睡眠不足になると、人は注意力や運動協調性が低下し、その影響は重度の飲酒状態に似ています。そのような状態で運転することは非常に危険です。しかし現在のところ、ある人が睡眠不足かどうかを判定する臨床検査法は存在していません。最近の研究では、人の唾液を検査することで、十分な睡眠を取った人と睡眠不足の人との違いを判別できる可能性が示されました。これは、睡眠不足を検出する検査法の開発に向けた重要な前進となります。
アメリカ化学会は、アメリカでは毎年数万件もの交通事故が居眠り運転によって引き起こされていると指摘しています。そのため、一部の州では睡眠不足の状態で運転することを抑制するための法律が制定されています。しかし現在のところ、睡眠不足を判定する検査法はありません。
スイスのチューリッヒ大学の法医薬理学・毒性学教授であるトーマス・クレーマー氏とその研究チームは、唾液中に睡眠不足によって変化する代謝物(体内での代謝によって生じる物質)が存在するかどうかを調べることで、路上や医療現場で実施可能な睡眠不足検査法の開発を目指しました。
クレーマー氏は、「これまで睡眠不足は生化学的手法によって検出することができませんでした。しかし、睡眠不足は現代社会における最も深刻な負担の一つです。この研究は、実際の生活環境において、唾液を用いて睡眠不足の生体指標(バイオマーカー)を直接検出した初めての研究であり、法医学調査の分野における画期的な成果です」と述べています。
この研究では、普段1晩に7〜9時間眠る健康な若年成人男性20人を対象としました。参加者は1週間の間隔を空けながら、無作為に3種類の睡眠条件を経験しました。その3つの条件とは、睡眠剥奪(1晩まったく眠らない)、睡眠制限(4晩連続で通常より2時間少なく眠る)、そして十分な睡眠(約8時間睡眠)です。
研究チームは、それぞれの条件の前後で参加者から唾液サンプルを採取し、代謝物の構成を分析しました。統計解析の結果、睡眠剥奪状態と十分な睡眠状態の唾液サンプルの間には、10種類の分子に違いがあることが確認されました。一方で、睡眠制限状態と十分な睡眠状態の唾液代謝物の構成には、有意な差は見られませんでした。

その後、研究チームは異なる唾液代謝物に基づく予測モデルを開発し、学習させました。その結果、このモデルは睡眠不足の人の唾液サンプルを94%の精度で識別することができました。
このモデルで生じた誤差は、個人ごとの代謝過程の違いに起因している可能性があります。例えば、一部の参加者は24時間起き続けた後、8時間睡眠を取ったとしても、代謝状態が十分に休息した状態まで回復していませんでした。このことは、8時間の睡眠ではすべての人が完全に回復するには十分でない可能性を示しています。
クレーマー氏によると、研究チームは次の段階として、この予測モデルの大規模な国際評価を実施する予定です。また、交代勤務労働者、女性、頻繁に運転する人々から採取した1,000件以上のサンプルを対象に、検証範囲を拡大する計画です。
この研究成果は、『プロテオーム研究ジャーナル』に掲載されました。
前述の注意力や協調性の低下以外にも、睡眠不足は人体にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によれば、睡眠不足は糖尿病、心疾患、肥満、うつ病など、多くの健康問題のリスクを高める可能性があります。
スウェーデンのウプサラ大学が実施した研究では、わずか3晩の睡眠不足(毎晩約4時間の睡眠)でも血液中のタンパク質に変化が生じ、心疾患を発症するリスクが高まる可能性が示されました。
さらに別の研究では、睡眠不足が平均寿命を短くする可能性があることも示されています。その影響の大きさは、食事や運動といった要因を上回る可能性があり、この結果には研究に参加した生理学者たちも驚きを示しました。
(翻訳編集 井田千景)
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