「二十日鼠と人間」 夢に捨てられた労働者たち(上)

数々の西洋文学の古典を残し、「アメリカ文学の巨人」と呼ばれていた小説家のジョン・スタインベックはカリフォルニア州の美しい街――サリーナスで生まれました。現在、そこには国立スタインベックセンターが建てられ、中には、スタインベックの生い立ちと生涯の作品が展示されています。
 

傑作『二十日鼠と人間

スタインベックの母は教師を務めた経歴を持っており、幼い頃から、スタインベックは母親の影響を受けて、本を読むことが好きで、自ら小説を書くことを趣味としていました。スタインベックは一時砂糖工場で働いたことがあり、そこで移民の生活や人間の負の面をまざまざと見せつけられました。

スタインベックの代表作はピューリッツァー賞を受賞した『怒りの葡萄』で、その前に書いた『二十日鼠と人間』はアメリカの高校生の必読書になっているほどの傑作です。この小説は1939年に映画化され、大成功を収めました。

スタインベックは、1962年にノーベル文学賞を受賞し、小説家、アーネスト・ヘミングウェイに続いて、アメリカ文壇を世界文壇の最高峰へと押し上げた偉大な作家だといえるでしょう。

今日は、読者の皆さんを『二十日鼠と人間』へとお連れいたします。

ウサギの毛は幸せの源――豪傑と柔軟、無常と夢幻、強大と弱小、複雑と簡単

物語はエデンの園に似たユートピアから始まります。カリフォルニア州のソレダード寄りのサリーナスの湖畔の森は青々と茂り、小鳥たちは楽しくさえずり、湖は深くて太陽に照らされるとエメラルド色に輝き、水は暖かく、水面には若葉がゆらゆらと浮かんでいます。この素晴らしい理想郷こそ、2人の主人公の物語の始まりの場所であり、終わりの場所でもあります。

ジョージは小柄で頭の回転が速く、色黒で、その両目には常に不安と焦燥が見られます。一方、レニーは熊のように体が大きく剽悍で、動きも鈍く、そして、子供程度の知能しかもっていません。そんなレニーですが、柔らかくてふわふわしたもの、例えば小動物の毛などをなでるのが大好きです。しかし、力持ちすぎて、自分の力をうまくコントロールできず、よく小動物をなでている最中に誤って殺してしまうことがありました。

また、女の子の服がふわふわと柔らかそうなのを見て、思わず触ろうとしたら、乱暴していると誤解されてしまい、働き先から逃げ出す羽目になることもしばしばありました。しかし実はレニーは非常に善良で純粋な人間で、これまで起こしたトラブルは全てわざとではなく、レニー自身思いもよらないものばかりでした。

そんなレニーでしたが、彼がいくらトラブルを起こしても、ジョージは決して見放さず、どこに行っても彼を連れていました。そして今回、新たな仕事先が見つかり、ジョージは、力をコントロールし、決してトラブルを起こさないようレニーにきつく注意しました。

(つづく)

(翻訳編集・天野秀)

江宇応