口腔の健康が糖尿病などと関係があった!?歯ぐきの奥の病気を見逃さないためには

歯と歯ぐきを病気にしないために、現代人は日頃から口腔衛生に気を配る必要があります。実際、口腔内の問題が歯痛や歯茎の痛みにとどまらず、食生活や全身の健康状態、生活の質にまで影響を及ぼし、最悪の場合死に至る危険性もあるのです。

なぜなら、口腔内の病気は必ずしも口の中だけにとどまらないからです。口腔の健康は、心血管疾患、糖尿病、アルツハイマー病などの病気と密接に関係していることが注目され始めています。つまり、口は健康と病気を映す鏡であり、私たちの健康状態を表す指標でもあるのです。

残念ながら、口腔内の健康を示す最良の指標は、おそらく最も見落とされがちな、歯肉の深部にあります。歯周病は、歯茎の深い部分の病気で、むし歯に次いで多い口腔内の病気で、世界的には、11番目に多い病気です。

歯周病は、歯ぐきに起こる深刻な感染症です。最初は歯ぐきの見える部分に表面的な炎症ができ(歯肉炎)、その後、歯ぐきの下の歯根に細菌が入り込み、歯根を支えている構造物を侵食します。

歯周病は陰湿な病気であるため、多くの人が進行するまで自覚症状がないのが現状です。この病気は遺伝的な要素もあり、また口腔内の衛生状態にも影響されます。

病原性のある細菌が血流に入り続ける

セントラル・ランカシャー大学歯学部上級研究員のシム・K・シングラオ氏(Sim K Singhrao)は、BBCの取材に対し、ほとんどの人は40代から50代になるまで歯周病に気づかない、と語っています。

しかし、この頃になると、深刻なダメージで歯質が破壊され、歯を失う危険性があり、同時に、スピロヘータやポルフィロモナス・ジンジバリスなどの細菌が血流に乗って全身に広がる感染症も数十年前から発生しているケースが多いのです。

「血液をバスに見立てると、口の中のバクテリア(乗客)を全身に運び、ある者は脳に、ある者は動脈に、ある者は膵臓や肝臓に運ばれます」とシングラオ氏は言います。

これらの臓器が弱ると、細菌が炎症を起こし、他の炎症性疾患を引き起こしたり、悪化させたりすることがあります。

実際、歯周病は、心血管疾患、糖尿病、アルツハイマー病、肥満、様々な癌、関節リウマチ、パーキンソン病、肺炎、妊娠合併症など、世界で最も普及している非感染性疾患のいくつかと関連しており、それらは相互に関連していることが多いのです。

しかし、これらの問題は、歯ぐきの奥から血液中に細菌が侵入し続けることで発生します。免疫系が細菌などの病原体を感知すると、免疫細胞は炎症マーカーと呼ばれる細胞情報分子を大量に放出します。これらの炎症マーカーは、侵入した病原体を攻撃して殺す免疫系を助けます。傷口の周りの赤みや腫れは、この炎症反応の結果です。

健康な歯と歯周病にかかっている歯の違い(Shutterstock/大紀元製図)

短期的な炎症は、免疫系を問題の感染部位に誘導するための優れた指針になります。しかし、この「炎症」が続き、体内を回り始めると、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。

歯周病に関連する疾患の多くは、炎症性の要素が認められています。例えば、約30年前、研究者は腫瘍壊死因子αと呼ばれる炎症が、糖尿病患者のインスリン抵抗性を高めることを発見しました。その後、研究者たちは、さまざまな炎症が肥満と2型糖尿病を悪化させることを発見したのです。この発見により、研究者たちは慢性炎症を抑制することで糖尿病を治療しようと考えました。

しかし、歯ぐきの奥の感染部分で常に細菌が蔓延しているため、その結果逆効果になってしまったのです。

歯の喪失が認知症につながる

歯周炎が進行したまま放置しておくと、やがて歯を失うことになります。歯を失うと、何十年にもわたる慢性的な炎症に加え、認知機能の低下や認知症など、新たな健康リスクも生じます。

ニューヨーク大学ロリーマイヤーズ看護学部のグローバルヘルス学部長兼教授である吳蓓氏は、失った歯の数が多いほど、認知機能の低下や認知症のリスクが高くなるという相関関係を発見しました。

3万4千人の患者の健康データを調査した結果、歯がない人は歯がある人に比べて、全体として認知障害のリスクが48%、認知症のリスクが28%増加することがわかりました。

歯周炎は無症状であることが多いため、多くの患者さんが真剣に治療しないことが危険の一因です。(Shutterstock)

歯の喪失が認知症の一因であることは、これまでほとんど見過ごされてきました。そのため、この2つの関係を指摘すると、しばしば驚かれると、吳蓓氏は語りました。

早期に予防する

歯を磨くたびに、全身の健康を改善するチャンスがあるのです。歯周病のリスクを減らすことは簡単ですし、すでに歯周病になっている場合でも、効果的な治療方法があります。

吳教授は、「きちんと歯を磨き、口腔内の衛生状態を良好に保てば、歯周病を予防することは可能です」と語りました。

仮に歯周病になったとしても、歯茎の上下の歯の表面の微生物や石灰を削り取る「スクレイピング」によって、初期の段階で治療することが可能です。歯周炎がひどい場合は、外科的な治療で解決することもあります。

重要なのは、それをどのように検知するかということです。この病気は通常無症状であるため、「歯がひどく痛まない限り、歯医者に行く必要はない」という誤解があります。

この問題の解決方法も同様に簡単で、定期的に歯科医院を受診し、発見が遅れないようにしましょう。

(翻訳編集:香原咲)