焦点:アルゼンチン債務返済延期、投資家はデフォルトに戦々恐々

[ロンドン 29日 ロイター] – アルゼンチン政府が債務の返済期限延長計画を示したことで、投資家は同国が再び本格的なデフォルト(債務不履行)に陥るのではないかと戦々恐々だ。

今月実施された10月の大統領選挙の予備選で、ポピュリズム(大衆迎合主義)に傾く野党候補フェルナンデス元首相が現職マクリ大統領を抑えて首位に立って以来、アルゼンチン資産は急落。中央銀行は外貨準備を費やして通貨ペソの防衛を迫られた。

政府は国内短期債務の多くについて借り換えが不可能になり、ラクンサ財務相は28日、機関投資家が保有する国内法に基づく債券の返済期限延長計画を示すとともに、対外債務と国際通貨基金(IMF)からの借り入れについても返済期限延長の意思を表明した。

この提案は議会の承認を得る必要がある。また返済期限を延長するだけで、元本削減(ヘアカット)は盛り込まれていない。

発展途上市場投資会社テリマーの計算によると、返済期限延長計画の対象となるのは短期債務70億ドル、長期債務500億ドル、IMF融資440億ドル。

アルゼンチンは過去にもデフォルトを起こした経緯がある。直近で最大級だった2001年のデフォルト後、同国は何年間も景気後退と経済危機に苦しみ、ようやく危機から脱したのは15年になってからだった。

投資家は、デフォルトが不可避か、返済期限延長がアルゼンチン経済の回復につながるか、国際法に基づく債券の保有者がどのような打撃を受けるかについて、見方が分かれている。

ドイツ銀行のホンタオ・ジアン氏は、アルゼンチンが直面するのが流動性危機だけであれば返済延期は役立つが、ソルベンシー(返済能力)に問題があるため、計画は機能しそうにないとみる。

ジアン氏は顧客向けノートに「間違いなくアルゼンチンの対外債務はデフォルトになるだろう。今回の発表自体がCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のデフォルト事由に相当するかどうかは定かでないが、この計画が実行されればデフォルトになり、CDSの保証が実行されるだろう」と記した。

CDSのプレミアムは11日の大統領選予備選から2000ベーシスポイント(bp)超も上昇し、1年以内に50%前後の確率でデフォルトが起こることを織り込む水準となった。5年以内ではこの確率が80%超に上がる。

この間、ペソはドルに対して約22%下落し、目先の債務返済だけでなく同国の債務全般の持続可能性に重圧をもたらしている。

ドイツ銀の計算では、通貨安を受け、アルゼンチンの債務はグロスで約3250億ドルに増え、国内総生産(GDP)の103.5%相当に達した。

ジアン氏は「すべての債務の返済期限が延長されても、特に対外債務について債務総量を減らすヘアカットを実施しなければ、ソルベンシーの問題は解決できない」と言う。

ドイツ銀の計算によると、すべてのドルおよびユーロ建て債券が、市場実勢に基づきそれぞれ表面利率6.5%と5%の15年物ビュレット(一括返済)債券に転換され、「エグジット・イールド」がそれぞれ12%と10%になるとの想定に基づき、市場は現在30%のヘアカット比率を織り込んでいる。

エグジット・イールドとは、債務再編後のソブリン債の価値についての市場予想だ。

BNPパリバは今月、アルゼンチン債の保有者が40%のヘアカットを迫られると予想した。ただシナリオによってはこの比率が38.6%から62.7%の範囲に及ぶとしている。

JPモルガンのディエゴ・ペレイラ氏は、アルゼンチン政府の戦略には数多くのリスクが伴うと指摘。顧客向けノートで、返済期限延長によって財務省は一息付けるとしても、FX預金の引き出しや「ドル化」に伴い「外貨準備に圧力がかかり続けるかもしれない」と予想した。

ペレイラ氏は、議会が国内債の返済期限延長問題を10月の大統領選後に持ち越す可能性もあるため、国内法に基づく債券の保有者の反応が把握しづらく、IMFの反応も慎重だと指摘した。

アシュモア・グループの調査責任者、ジャン・デーン氏はアルゼンチンについて「地球上で最もおそまつな運営がなされ、最も予見しづらく、めちゃくちゃな国の1つだ。地球上でこれほどデフォルトを起こす確率が高い国は他にない」と話した。

(Karin Strohecker記者、Tom Arnold記者)

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