食材で作る「小建中湯」 体質改善・肺と免疫を強化しよう

近年のパンデミックの影響で、現代社会では生活習慣病に悩まされるだけでなく、呼吸器系の病気や免疫力低下に対する不安が強まっています。そのため、肺を強くし、免疫力を高めてウイルス感染を防ぐ方法が注目されています。しかし、肺を強化するためには、まず「脾胃(消化器系)」を整えることが重要です。これが健康な肺を作る鍵となります。

 

肺を強化するには、まず消化器を整えよう

中医学では、「脾胃」とは消化器全体を指します。現代人は暑さの中で冷たい飲食物を好む傾向があり、これが脾胃(消化器)を冷やし、湿気が体内にたまる原因となっています。この状態が続くと、秋になると肺の病気が発症しやすくなるのです。

消化器系に問題が生じると、体に必要な栄養を十分に供給できず、疲れやすくなり、体力が落ちます。さらに、消化器が滞ることで、体内の「気(エネルギー)」の流れが悪くなり、まるで交通渋滞のように体の動きが鈍くなります。特に脾胃の部分が詰まると、エネルギーの通り道が妨げられ、全身のバランスが崩れてしまいます。

中医学では、脾胃は体の中心に位置するため「中焦」と呼ばれ、自然界でいう「万物を生み出す力」を持つとされています。この中心部分が詰まると、体内のエネルギーの流れが滞り、心臓が生み出す熱エネルギーが肺にこもりやすくなります。心臓のエネルギーは「火」にたとえられ、肺は「金」に属するため、火が肺を焼き続けるような状態になります。この状態が続くと、肺に負担がかかり、炎症や不調が生じ、さらに「上半身が熱く、下半身が冷える体質」が徐々に形成されていきます。

(PIXTA)

 

多くの人が、不眠、体のほてり、便秘、喉の痛み、そして目や肌の乾燥やかゆみを感じることがあります。さらに、お腹が冷えやすく、生ものや冷たいものを少し食べただけで腹痛や下痢を引き起こす人もいます。これらの症状の原因は、体内の陽気(エネルギー)が肺に滞っていることにあります。陽気が下に流れず、腎臓に必要なエネルギーが届かないため、腎が弱くなり、頻尿や尿漏れ、腰痛、膝の痛み、冷えやすさなどの症状が現れやすくなります。

さらに、脾胃(消化器系)の気の流れが悪くなると、肝の気(エネルギー)が逆流するという問題も生じます。肝の気は、春の草木のように上へ伸び、体全体の気血をスムーズに流す働きをします。一方で、肺の気は下降し、体全体のバランスを保ちます。肺の気が降りないと、肝の気も上昇できず、全身の臓器に不調が広がり、最終的にさまざまな病気の原因となります。これが長く続くと、症状が複雑になり、どこから対処すべきかわからなくなることもあります。

 

脾胃を整えることが健康の基本

中医学では、脾胃(消化器系)を「後天の本(生まれた後に育てるべき基盤)」と呼び、健康を保つためにはまず脾胃を整えることが重要だとされています。日々の食事に中医学の原理を取り入れることで、体質を改善し、肺や免疫の問題を根本から解決することができます。これを無視して薬で症状を一時的に抑えても、気血が滞っている限り、同じ症状が再発する可能性が高くなります。

興味深いのは、中医学の五行説において、「土(脾胃)は金(肺)を生む」とされています。つまり、脾胃は肺の「母」であり、脾胃が強くなれば、肺も健やかに保たれるというわけです。現代科学でも、消化器系と呼吸器系は免疫システムの重要な柱であることが明らかになっています。これは、古代の中医学の知恵が、現代の知識とも合致していることを示しています。

 

日々の食事に中医学を取り入れる方法

では、どうすれば中医学の原理を日常の食事に取り入れられるのでしょうか? その一例として、漢方薬の「小建中湯」をベースにした食事の工夫が挙げられます。薬理効果の似た食材を使って漢方薬の代わりにすることで、脾胃を整え、体全体の健康を改善する薬膳料理を楽しむことができます。

「小建中湯」の原理について

「小建中湯」という名前は、その治療効果と処方の構成から来ています。「小」とは、処方が比較的軽やかで、虚弱な体質や軽度の症状に適していることを示しています。「建中」とは、脾胃(消化器)の機能を助けて調整し、健康な状態に戻すことを意味します。つまり、脾胃を「再建」するための処方であり、これが「小建中湯」と呼ばれる理由です。

この処方は、東漢時代の名医、張仲景が書いた『傷寒雑病論』に由来します。彼は、脾胃の冷えや虚弱を改善するためにこの方剤を作りました。日本でも、このような漢方薬が広く使われており、その多くは漢代の張仲景の古典的な処方をもとにしています。

 

「小建中湯」の主な構成

「小建中湯」は、桂枝、白芍、甘草、大棗(ナツメ)、生姜、飴糖という6つの成分から成り立っています。桂枝は体を温める陽の薬、白芍は体を落ち着かせる陰の薬で、この2つが体の陰陽のバランスを整えます。甘草は薬同士の調和を助け、それぞれの効果を引き出す働きをします。

また、生姜は胃を温め、冷えを取り除き、消化を促進します。大棗と飴糖は、血を補い、痛みを和らげ、脾胃をケアし、虚弱な体質を改善する効果があります。これらの組み合わせにより、脾胃を根本から健やかにし、気血を補い、体質を整えることで健康を目指す処方です。

生姜(Shutterstock)

 

使用上の注意

ただし、「小建中湯」は、脾胃の陽気が不足し、冷えや虚弱がある人向けの処方です。逆に、湿熱や実熱、陰虚の体質の方には適していないため、体質に合わない場合には使わない方が良いです。したがって、専門の医師による診断がない場合、自己判断でこの処方を使用するのは避けるべきです。

 

食材でつくる「小建中湯」

とはいえ、日常の食事で「小建中湯」のような薬膳を作ることもできます。薬草の代わりに食材を使い、体に優しい食材で脾胃を整えるレシピを考えれば、薬効に近い効果を期待できます。たとえ薬膳として効果がなくても、栄養豊富で安心して食べられる美味しい食事として楽しむことができます。

 

食材で作る「小建中湯」
~大根と高野豆腐の鶏肉煮込み~

「小建中湯」の原理をもとに、日本の食材を使った簡単で作りやすい主菜をご紹介します。このレシピは、陰陽のバランスを整え、脾胃を温め、気血を補うという小建中湯の考え方を取り入れています。さらに、肺の健康をサポートするために大根を加えて、肺の熱を取り、消化を助け、咳や痰を和らげるよう工夫しています。多くの人が楽しめる、体に優しい養生レシピです。

材料(2〜3人分)

鶏もも肉 300グラム(気を補い、血を養い、脾胃を強化します)

高野豆腐 2枚(陰を補い、血を養い、脾胃を整える。代わりに木綿豆腐を使用してもOK)

にんじん 1本(甘草や飴糖の代わりとして、気を補い、消化を助け、薬の効果を調整)

長芋 50グラム(大棗の代わりとして、五臓を滋養します。大棗があれば、数粒加えるとさらに効果的)

大根 150グラム(肺の熱を取り、咳を鎮め、痰を和らげ、消化を促進し、脾胃を調整)

シナモンスティック(桂皮) 1本(桂枝の代わりとして、体を温め、冷えを解消)

生姜 1片(胃を温め、消化を助けます)

水 300ミリリットル

味噌 大さじ2(脾胃を温め、肝腎をサポートし、コクを出します)

作り方

高野豆腐を戻す。 高野豆腐をぬるま湯に浸して戻し、柔らかくなったら水気を絞り、小さく切ります。

鶏肉の準備 (鶏もも肉を一口大に切り、水で軽く洗っておきます)

野菜の準備 (大根、にんじん、長芋を適当な大きさに切り、山芋は皮をむいて一口大に切ります)

1.炒める。 鍋に少量の油を熱し、生姜とシナモンを加えて香りが立つまで炒めます。

2.煮込む。 鶏肉を加え、色が変わるまで炒めます。そこに水、戻した高野豆腐、にんじん、長芋、大根、味噌を加え、全体を軽く混ぜ合わせます。

3.弱火でじっくり煮込む。弱火にして、20〜25分ほどゆっくり煮込みます。鶏肉が柔らかくなり、にんじんや大根が煮崩れるくらいまで煮ます。

4.味を調える。最後にお好みで醤油や砂糖で味を調整し、器に盛り付けて完成です。

 

効果の説明

この料理に大根を加えることで、脾胃を温めるだけでなく、肺の熱を取り、咳や痰を和らげる効果も期待できます。さらに、消化を促進し、便通を改善する働きもあります。脾胃の機能を回復させながら、体をさっぱりと保つので、消化不良や便秘、咳に悩む人にも適した健康料理です。特に、脾胃が弱い方や食べ過ぎによる不調がある方におすすめです。日常の養生メニューとして、体質改善にも役立ちます。

もしあなたが陰虚体質や実熱体質の場合は、鶏肉を豚肉やスペアリブに置き換えることができます。鶏肉は温性ですが、豚肉は性質が平性で、体を潤し、腎臓をサポートしながら、体を温めすぎることなく、バランスを保ちます。深刻な病気がある場合は、医師のアドバイスに従って、最適な料理を選んでください。

 

(翻訳編集 華山律)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。