けるか
クアドロス氏によると、言語や社会性の発達が重要な3歳前に治療を開始した子供で最も良い結果が見られるといいます。
彼は、3歳未満の子供には葉酸レセプター自己抗体の血液検査を勧めています。自己抗体がある場合、脳葉酸欠乏や神経発達障害のリスクが高まるためです。
さらに同氏のチームは、妊娠前にカップルが葉酸レセプター自己抗体のスクリーニングを受け、ロイコボリンを補給することで、自閉症を予防できるかどうかを研究しています。
今年初めに発表されたイタリアの症例報告では、神経発達障害のある子を出産した経験のある2人の女性が葉酸レセプター抗体陽性でしたが、妊娠前にロイコボリンを補充したところ、いずれも通常発達の子供を出産しました。
残された疑問
ロイコボリンが自閉症にどのように作用するのかについては、科学的にまだ解明されていません。
脳葉酸欠乏の子供全員が葉酸レセプター自己抗体を持つわけではなく、また自己抗体がある全員が脳葉酸欠乏を発症するわけでもありません。
フライ博士は、最適な用量や、最も効果が期待できる対象群を特定するための研究を進めていると述べています。
それでもロイコボリンは、自閉症の攻撃性やてんかんなど症状の対症療法ではなく、根本要因に働きかける初めての薬です。クアドロス氏は、自閉症を「遺伝的で治療困難な状態」ではなく「生物学的な状態」として捉える新しい時代が始まることを期待しています。
(翻訳編集 日比野真吾)
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