ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(番外編3-2)

【大紀元日本8月29日】草木も眠る「丑三つ時」・・旅館の部屋で気持ちよく寝ていると、こちらの足を擦ったり引っ張ったりするものがいる。暗闇の中でふと見ると、小さな児童のような・・日本の妖怪「座敷ワラシ」だ。「・・ちょっと来て欲しい・・」と意念を送ってくるので、言われるままに寝床から出て行ってみることにした。

傍らに目をやると、既に猫の目女はいないが、元来が夜行性なので、居てもたってもいられない時刻なのだろう・・・座敷ワラシというものは、陰徳を積んだ旧家に棲み付く、一種の余慶のようなものだと聞き及んだことがあるのだが・・一体?

古い寂びた床の間の通り廊下をギシギシと抜け、座敷ワラシは私を土間に案内した。土間では、顔に大袈裟な絆創膏を張った主人が、捻り鉢巻で額から汗を流しながら、何やら馬のようなものを作っている。よく見ると、馬が出来上がる度に、綺麗な気流が生じ、鬼門の方向から精霊が訪れては、この気流に乗って、「裏鬼門」に抜けている。

当の主人は、そんなことを知る由もなく、ただ一心に、児童が砂場で遊ぶようにして馬の模型を作っている。中には、藁で編んで作ったものもあれば、木製で組み立てたようなものもあり、胡瓜にただ単に割り箸を挿しただけのものもある。いずれも、無欲な老人が作り出した、日本民俗芸能の逸品であり神業のようだ。

すると夜のシジマを切り裂くようにして、土間の玄関が荒々しく開けられた。「おい!爺さんはいるか!?」とアロハシャツを着た若いチンピラ風の男が入ってきた。「おい!ま~た性懲りも無く、送り馬を作っていやがるのか~もうそんな迷信はやめておけと、言ったはずだよな!オレ様が!」と居丈高に出ている。

老人は臆することもなく、目をきっと剥くと、「・・・この家は、おまえもこの村で育ったから知っているように・・代々江戸時代から続いた庄屋の家だ・・お盆にはご先祖様が帰郷なさるから、この送り馬をただで村の家々にご奉仕させて頂いてきたのだ・・わしの代で止めるわけにはいかんワイ!」と吼える。

ヤクザ者は、「・・だからよ~。京都の虚栄山から極楽和尚が来てくださったんだ・・もうそんな村の迷信なんて、いらないんだよ~和尚の法要があればそれでいいんだろうが!」、「ふん!あんな腐れ坊主など、東京から来た照門手などという偽会社と手を組んで・・大方、村の土地を騙し取るつもりだろうて!・・わしもこの歳だ・・もう死ぬことなぞ怖くないぞ!」、「なに!このくそ爺!」。既に若いヤクザ者の打拳が老人の顔面に入り、老人の頭部が土間の飯炊き釜にぶつかって「ゴツッ」と鈍い音がした。