古代中国の知恵を活かす

子どもの教育に役立つ 心に残る9つの物語 (上)

古代中国では身を修めることが重んじられ、子どもへの教育は、人格を磨き、訓練することが重要視されていました。それに関連する逸話や物語はたくさん伝えられており、現代人にとって学ぶ価値の高い内容のものも残っています。その中の一部を、ここに紹介します。
 

老禅師、無言の教育

昔、一人の老禅師がいました。ある日の夜、師が禅庭の中で散歩していたところ、寺院の塀ぎわにひとつの椅子が置かれているのを見つけます。寺院の戒律に背き、誰かが塀を乗り越えて出かけたということが、一目瞭然でした。老禅師は騒ぎ立てることなく静かに椅子を移動してその場所にしゃがみます。

小一時間もすると、塀の外でなにやら物音が聞こえてきました。暗がりの中、一人の小坊主が、寺院の塀を乗り越えて、老禅師の背中を踏んで飛び降ります。その瞬間、自分が踏んだのは椅子ではなく、師であることに気がついた小坊主は、驚きのあまりその場に立ちすくんでしまいました。師にとがめられ、処罰を受けることが一瞬頭をよぎったのです。

ところが、思いがけず師は彼を厳しく責めもせず、とても落ち着いていました。「深夜は冷えるので、早めにもう一着羽おったほうがいい」とその声は、とても優しいものでした。
 

張伯苓氏、自ら手本となる

南開大学の創設者の1人で、中華民国考試院院長を務めた張伯苓(ツァン・ブォーリン)氏は、教育家であり、政治家でもありました。彼はマナー教育を非常に重視し、生徒たちの模範となるよう自らを厳しく律していました。

ある日、張氏はある生徒の指が喫煙の習慣のために黄色くなっているのを見つけます。彼は、生徒に対して「タバコは体に悪いから、やめるように」と厳しく忠告しました。その生徒は少し不満げな様子で、「では、先生ご自身は喫煙をされて、体に害がないのですか?」と言い返しました。張氏はすぐに他の人に頼んで、自分の葉巻とタバコを取ってこさせ、皆の前でそれをすべて捨て、長年愛用していたキセルも折ってしまいます。そして、張氏は真摯な態度で、「これから、私も生徒の皆さんと一緒にタバコをやめます」と宣言したのです。その後、張氏は宣言通り、二度とタバコを吸うことはありませんでした。
 

陶行知氏、4つのアメの力

教育家の陶行知(とうこうち)氏が校長を務めていた時の逸話です。ある日、陶校長はある男子生徒がレンガでクラスメートを殴ろうとしているのを目にします。陶氏はケンカを止め、この生徒に校長室に来るよう促しました。

陶校長が事務室に戻ってくると、生徒はそこで待っていました。陶校長は、「君は私より早く着いて待っていてくれたから、ごほうびをあげよう」と言って、アメを男の子にあげます。続けて陶校長は、「君は私が止めに入った時、けんかをすぐにやめたね」と話し、この生徒に2つ目のアメをあげました。さらに、「君がけんかをしようとしたのは、その子が女の子をいじめていたと聞いたからで、君の正義感にごほうびだ」と言って3つ目のアメをあげたのです。

そのとき、この生徒は「校長先生、ごめんなさい。クラスメートが間違ったことをしたにしても僕は彼を殴ってはいけませんでした」と謝りました。陶校長は生徒に、君が反省したからと、4つ目のアメをあげました。