「過剰な発汗には、どうしても慣れることができません。いつも落ち込み、なかなか気持ちを切り替えられないのです」国際多汗症協会のウェブサイトでポール・Mさんはこう語っています。彼は10代の頃から多汗症に悩まされ、特に手のひらと脇の汗が大きな苦痛となり、社交や恋愛にまで影響したといいます。ギター演奏の後、人と握手をするだけでも気まずく感じてしまうほどでした。制汗剤を使うことで全体的な発汗は多少抑えられたものの、手のひらの多汗は改善しなかったそうです。
発汗は体にとって良い働きを持ち、体温の上昇を防いでくれます。また、汗は毒素を排出する手助けもしますが、それは体内の毒素排出の主要な経路ではありません。しかし、体温調節に必要な量を超えて汗が出るようになると、それは「多汗症」という病気です。中医学では、過度の発汗は体質と関わり、体内のエネルギーのバランスが乱れた状態を反映していると考えられています。
多汗症には2つのタイプがあります。最も多いのは「原発性局所多汗症」で、手、足、脇、顔など特定の部位に汗が過剰に出るもので、通常25歳以前に発症し、遺伝的要因を持ちます。もう一つは「続発性全身性多汗症」で、糖尿病、パーキンソン病などの基礎疾患や、ナプロキセンなどの薬の副作用によって全身に汗が出過ぎる状態です。
研究によると、アメリカ人の約4.8%が多汗症を抱えているとされ、多汗症は脱水や皮膚感染の原因となるだけでなく、患者に大きな心理的負担を与えます。それにもかかわらず、多くの人は医療機関を受診せず、治療法がないと思い込んでいる場合も少なくありません。
西洋医学の原発性多汗症治療では、塩化アルミニウムを含む制汗剤などの外用薬、神経伝達を抑える抗コリン薬などの内服薬、汗腺を刺激する神経を遮断するボツリヌス毒素の注射、そして非侵襲的な電気イオントフォレーシス(イオン導入法)がよく用いられます。重症の場合には、胸腔鏡手術による交感神経の切除といった外科的治療が検討されることもありますが、代償性発汗と呼ばれる副作用が生じる可能性があります。
中医学は多汗をどう捉えるのか
中医学では「汗は心の液」とされ、汗をかきすぎることは心臓にとって「血が流れる」のと同じくらい負担になると考えられています。長期間にわたり大量に汗をかくと心臓に大きな負荷がかかり、心の老化を早めてしまう可能性があります。心気(心のエネルギー)が不足してくると、異常な発汗が起こりやすくなり、汗の出方によって実際には異なる「虚」の状態が反映されていると見られています。
中医学では多汗を「自汗」と「盗汗」に分けます。日中に頻繁に大量の汗をかき、活動後にさらにひどくなるものを「自汗」と呼びます。自汗の原因は主に陽気不足とされます。陽気は体を温めるエネルギーで、陽気が弱い「陽虚」の人は冷えを感じやすいのが特徴です。
もう一方は、睡眠中に汗をかき、目が覚めると自然に止まる状態で、これを「盗汗」といいます。盗汗は多くの場合「陰虚」と関係します。陰気は体を潤し養う役割をもつ津液に相当し、この滋養や調節の働きが弱くなると、睡眠中に汗が出てしまうのです。
これらの症状がある場合は、中医学の医師の診断を受け、体質に合わせて調整することが勧められます。
中薬の茶飲で盗汗を改善
盗汗のある人に適した茶飲として、「生脈飲」があります。生脈飲は気を補い津液を生み、陰を養って汗を抑える作用があり、とくに陰を補う働きが強い方剤です。人参・麦冬・五味子の三つの生薬から成り、人参は元気を大きく補い津液を生み、麦冬は陰を養って津液を増やし心を清め、五味子は津液を生み汗を収れんします。
生脈飲の材料:
- 薬用人参:約7~11g
- 五味子:20~30粒
- 麦冬:約37g
作り方:材料をすべて洗い、鍋に入れて適量の水を加えます。沸騰したら弱火にし、少し薄めに煮出してお茶のように飲みます。
生脈飲は汗を適度に抑えるだけでなく、免疫力を高める働きもあります。夏や秋の飲み物としても最適で、研究では抗炎症作用が顕著であることが示されています。
中薬の外用で手の多汗を改善
手のひらの多汗に悩む人は多く、触れた場所がいつも湿ってしまったり、恋人と手をつなぐ勇気が持てないほど困っている人もいます。手のひらの多汗を改善するために、中医学にはシンプルで天然の外用による止汗法があります。竜骨、牡蛎、もち米という三つの中薬を外用するもので、手のひらや足の裏の汗を効果的に抑えることができます。
材料:竜骨、牡蛎、もち米
使用法:上記の薬材を同量ずつ用意して細かい粉末にし、使用時に粉パフで少量を取り、手のひら・足の裏・脇など汗の出やすい部分に塗ります。
竜骨は動物の骨が化石化したもので、汗腺を引き締める働きがあります。中薬でいう牡蛎は牡蠣の殻を指し、異常な発汗を減らす作用があり、もち米には脾を健やかにする働きがあって、脾胃の熱による発汗を改善します。
中医の古典『傷寒明理論』には「手足汗出者,為熱聚於胃,是津液之傍達也」と記されており、これは、手足の多汗は脾胃に熱がこもり、津液が正常に分布できなくなるために起こるという意味です。
では、なぜ脾胃に熱がこもるのでしょうか。その主な理由は、冷たいもの、脂っこいもの、味の濃いものを多く食べることにあります。たとえば、フライドチキンやフライドポテトを氷の入ったコーラと一緒に食べるなど、胃腸が急に冷えたり熱くなったりすると体に炎症が生じやすく、中医学ではこれを「熱気」と表現します。
脇の汗とにおいが気になるとき 一杯の茶飲で改善
中医学では、脇の下は「心経」が通る場所、つまり心のエネルギーが流れるルートとされています。心経は交感神経とも関係があり、交感神経が過度に興奮すると脇汗が増えたり、わきのにおいが強くなることがあります。こうしたときには自律神経を落ち着かせ、脇汗を抑える効果がある茶飲が役立ちます。
材料:党参、麦冬、五味子、浮小麦 各10g
作り方:1000mlの水で煮出すか、または保温ポットに入れて20分ほど蒸らして飲みます。
(翻訳編集 華山律)
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