昼食後に「ちょっと寝る」で記憶力が5倍になるかも?

昼寝することは、果たして体にプラスなのでしょうか。マイナスなのでしょうか。

ある研究によると、45~60分間の昼寝は単語を記憶する能力を5倍に高め、心臓病のリスクを軽減すると言います。
その反対に、「昼寝が心臓病リスクを高める」という研究もあります。

その謎を解くカギは、夜の睡眠時間との関係にあるかもしれません。

ある心臓関係の専門誌に掲載された研究は、35~75歳の3462人について、5年間追跡調査しました。

その結果、週に1~2回の昼寝をしている人は、昼寝をしない人に比べて「心臓病になるリスクが低い」ことが分かりました。
同時に、週3回以上昼寝をする人は、昼寝をしない人と同程度の心臓病リスクがあることも分かったのです。

この奇妙な結果には、補足説明が必要です。
ほとんど毎日(週6~7回)昼寝をしている人は、「高齢、男性、喫煙肥満」のうち1つ、または複数の要因に該当する可能性が高いため、その影響もあって心臓病のリスクが高くなるのです。
これらの「心臓病リスクが高い人」をデータから外したところ、週3回以上昼寝をしている人の心臓病リスクが特に高まることはありませんでした。

さて、改めて「昼寝は、心臓病リスクを減らすことができるか」について、考えてみます。

一般的に、昼寝の頻度は年齢とともに増加します。
世界中で「高齢者の最大70%が昼寝している」とも言われますが、世界の科学研究のレビューを見ると、昼寝が健康に良いか悪いかについて「大きな意見の不一致」があることが伺われます。

米国での研究をまとめると、習慣的に昼寝をしている人について、「心臓発作で死亡する可能性は低い」「心臓発作による死亡リスクは上昇する」「心臓発作の可能性は、昼寝をしない人と同じ」と三者三様の見解が示されていて、結論には至りにくいのが現状です。

ただし、これらの昼寝と心臓発作のリスクに関する研究のほとんどは、昼寝する人としない人を単純に比較した観察研究です。
この種の研究では、関連性を示すことはできますが、詳しい因果関係は示されていません。

夜に就寝して眠りについたばかりのとき、閉じた目のなかの眼球は静止しており、これをノンレム睡眠といいます。しばらくすると、眼球が速く左右に動き始めます。これをレム(急速眼球運動)睡眠といいます。

睡眠中は、ノンレム睡眠とレム睡眠の間を行ったり来たりします。
レム睡眠中は、骨格筋は弛緩して休息状態にありますが、脳は覚醒していますので、記憶の定着その他の脳機能の回復に役立ちます。
これに対し、ノンレム睡眠は「脳も休養して、ぐっすり寝ている状態」です。

睡眠中に脳内の神経が再生されることは、細胞分裂の増加、タンパク質の新たな合成、脳の代謝による老廃物の除去などによって証明されています。

短時間の昼寝から目覚めた後、頭がすっきりして記憶力が良くなっていることを経験的にご存じの方も多いと思います。それを利用して、何か重要な作業や勉強をする場合、先に短い仮眠をとることも合理的であると言えます。

ドイツのザールラント大学の研究で、「45~60分の昼寝は、単語を覚える記憶力を5倍高める」ということが分かりました。10分程度のわずかな仮眠でも、記憶力を回復させることができます。

一般的に、1日に「2時間以上の長い昼寝」をする人は、認知障害と呼ばれる記憶障害を発症しやすくなります。また長い昼寝は、夜の入眠を妨げるため、健康全般にとって悪影響をもたらす可能性が高いのです。

一般的に、昼寝は健康に有益とされています。
そこで、体力および記憶力の回復に最も効果的な昼寝は、「昼食後から午後3時の間で、45~60分間程度の睡眠をとる」のが良いと言えます。

もしも長く(2時間以上など)昼寝してしまったら、総睡眠時間が8時間を超えないように、夜の睡眠を短くして調節することも可能です。
ただし、これは変則的な方法なので、その後で通常の生活パターンに戻すよう努めてください。

ただし、6時間以上の夜の睡眠に加えて、日中に2時間以上の睡眠を常時必要とする人は、その原因となる病気がないかどうか、医療機関で一度検査する必要があるかもしれません。

(文・Gabe Mirkin/翻訳編集・鳥飼聡)

運動医学医師