先月『JAMA Open Network』に発表された研究では、抗炎症食を続けた人々が認知症を発症するリスクを31%減らせたことが明らかになりました。この発見は、加齢に伴う認知機能の維持において、食事が重要な役割を果たすことを示しています。どの食品が炎症を引き起こし、どの食品が炎症を抑えるかを理解することで、認知症のリスクを軽減できるかもしれません。
この観察研究では、心臓病や2型糖尿病、脳卒中など、既に心血管代謝疾患(CMD)を抱えている人々を対象に、抗炎症食がどのような効果をもたらすかを調査しました。研究チームは、こうしたリスク要因を持つ人が抗炎症食品を積極的に取り入れた食生活を送ることで、認知症の発症リスクが低くなることを発見しました。
筆頭著者であるアビゲイル・ダヴ氏は、スウェーデンのカロリンスカ研究所の老年学研究センターで博士課程に在籍しており、今回の研究の特徴について「私たちの研究は、認知症の主要なリスク要因である心血管代謝疾患(CMD)と食事との関係に焦点を当てている点で独自です」と説明しています。
認知症とは、記憶力や日常生活に支障をきたす程度の脳機能の低下を指す総称で、最も一般的なタイプはアルツハイマー病です。
これまでにも、食事と認知症との関係性は明らかにされており、2023年に発表された『Frontiers in Neuroscience』の系統的レビューによると、特定の食事パターンはアルツハイマー病の進行を遅らせる可能性があるとされています。一方で、一般的な西洋型の食事は認知症のリスク要因とされています。さらに、最近の研究では、血糖値のコントロールが認知症に関連していることも示されており、この分野での研究がますます注目されています。
心血管代謝疾患と認知症の関連性
心血管代謝疾患(CMD)は、認知症のリスク要因として広く知られています。「2型糖尿病、心臓病、脳卒中のそれぞれが単独で認知症リスクを1.5~2倍に高め、これらが複数ある場合(例えば2型糖尿病と心臓病を併発している場合)、そのリスクはさらに高まります」とダヴ氏は説明しています。
今回の新しい研究は、食事の改善が、この高リスク群において認知症発症の可能性を減らすための戦略になり得ることを示しています。心血管代謝疾患を抱える人は体内の全身性炎症が増加しているため、抗炎症食を取り入れることが、非常に有効なアプローチとなります。
ダヴ氏によれば、抗炎症食は体内の全身的な炎症を軽減し、脳へのダメージの進行を遅らせ、最終的には認知症の発症を抑えるかもしれないといいます。なぜ心血管代謝疾患を持つ人が認知症のリスクが高いのかはまだ明確ではなく、その正確なメカニズムを解明するための研究が進められています。
「心血管代謝疾患(CMD)は、認知症と共通する生物学的背景を持っているようです。心臓は全身に張り巡らされた血管網を通じて血液を送り出していますが、その中には脳も含まれています。心臓のリズムが不規則になったり、ポンプ機能が硬化したりすると、脳への血流が不安定になり、脳細胞が必要とする酸素や栄養素の供給が制限され、長期的には脳細胞が徐々に弱っていく可能性があります」とダヴ氏は述べています。
「2型糖尿病は脳に負担をかけます。血中の過剰な糖が脳に入り込むと、脳細胞を保護する膜が破壊され、細胞の働きが低下し、ダメージを受けやすくなります。
「脳卒中は、脳の一部への血液供給が途絶えたときに発生し、脳細胞が窒息し、深刻な損傷を残すことになります」
研究の詳細
研究者たちは、イギリスバイオバンクのデータを基に、認知症を発症していない60歳以上の成人8万人以上を対象に調査を行いました。追跡期間は最大15年で、中央値は12.4年でした。追跡期間中、参加者は詳細な食事に関するアンケートに回答しました。
分析には、年齢、性別、学歴、カロリー摂取量、人種や社会経済的な地位に加え、BMI(体重指数)、高血圧、喫煙習慣、身体活動などの血管リスクも考慮しました。また、遅発型アルツハイマー病の遺伝的リスク因子であるAPOE ε4の有無も評価されました。
研究では、野菜や緑茶、ブラウニーやビールなど、合計206種類の食品と32種類の飲料を対象にしましたが、炎症指数はこれらの特定の食品の消費量に直接基づいて算出されたわけではありません。研究者たちは、より細かい視点で、食事による炎症を評価しました。各食品に含まれる栄養素に、炎症への影響を示すスコアが割り当てられたのです。
ダヴ氏は、「これらの食品や飲料に関するデータは、参加者が摂取したビタミンや栄養素、スパイスなどの量を推定するために使用されました。そして、これらの栄養素を基に食事による炎症を評価しました」と説明しています。
「この評価方法は、過去の研究をメタ分析し、栄養素と体内の炎症マーカーとの関係に基づいて、その栄養素がどれだけ抗炎症的または炎症促進的かを示したものです」
各参加者の食事から炎症スコアが算出されると、参加者は3つのグループに分けられました。1/3は抗炎症食、1/3は炎症を促進する食事、残りの1/3は中立的な食事に分類されました。
脳の全体容積を測定するためにMRIも実施されました。ダヴ氏は「灰白質の容積が減少することは、神経変性(すなわち脳細胞の減少)の指標であり、認知症の主要な脳損傷の一つです。私たちの研究では、心血管代謝疾患(CMD)と炎症促進食が、灰白質の容積減少と関連していることが確認されました」と述べています。
さらに、これらの要因は海馬の容積減少とも関連していました。海馬は記憶処理に関わる重要な脳の領域であり、この部分の神経変性や容積減少は、認知症にとって特に重要な指標となります。なぜなら、記憶力の低下は認知症の主な症状だからです。
研究では、全身の炎症が少ないことが、認知症リスクが低い人々の脳のMRIにおける良好な指標と関連していることが示されましたが、因果関係を確定するにはさらなる研究が必要です。ダヴ氏は「抗炎症食と炎症促進食にランダム化した介入研究が行われれば、この仮説をより確実に検証できるでしょう」と述べています。
最後に、心血管代謝疾患があるかどうかに関わらず、抗炎症食が認知症リスクの軽減に役立つかについて、ダヴ氏は「この研究からの主要な結論は、抗炎症的な食事パターンを守ることで、心血管代謝疾患を持つ人々の認知症リスクが31%、疾患を持たない人々でも21%減少したという点です」と説明しました。
抗炎症効果のある食品を食事に取り入れる
認知症のリスクを減らしたいと考えている方は、次のような抗炎症効果のある食品を食事に加えることを試してみてください。
ベリー類
ブラックベリー、ブルーベリー、ラズベリー、イチゴなどのベリー類には、炎症と戦うのに役立つ抗酸化物質であるポリフェノールが豊富に含まれています。
ナッツ類
ナッツ類は抗酸化物質が豊富で、抗炎症効果が期待されています。2023年に『Nutrients』に発表されたレビューでは、木の実やピーナッツが心血管代謝疾患のリスク要因を減少させる可能性があることが示されました。
脂肪の多い魚
サーモン、イワシ、アンチョビ、サバなどの魚は、抗炎症作用のあるオメガ3脂肪酸を豊富に含んでいます。
アボカド
アボカドには、抗炎症作用が関連する化合物が含まれています。
緑茶と抹茶
緑茶に含まれるEGCGという成分は、炎症を調節することが知られています。
オリーブオイル
2018年に『International Journal of Molecular Sciences』に発表された研究によると、エキストラバージンオリーブオイルに含まれるオレオカンタールという化合物は、同じ量を摂取した場合、非ステロイド系抗炎症薬のイブプロフェンと似た効果を持つことが示されています。
野菜
葉物野菜には、炎症を抑える抗酸化物質の一種であるβカロテンが豊富です。ピーマンやチリペッパーにはビタミンCとケルセチンが含まれており、これらは炎症を低下させることが確認されています。また、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツなどのアブラナ科の野菜に含まれる抗酸化物質スルフォラファンは、炎症を予防する効果があることが示されています。
ウコン
ウコンには、抗炎症作用を持つクルクミンが豊富に含まれています。
キノコ
キノコ類は抗酸化物質が豊富です。さらに、2019年に『Antioxidants』に発表された動物実験の研究では、ヤマブシタケが神経保護や抗炎症の効果を持つことが示唆されていますが、さらに詳しい研究が必要です。
避けるべき炎症を引き起こす食品
抗炎症効果のある食品を食事に取り入れることで全身の炎症を軽減することができますが、一般的に炎症を引き起こす食品を排除することも実践的なアプローチです。
過剰な糖分や高果糖コーンシロップ
過剰な糖分摂取や高果糖コーンシロップの摂取は、体内で炎症反応を引き起こすことがわかっています。
精製された炭水化物
パン、パスタ、シリアルなどの加工食品を含む精製された炭水化物が多い食事は、脳内の神経炎症プロセスに関連しています。
揚げ物
揚げ物には、炎症に寄与することが知られている有害な化合物(糖化最終生成物)が多く含まれる場合があります。さらに、揚げることでトランス脂肪が増加し、これも炎症を促進する可能性があります。
アルコールの過剰摂取
大量のアルコール摂取は、全身の炎症と関連しています。
登録栄養士のナリア・ル・ミレ氏は「エポックタイムズ」のメールインタビューで、クライアントに対し、アルコールや甘い飲み物、ペストリー、高脂肪の動物性食品、精製された炭水化物(白米やパスタ)、加工肉(ホットドッグなど)の摂取を控えるよう助言しています。これらを減らすことで慢性的な炎症を軽減し、その結果、糖尿病や心臓病、腸の問題といった慢性疾患の予防に繋がる可能性があると彼女は語っています。
(翻訳編集 華山律)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。