800年以上前、アジア大陸北部の大草原に強大な帝国が出現しました。言い伝えによると、最盛期の領土面積は、最東端から最西端まで最も速い馬で駆け抜けても1年以上はかかったといいます。この広大な帝国を築き上げたのはーーチンギス・カンです。
チンギス・カンは鷹が大好きで、狩猟に出かける時はいつも飼いならした鷹を連れて行きました。その鷹はチンギス・カンの命令に従って、上空から獲物に狙いを定めると、素早く急降下して、鋭い爪の生えた両足で捉えます。また、この鷹は戦いの時、空中でチンギス・カンの目となり、敵軍の動きなどを教えてくれます。
ある日、チンギス・カンは部下をつれて狩猟に出かけました。帰る途中、チンギス・カンは部下たちを先に行かせ、自分は日が暮れるまで大草原を走り回り、鷹狩りを楽しみました。
近道を通って王宮に戻る道中、気温が高いため、のどが渇いたチンギス・カンは水源を探し回りましたが、どの水源も乾いていました。仕方なく、少し先にあるきれいな湧き水へ馬を走らせることにしました。かつて清らかだった湧き水も酷暑によりぽたぽたと垂れる水滴に変わり果て、コップがいっぱいになるまで相当の時間がかかります。のどが渇きすぎてこれ以上待てないチンギス・カンは、一口分の水が溜まると即座に飲み干そうとしました。しかし、その時、頭上から鋭い鳴き声が鳴り響き、次の瞬間、チンギス・カンの鷹が猛スピードで急降下してきて、コップをひっくり返したのです。
ようやく一口分たまった大事な水が一瞬にして地面に吸い込まれてしまったことに驚愕したチンギス・カンは、普段から自分の胸中を察してくれる鷹がなぜこのようなことをしたのか理解できませんでした。しかし、今にも干からびるのどを少しでも潤したいので、鷹のことよりも、ほんの少しだけでも溜まった水を飲もうと再び手を伸ばしました。しかし、鷹が再度すっ飛んできて、またもやコップを倒したのです。今度こそ本気で怒ったチンギス・カンは、「これが最後だ。今度またやったら、落とし前を付けてもらうぞ!」と鷹を睨みつけました。
ところが、鷹はまたしてもコップを倒したのです。ピシャッという音と同時に、鷹の首がポスっとその場に落ち、熱い血が地面を赤く染めていきます。激怒したチンギス・カンは、「自業自得だ」と言い残し、今度は待たずに岩をよじ登って、水源まで向かいました。そして、山頂にたどり着き、ようやく水源を見つけたその瞬間、水源の中に横たわっている巨大な毒蛇の死体を目にしたのです。きれいだった水源には毒素がたっぷり流入し、完全に汚染されていました。
その時、チンギス・カンはすべて理解しました。鷹は空中からこの光景が見えたので、自分を救うために、何度も何度もコップをひっくり返したのです。後悔の念に駆られたチンギス・カンは、鷹のいる場所まで戻り、懺悔の気持ちを抱きながら鷹の身体を大事そうに抱え上げました。「今日、お前のおかげであることを学んだ。それは、いかなる時も、怒りに任せて行動しないことだ」
怒りや悲しみ、興奮など、激しい感情の中にいる時、人は理性を失いやすいです。その状況下で行った行動、あるいは言った言葉は他人を傷つけやすく、時には、取り返しのつかない状況を引き起こすこともあり得ます。いかなる時も、たとえどれほど怒りたくても、発狂したくても、容易なことではありませんが、感情任せに行動したり、何かを言ったりするのは極力抑えましょう。「一歩引き下がれば世界が広々と開ける」のです。
(翻訳編集:華山律)
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