伝統色の奥妙(三)

2024/07/12 更新: 2024/07/12

これまでの事例により、中国の伝統文化における赤は、現代人が考えるような吉ではないことがよく分かります。もちろん、色彩の一つとして赤を差別するわけにはいきません。そして色は次元によって異なり、それぞれの次元で意味も異なります。ここでは、あくまで民俗的な次元で話しており、より高い次元の赤については別の話です。

血と火の色

 医学的見地からは、様々な色に対する神経学的な知覚は、人類でほぼ共通です。よって、異なる文化で似ている点もあるでしょう。西洋人に「西洋の伝統的な物語で、赤が一番多いのはどの場面でしょうか」と聞くと、最も多い答えは2つです。一つは血の海となった戦場、もう一つは燃え盛る地獄です。

 西洋文化における赤は、主に血と火という2つの要素に由来しています。そこから派生した象徴は様々ですが、この色は概してポジティブというよりネガティブな感じを与えます。たとえポジティブな表現であっても、往々にしてある程度のネガティブなものを含んでいます。例えば、カトリック教会の枢機卿の服装は赤ですが、この色はイエスが衆生のため流した血を象徴し、信仰のために命を失うこともいとわない決心を表すと言われています。このこと自体はポジティブでしょうが、血を流すことがネガティブな影響を与えるでしょう。

 美術に携わる人は、一部の色の名称に、その色の文化的な表現を垣間見ることができます。画材について知る人なら、顔料に「マーズレッド」あるいは「マーズブラック」とあれば、この顔料に「酸化鉄」の成分があると分かります。ここで「マーズ」とはローマ神話の軍神であり、それは鉄の元素を意味します。

軍神(マーズ)の彫像(ローマのカピトリーニ美術館所蔵)

 では、なぜローマの軍神は鉄と対応しているのでしょうか? ローマ神話の最盛期、人類はすでに鉄器時代に入っていました。つまり武器も鉄でできていて、人々は戦争で鉄の武器によって血を流していたのです。そして血液にも、鉄の成分が含まれています。文化的な観点で「鉄血の戦争」という言い方は、名実相伴います。

 さらに言えば、人の血液が赤いのは、中に大量のヘモグロビンが含まれているからです。そしてそのヘモグロビンの主成分は鉄です。鉄でできた武器は血と触れると錆やすくなり、錆もまた赤色です…そのため初期の西洋文化でローマの軍神に対応した色は赤でした。同時に、赤は戦争の象徴だったのです。

 地球と近い惑星である火星の表面には、酸化鉄が広く分布しています。そのため、この惑星は赤く見えます。火星は赤なので、西洋で「マーズ(Mars)」と名前をつけられました。西洋の占星術で、両者は対応関係があります。

 血と火の戦争は相当ネガティブですが、更にネガティブなのは、地獄の血と火の色です。キリスト教の多くの美術品に描かれた火の燃え盛る地獄は、とても強烈な印象を与えます。それは、人々に赤の地獄のイメージを強く植え付けました。

至る所に燃え盛る火が描かれた地獄の絵(12世紀)

 地獄の火と関わるのは低次元の生物、そもそも西洋地獄で火を吐く悪獣です。しかし神話時代から遠く離れ、人類の通常の認識を超える知識は徐々に失われました。そして西洋の各民族によって昔の生物への呼び方が異なったことから混乱が生じ、それに翻訳が加わったことでさらなる混乱が生じました。英語で言えば伝説の生物には、ドラゴン、ワイバーン、アンピプテラ、リンドヴルム、ワーム、ドレイクなどの名称があります。一般の人は、このような姿が似通った生物を見分けることができません。通常は、この地獄の火を吐く獣をドラゴンと呼び、中国語で「龍」と翻訳しました。

 しかし中国人の概念の「龍」は、この姿ではありません。そのため多くの人が「ドラゴン」を「龍」と翻訳するわけにはいけないと考え、「西洋の龍」と呼ぶ人もいます。実は、昨今の映画などの作品の「西洋の龍」は、昔の翻訳の間違いです。大昔の西洋美術に現れた龍と中国の龍の姿は、ほぼ一緒です。地獄で火を吐く獣と龍は、全く異なる生物です。

1969年にイタリアのカウローニア近郊で発見された古代ギリシャの都市カウロン遺跡のドラゴン(紀元前3世紀のモザイクタイル)

 ドラゴン(Dragon)の由来はラテン語「Draco」で、大蛇や蛇、あるいは蛇の形の水中の生物という意味です。「Draco」は古代のフランス語で「Dragon」と書かれています。それが13世紀初期に英語圏に入り、今日でも使われています。古代ギリシアから中世期まで龍に関する美術作品が数多くありますが、その姿はほぼ中国の龍と似通った長い生物でした。今の西洋人が認識している「Dragon」(翼がある)と異なります。

12世紀のビザンチンのレリーフ「龍を退治する聖ゲオルギオス」
蛇のように彫られた龍

 『ヨハネの黙示録』で龍について詳しく述べています。『ヨハネの黙示録』の12章の3節に、「大きな赤い龍がいる」とあります。そして9節には「その大きな龍は古い蛇であり、悪魔とか、またはサタンと呼ばれ、天下を惑わす」とあります。

ドイツのアンカースハーゲンの教会のフレスコ画「龍を退治する聖ゲオルギオス」
中国の龍と似たドラゴン

 『ヨハネの黙示録』から分かるように、その赤い龍は、中国の龍と似た古い蛇であり、現代人が考える「西洋の龍」とは異なります。

 『ヨハネの黙示録』は『新約聖書』の最後の部分ですが、主に未来への預言、警告です。次から次へと続く巨大な災難から最後の審判まで、描かれた終末の状況は衝撃的です。『聖書』における明確な記述により、多くの人は赤い龍が邪悪の変身と分かり、赤い龍が悪魔サタンと分かっています。赤い龍に惑わされると地獄へ落ち、永遠の死となることが分かっています。今現在、その赤い毒龍が世界を乱しており、全世界の人々は最終的な生死の選択に直面しています。

(明慧ネットより転載)

Arnaud H.
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