スタチン系薬剤がCOVID-19感染の土台を築いた(上)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすSARS-CoV-2というウイルスに対して、アメリカ国民は脆弱でした。2019年にかけて国民全体のコレステロールが大きく低下したことがその原因であると、私は仮説を立てています。

ただの厄介な風邪で済んだはずのものが、高齢者や肥満者、複数の慢性疾患を抱える人々にとって非常に難しくて危ない病気に変わったのは、人々の防御力が低下したためです。

スタチン系薬剤はコレステロール、特にコレステロールを細胞に運ぶ「低比重リポタンパク質(LDL)」と呼ばれる悪玉コレステロールを低下させます。

スタチンは、何十年もの間、米国で最も一般的に処方されてきた薬剤です。2013年、米国心臓病学会と米国心臓協会は、心血管疾患のリスクが高い65〜75歳のほぼ全ての国民にスタチン系薬剤を処方するよう推奨しました。

その後、2019年までにスタチンの売上高は最盛期で年間100億ドルを超え、米国人口の35%にあたる9200万人以上(ほとんどが高齢者)がスタチンを服用するようになりました。この数字は前の10年間と比べて3倍の増加になります。

2019年時点で、アメリカ国民はこれほどまでにスタチン漬けになっていたのです。それによって、多くの高齢者がCOVID-19のような感染症の壊滅的な影響を受けやすくなりました。

これは予期せぬ結果だったでしょう。

COVID-19が襲来する直前の2019年に、蓄積された脆弱性がピークを迎えた、つまり社会集団の免疫能力がおそらく最低を更新したということです。

スタチン系薬剤はコレステロールを低下させますが、ビタミンDを生成する上でコレステロールは必要です。人間の免疫システムにおけるビタミンDは、いわばオーケストラの指揮者のような存在です。

ビタミンDの生成には皮膚と肝臓、腎臓が関与し、それによって、人の免疫機能全般の総責任者としての役割を果たすべく、完全に活性化されます。

ビタミンDは免疫系が正常に機能するための入り口となる栄養素であり、COVID-19と闘う上では特に重要でした。2021年に拙著 「The Defeat of COVID」で紹介したように、COVID-19やその他の感染症に対するビタミンDの役割について、治療と予防の両方に関する130を超える研究文献があります。ビタミンDの血中検査値が高い人やビタミンDを補給している人は、摂取しない人や不足している人よりもCOVID-19を容易に克服し、入院と死亡も少なかったのです。

何百もの研究やメタ解析で証明されているように、ビタミンDはCOVID-19をはじめとする呼吸器系疾患やウイルス性疾患に先手を打ちます。特に、あらかじめ、あるいは定期的にビタミンDを投与したり、日光を浴びて皮膚でビタミンDを生成するのが効果的です。

COVIDに対する脆弱性を助長

COVID-19による死亡時の平均年齢は81歳で、当時の米国の平均寿命を2~3歳上回っています。COVID-19による影響は高齢者、特に肥満や2型糖尿病、喫煙習慣、あるいは2つ以上の合併症を持つ高齢者に非常に偏っていました。

米国におけるCOVIDの罹患率と死亡率は、世界的な数値をはるかに上回りました。米国は世界人口の4%を占めていますが、COVID-19による死亡者数は世界の33%を占めます。また、COVID-19と診断された患者数は、米国が1億300万人を超え、その次がインドの4400万人と、どの国よりも圧倒的に多かったのです。米国ではCOVID-19が原因で110万人が死亡しました。 

アワー・ワールド・イン・データによると、2024年3月時点で、米国の一人当たりのCOVIDによる死者数は英国やイタリアとほぼ同数で、他のどの国よりも多いです。

ここ数十年の間にスタチン系薬剤の処方が蔓延し、COVID-19による死亡と罹患率が増大しました。その原因は、医療業界のコレステロールに対する無知と無能さです。

「コレステロールは体内で多くの機能を持つのに、どうして悪者にされているのだろう?」といった探究心を、薬を処方する人は持ちません。不都合だし、利益に繋がらないからです。

スタチンは儲かるし、おいしい仕事なので、「コレステロールは悪、スタチンは善 」という通説に疑問を呈するのは、医療業界ではあまりに不都合なことでした。

したがって、そのコレステロールが本当に健康を脅かすかどうかを調べるよりも、それを悪者扱いし、取り除く薬を売る方がはるかに簡単だったのです。 

それでは、本当のところ、コレステロールにはどんな働きがあるのでしょうか?

コレステロールの働き

コレステロールは体内のすべての細胞にとって必要不可欠で、食べ物から十分な量が得られない時は肝臓が作ります。肝臓が作るコレステロールが約75〜80%で、残りの20%は食物から摂取します。私たちはそれだけコレステロールを必要としているのです。

コレステロールを細胞まで運ぶLDLコレステロールは特に貴重ですが、悪玉コレステロールとも呼ばれます。コレステロールは細胞に到達すると、細胞膜の重要な構成要素となります。人間以外の哺乳類にとっても、コレステロールは細胞膜において非常に重要な脂質であり、脂質二重層の約30%を占めます。

コレステロールは細胞膜のしなやかさと強度を保ち、生命の維持に不可欠なシグナル伝達を可能にします。細胞間のシグナル伝達がなければ、身体は生命を維持する手段を失ってしまいます。

神経細胞は他の細胞以上にコレステロールに依存します。中枢神経系全体に豊富に存在しているコレステロールが低下すると、認知力や記憶力が低下します。このことはヒトだけでなくマウスでも確認されています。

フラミンガム心臓研究で参加者を観察したところ、総コレステロール値と発話流暢性、注意力/集中力、理論的な推理力、および複数の認知領域を測定する複合スコアとの間に、有意な正の線形相関が認められました。

年配者がスタチンのような薬を服用する前にこのような知見を得たら、感謝したでしょうか。コレステロールの欠乏はパーキンソン病でも見られます。コレステロールの値が高いほどパーキンソン病を発症するリスクは低いのです。 

また、コレステロールは胆汁酸を生成するための主な材料であるため、食物の消化に不可欠です。胆汁酸は栄養素の吸収を促進し、脂肪やコレステロールを分解する主な手段となります。

さらに、コレステロールは、生殖ホルモンであるテストステロン、プロゲステロン、エストロゲンや、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイドの材料となります。これらは若いうちは生殖腺から得られ、生涯を通じて副腎から得られます。つまり、十分な副腎機能を発揮するためには、コレステロールが必要です。

そして、本稿のテーマにとって最も重要なことですが、コレステロールはビタミンDの合成に必要です。前述の通り、COVID-19以後の生活や他の病原体に勝利するためにビタミンDが必要となります。 

作家。自然療法医(NMD)。著書に『The Defeat Of COVID(仮題:コロナの敗北)』『Manifesto for a Cancer Patient(仮題:がん患者宣言)』『Choose Your Foods Like Your Life Depends On Them(仮題:命は選ぶ食品にかかっている)』ほか。