2008年11月、東京明治神宮で、伝統的な日本の結婚式を挙げる新郎新婦を見つめる女の子。七五三のお祝いで家族とお参りに来ている。(TORU YAMANAKA/AFP/Getty Images)
性とジェンダー

「世の衰退か…」石原慎太郎氏、「女装タレントの大流行」に警鐘

言葉尻が厳しいことで知られる石原慎太郎・元東京都知事は、最近、性と表現のあり方に一石を投じた。

ひさびさの「石原節」だ。8月2日、石原氏は自身のツイッターで「最近、女装した男のテレビタレントが大流行だが、あれは一体どう言うことなのだろうか。さっぱり訳が分からない。世の中が衰退し、何でもありと狂ってきた証なのだろうか」とつぶやいた。

最近、女装した男のテレビタレントが大流行だが、あれは一体どう言うことなのだろうか。さっぱり訳が分からない。世の中が衰退し、何でもありと狂ってきた証なのだろうか。

— 石原 慎太郎 (@i_shintaro) 2017年8月2日

 

このツイートは、発信から10日で4750リツイート、3600の「いいね」、1300以上のコメントがついた。大半は「時代遅れ」など非難する声で、支持する意見はわずかだ。

この話題のツイートは、特定の人物を名指ししていない。しかし、男らしさや女らしさが曖昧になる「ジェンダーフリー」思想を懸念する石原氏の姿勢は、過去の発言をみても、一貫している。

石原氏は都知事時代の2004年、都の教育施策連絡会で、「ジェンダーフリーは滑稽千万」と切り捨てた。2011年にも、雑誌「週刊ポスト」の取材で、「同性愛の男性が女装して、婦人用化粧品のコマーシャルに出てくるような社会は、キリスト教社会でもイスラム社会でもありえない。日本だけがあっていいという考え方はできない」と述べている。

安倍首相も 保守派は「ジェンダーフリー」反対を言明

2005年4月に東京赤坂の自民党本部で開催された

「過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考える

シンポジウム」

(動画スクリーンショット)

石原氏が触れたように、歴史や宗教の側面から、保守的な政治家や論者は、性と表現の「多様性」を容認しないとの見方をはっきり示している。

日本では1999年、男女共同参画基本法の制定後、ジェンダーフリー思想や性教育が一部の教育指導書に書き入れられていった。問題が露呈するのは2002年。神奈川県相模原市の教育委員会が配布した、小中学校での性教育指導の内容が「過激すぎる」として社会問題になった。

2005年、当時、自民党幹事長代理だった安倍晋三議員(現総理大臣)は「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」を立ち上げ、座長に就任。自民党広報メディア「デイリー自民」によると、同年5月に東京赤坂の党本部で開かれた同チーム主催のシンポジウムで、安倍氏は「女性がのびのびと能力を発揮することは大切だが、結婚や家族の価値を認めないジェンダーフリーは文化の破壊につながる」と述べた。

チームのメンバーで高崎経済大学の八木修次助教授 は「ジェーンダーフリーは社会主義、マルクス主義思想、性教育は原始共産制のフリーセックスを連想させる教育思想が背景にある」と指摘した。

ジェンダーフリー教育の横行の是正を掲げる、神道派の保守系組織「日本会議」は、安倍氏の思想に影響を与えているとされる。

米国でも トランプ大統領、LGBT従軍禁止の方針

いっぽう、米国でもLGBT(性マイノリティ)の話題は注目を集めた。米大統領選の際に「キリスト教信仰者の代表になる」と主張していたドナルド・トランプ大統領が最近、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの従軍禁止の方針を示したのだ。理由は「巨額の医療コストや、混乱という負担を負うことはできない」からだという。

有神論のもとで、ジェンダーの問題は認識ははっきりしてくる。米国では2009年にカトリック教会、福音派教会、正教会などのそれぞれ保守派の指導者152人が、市民と議会に対して、同性結婚など信仰にそわない考えに反対を呼び掛ける「マンハッタン宣言」を行った。

クリスチャン・トゥディによると、宣言の中で、結婚について「健康、教育、富を維持する最も重要な制度」としており、「生命の創出と繁栄と保護」と定義している。

伝統中国 陰陽説で男女はっきり区別

2016年9月、中国チベット自治区のダンガ・ラオダン芸術学校で、仏を描く学生(JOHANNES EISELE/AFP/Getty Images)

中国ではどうだろうか。伝統的に道教の教えから、男は陽、女は陰と見なされ、陰陽の融合で子孫の繁栄があるとしているため、男女の区別は、よりはっきりとした認識を示してきた。

また、韓国にも影響を強く与えた陰陽説に基づく儒教は、家族の形態を重んじ、男と女の交わりを神聖視していた。中国古典の『医心方』巻第二十八「至理第一」には、次のように記されている。「天地之間,動須陰陽。陽得陰而化,陰得陽而通,一陰一陽,相須而行(天地の間、陰陽がある。陽は陰を得てかわり、陰は陽を得て通じる。一陰一陽は、相まって行なわれる)」 。

これらの歴史から見ると、男女差の区別をあいまいに定義させるようなテレビ出演者が「大流行」することに、石原氏からは「世の中の衰退」と批判したのかもしれない。また、石原氏の発言を聞いても、神仏への信仰と人類史などの判断材料のない場合は、発言の意図を理解するのは難しくなるだろう。

関連記事
60年前、墜落したUFOの機体の一部と宇宙人の死体を、米陸軍が回収したとされる「ロズウェル事件」で、当時広報官だったホート中尉(Lieutenant Walter Haut)が昨年亡くなる前に書いたとされる供述書が発表され、波紋を呼んでいる。
虚言、欺瞞、盗み、自殺、殺人―。われわれ人類は歴史上、他人を傷つけ、自分を駄目にしてしまう行為を繰り返してきた。米科学誌「ライブサイエンス」ウェブ版では、高い知恵を持つヒトが
「近朱者赤 近墨者黑」。これは孟子の言葉で、出典の『孟子』は戦国時代の中国の儒学者である孟子(もうし、紀元前372年~紀元前289年)の言行をまとめた本です。「朱に交われば赤く
「フリー・ラブ」「性の解放」と聞くと、70年代のヒッピー文化を思い出す人は多いだろう。しかし、その50年前に、共産主義政権ソビエト連邦が、伝統的な家族の形を崩壊させるために利用した思想のひとつだった、ということを知る人は少ないかもしれない。
1927年前半、ソ連では、男女はそれぞれ平均4回の結婚・離婚を繰り返した。共産主義により「性の解放」「フリー・セックス」を教え込まれた国民は、結婚の意義を見いだせなくなった。
「戦わずして相手を屈服させる」ー中国古代の兵法書大作・孫子に記された戦の理だ。核・ミサイル開発を止めず、国営メディアでは物々しい言葉で日本や米国を威嚇する北朝鮮に対し、トランプ大統領は強硬さと温和を持ち合わせた対応を取っている。大統領の元首席戦略官スティーブン・バノン氏の愛読書とされる孫子は、大統領も参考にしているかもしれない。