レオナルド・ダ・ヴィンチは芸術、科学、発明、音楽、技術など、数多くの分野に精通しており、その多芸多才ぶりは多くの人に語られ続け、ルネサンス期の最も代表的な人物であります。しかし、多才であることも欠点になりうるのです。人生には無数の選択が迫られます。命に限りがあるので、一体何が最も重要なことなのでしょうか。この点に関して、たとえ天才と呼ばれるレオナルドでも、必ずしもうまく把握できるとは言えません。
ジョルジョ・ヴァザーリは著作『画家・彫刻家・建築家列伝』に、レオナルドの少年時代のある出来事を記しました。ある日、ある農家の人が盾をもって、装飾を施してほしいとレオナルドの父親に依頼しました。そして、父親はこの盾を息子のレオナルドに預けたのです。
若いレオナルドは、どうすれば盾が敵を怯えさせられるかを考えました。効果を出すために、レオナルドは昆虫や動物たちの姿を重ね合わせて、変形させ、そして、火を噴き、煙を出す様子などを描きました。その結果、前代未聞の恐ろしい怪獣が出来上がったのです。
彼はこの盾の装飾に多大な時間をかけ、ようやく完成させました。父親がこの盾を見た瞬間、案の定、妖怪でも見たかのように驚愕しました。レオナルドは「このような絵柄は盾にぴったりだ。敵を怯えさせることができる」と言いました。
父親は息子の才能をほめながら、これほど素晴らしい作品を農民に安い値段で引き渡すのはもったいないと思い、新たに盾を買って農家の人に渡し、そして、レオナルドの作品を金貨100枚の値段で、あるフィレンツェの商人に売りました。後に、この盾は金貨300枚の値段でミラノの公爵の手に渡ったのです。
些細な出来事ですが、それでもレオナルドが幼い頃から、自らの才能に甘んじず、題材に相応しい創作を施し、時間をかけてしっかりと構想と準備を行い、理想的な作品を完成させるまで努力を惜しまないという真剣な態度が伺えます。
(つづく)
(翻訳編集・天野秀)
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