絵画のようなスローライフ
アメリカ・バーモント州の山奥に暮らしていた老婦人のターシャ・テューダーの生活は、ドキュメンタリー映画となり、世界的に流行し、日本でも人気を博しました。牧歌的な生活の達人と呼ばれたターシャは、2008年に92歳で亡くなりましたが、いったいどんな一生を送ったのでしょうか。
アメリカの著名な絵本作家であり、挿絵画家でもあったターシャ・テューダー(1915~2008)は、百冊以上の絵本を創作し、優れた絵本作家に贈られる「コールデコット賞」も受賞しました。
彼女の生活と味わい深い言葉を記した本のシリーズや、『ターシャの庭』等、多くの人々を魅了し、日本、台湾、韓国、アメリカ、フランスなど、多くの国にファンがいます。
彼女は87歳の時、最後の絵本を執筆するまで、精力的に創作活動を行い、2008年に92歳でこの世を去りました。彼女が亡くなる数年前に制作されたドキュメンタリー映画は、世界で注目を集めただけでなく、米国や日本でも視聴率が高く、ブームを巻き起こしました。
ターシャの人気の秘密
それは、彼女の知名度が高かったからではなく、彼女の素晴らしいライフスタイルによるものだったのです。
1915年、ボストンに生まれたターシャ・テューダーは、9歳の時に両親が離婚し、父の友人の農場に里子に出されました。それがきっかけで、彼女は田舎の素朴な生活を愛するようになりました。彼女は航空機の設計者である父親と、肖像画家である母親から、絵画の才能を受け継いでいます。
23歳で結婚した年に、彼女はデビュー作『パンプキン・ムーンシャイン』で、一躍有名になり、2男2女をもうけ、43歳で離婚し、その後、4人の子供を1人で育て、生活費は絵本での印税や、自分で縫った人形の販売で賄っていました。
子供たちが自立し、彼女は、57歳でアメリカ・バーモント州の山奥に引っ越し、印税で山の土地を30万坪購入しました。そして、大工に精通した長男の協力を得て、19世紀風の住居と納屋、庭園を作り、ひとり暮らしを始めたのです。
彼女はひとり暮らしする中、自らの手で荒野の森の中に夢の庭園を作りあげていきました。その芸術的な庭園は、徐々に有名になり、賞賛され、人々は彼女のスローライフな生き方に憧れを抱きました。
しかしどうやって、彼女はこの庭園を作り上げたのでしょうか。そこには水も電気もなく、この優雅で美しい老婦人が、どうやってくわを持ち、地面の石を少しずつ掘り出していったのでしょうか。山にはレストランも食料品店もなく、すべて自分でやらなければならなかったのです。
生活の中では、重労働がたくさんあります。水汲み、花の水やり、鶏や羊などの家畜の飼育、野菜作り、薪割り、羊の乳搾り等、また糸を紡いで布を織り、セーターを編み、リンゴを採ってジュースを搾ったり、火を焚いて料理もしなければなりません。他にもローソク、ランプ、石鹸なども手作りして、彼女はすべて自給自足で生活しました。これだけの仕事を自分ひとりで行うのは、とても大変だったことでしょう。
しかし、彼女は、とても優雅で魅力的であり、ずっと女性らしさを忘れていませんでした。手縫いのレトロなドレスを着て、頭には色とりどりのスカーフを巻き、庭園や畑を自由自在に歩いていました。そんな彼女が絵画のように美しいと言う人もいたほどです。
苦しい生活や、長い歳月にめげることなく、子供のような心の清純さを持ち続けていたターシャ・テューダー。彼女は、「私たちが本当に手に入れたいのは、物質ではなく、心の豊かさです」と語っています。
(翻訳 源正悟)
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