冬の救世主

『エルダーベリー』風邪やインフルエンザと戦う免疫の守り手

エルダーベリーは、何世紀にもわたり呼吸器感染症や発熱、炎症(急性・慢性)の治療薬として重宝されてきました。

古代の集落跡から発見された炭化した遺物にエルダーベリーが含まれており、一部の研究者は数千年前から意図的に栽培されていた可能性を指摘しています。

伝統医学では、エルダーベリーは糖尿病、肌の乾燥、下痢、頭痛、便秘、結膜炎、リウマチなど、多くの病気の治療に使われてきました。「医学の父」と称されるヒポクラテスは、エルダーベリーを「薬箱」と呼び、その幅広い治癒力を称賛しています。

古代エジプトではエルダーベリーが火傷や肌のケアに利用され、ネイティブアメリカンは発熱や咳の治療に用いていました。1696年に出版された『家庭の医師(The Family Physitian)』には、壊血病の治療薬として記載されています。また、少年たちがポップガン(おもちゃの銃)を作る際にも好まれていました。

エルダーベリーが現代で注目を集めたのは、1995年のパナマでのインフルエンザ流行時です。この流行でエルダーベリーが使用され、効果が確認されました。当時の臨床試験では、エルダーベリーエキスで治療を受けた患者の約90%が2〜3日以内に回復し、プラセボ(偽薬)グループでは回復までに6日以上かかるなど、明らかに早い効果が示されました。

(大紀元/Shutterstock)

 

エルダーベリーの豆知識

ネイティブアメリカンはエルダーベリーをさまざまな用途で活用しており、笛を作ることもありました。そのため、エルダーの木は「音楽の木」と呼ばれることがあります。

・エルダーの木は神聖な存在とされ、民間伝承では家を悪霊から守る力があると信じられてきました。

・エルダーベリーは、ジャム、ゼリー、アイスクリーム、ワイン、ヨーグルト、パイ、ハーブティーなど、多彩な食べ物や飲み物に使われます。

・中世ヨーロッパでは、エルダーフラワーコーディアルやエルダーベリーワインが人気を集め、現代でも親しまれている伝統的な飲み物です。

・J.K.ローリングの『ハリー・ポッター』シリーズに登場する「ニワトコの杖(Elder Wand)」は、エルダーの木が持つ神秘的で神聖なイメージから着想を得た可能性があると言われています。

 

エルダーベリーの特別な力

エルダーベリーはスイカズラ科のサンブカス属(Sambucus)に分類され、約20種類の品種があります。その中でも最も人気があり、免疫サポートのために広く研究されているのはブラックエルダーベリー(Sambucus nigra)です。この品種はヨーロッパ、北アフリカ、アメリカ大陸、西アジアに自生しています。

エルダーベリーは栄養豊富で、風邪などの急性疾患だけでなく、慢性疾患の予防にも役立つ可能性があります。

その薬効の鍵となるのはアントシアニンです。この成分はエルダーベリーの深い紫色のもとであり、抗酸化作用によって炎症酸化ダメージから体を守ります。これらのダメージは免疫力を低下させる要因にもなります。

多くの国では、アントシアニンが動脈硬化などの慢性疾患を予防する可能性があることから、医薬品として処方されています。

エルダーベリーには、ビタミンA、B群、C、Eや亜鉛、マグネシウムなどの必須ミネラルに加え、フラボノール、カロテノイド、フィトステロール、ポリフェノールといった抗酸化物質も豊富に含まれています。これにより、エルダーベリーは「スーパーフルーツ」として知られています。

1. 風邪やインフルエンザへの効果

研究によると、エルダーベリーはインフルエンザの複数の型に対して、症状の持続期間や重症度を軽減する可能性があります。臨床試験では、エルダーベリーを摂取した場合、インフルエンザの期間が平均で4日短縮されました。2020年のレビューでは、症状が出始めてから48時間以内にエルダーベリーを摂取すると、発熱、頭痛、鼻づまり、粘液の分泌といったインフルエンザの症状が大幅に改善されたと報告されています。ほとんどの成人で、2〜4日以内に症状が平均50%改善しました。この効果は、エルダーベリーがウイルスのタンパク質を阻害し、ウイルスが細胞に感染するのを防ぐ働きによる可能性があります。

また、2016年の研究では、エルダーベリーが飛行機での移動者の風邪の症状を軽減する効果も確認されています。

2. 認知機能の低下を遅らせる

2024年のランダム化比較試験では、軽度認知障害を持つ患者が6か月間エルダーベリーを摂取した結果、視空間問題の解決速度が対照群より速くなる傾向が見られました。また、いくつかの炎症マーカーが減少しており、これは重要な結果です。慢性的な炎症は認知機能の低下と関連しているため、炎症の減少は認知症予防の観点から注目されています。研究者は「エルダーベリージュースにはアルツハイマー型認知症の進行を遅らせる可能性がある」と結論付けています。

同様に、2023年の細胞培養研究では、エルダーベリーが神経保護効果を持つ可能性が示されました。具体的には、酸化ストレスによる神経細胞の死を防ぐことが確認されています。酸化ストレスは加齢に伴う認知機能低下の主要な要因とされています。この結果は、エルダーベリーが認知機能低下や神経疾患に関連する酸化ダメージを軽減する可能性を示唆しています。

3. 慢性疾患への効果

動物実験や細胞培養を中心とした新たな研究により、エルダーベリーが炎症や慢性疾患の管理に役立つ可能性が示されています。ただし、この効果を人で確認するには、さらなる研究が必要です。以下に、特に有望とされる研究を紹介します。

心疾患への効果

プラセボ対照試験では、34人の健康な成人が2週間エルダーベリージュースを摂取しました。その結果、参加者のコレステロール値は199mg/dLから190mg/dLに低下し、対照群と比較してわずかに減少が見られました。この減少は統計的に有意ではありませんでしたが、「用量を増やせば、より顕著な低下が期待できる可能性がある」と研究者は結論付けています。また、別の研究では、エルダーベリーエキスが動脈硬化モデルのマウスで大動脈のコレステロールレベルを低下させ、動脈硬化の進行を抑制することが確認されました。

2024年の細胞培養研究では、エルダーベリーが泡沫(ほうまつ)細胞の形成を抑制することが判明しました。泡沫細胞は動脈硬化や心疾患の重要な過程で形成されますが、エルダーベリーはこれを防ぎつつ、肝臓の脂肪生成を引き起こさなかったと報告されています。この結果は、エルダーベリーが動脈プラークの初期段階を抑え、心疾患の予防につながる可能性を示していますが、人での効果を確認するにはさらなる研究が必要です。
 

糖尿病への効果

エルダーベリーは、糖尿病の伝統的な治療薬として古くから使用されてきました。2016年の研究では、エルダーベリーエキスを4週間摂取した結果、2型糖尿病のラットでインスリン抵抗性と空腹時血糖値が低下しました。さらに別の研究では、ブラックエルダーベリーを16週間摂取した肥満マウスで、インスリン抵抗性、トリグリセリド(中性脂肪)、炎症が減少することが確認されています。

ハンチントン病

科学者たちは、ハンチントン病の治療法としてエルダーベリーの可能性を探っています。2021年の研究では、ハンチントン病の実験モデルを持つラットにエルダーベリーを投与した結果、運動機能や筋肉の協調性が対照群と比較して大幅に改善されました。

うつ病

2014年の研究によると、エルダーベリーはマウスモデルで天然の抗うつ剤としての効果が報告されています。研究者は「エルダーベリーエキスは安全であり、顕著な抗うつ作用を示した」と結論付けました。

がん

ブラックエルダーベリーには、がんの予防や治療をサポートする可能性のある抗酸化物質が豊富に含まれています。特に注目されるのは、ブラックエルダーベリーに含まれるフラボノイドの一種であるケンペロールです。2021年の研究では、膵臓がん細胞の死滅を促したことが報告されました。この効果は腫瘍を持つマウスおよび細胞培養の両方で確認されています。さらに、2017年の細胞培養研究では、エルダーベリーに含まれるアントシアニンがメラノーマ(悪性黒色腫)細胞の増殖を停止させ、細胞死を引き起こしたことが示されています。

他の可能性のある効能

湿疹(エクゼマ):2021年に実施されたランダム化比較試験では、94人の手湿疹患者を対象に、外用薬としてのエルダーベリー治療がヒドロコルチゾンと同等の効果を示しました。さらに、生活の質に関する評価では、ヒドロコルチゾンを上回る結果が得られました。

歯肉炎:2022年に行われたランダム化比較試験では、エルダーベリーを主成分としたマウスウォッシュが、歯周病に関連する細菌に効果を示すことが確認されました。一方で、研究者はこのマウスウォッシュが歯周病の進行を防ぐ可能性を指摘していますが、クロルヘキシジン(一般的なマウスウォッシュ)などの標準治療を上回る効果があるという十分な証拠は得られていません。そのため、標準治療の代替として推奨できる段階にはまだ達していないとされています。

ストレスへの適応:2021年の研究によれば、エルダーベリーは慢性的なストレスにさらされたラットにおいて、ストレスへの適応を大幅に助ける効果を示しました。具体的には、エルダーベリーの使用により、ストレスによる行動変化が軽減され、うつ症状、認知機能、性行動が改善されました。

発作の抑制:2016年の研究では、エルダーベリーが誘発性のけいれんに対して効果を示し、発作の発生や持続時間を遅らせることがマウスの実験で確認されました。

 

栄養素のサポート役

エルダーベリーは、以下の免疫サポート成分や栄養素と組み合わせることで、相乗効果を発揮する可能性があります。

・亜鉛とビタミンC:2020年のレビューでは、エルダーベリーを亜鉛やビタミンC(アサイーなどの食品に含まれる栄養素)と組み合わせることで、風邪の期間を短縮し、症状の重症度を軽減する可能性があると報告されています。

・ショウガ:抗炎症作用や抗菌作用で知られるショウガは、インフルエンザや風邪との闘いを助けるだけでなく、吐き気や嘔吐を和らげ、喉の痛みを癒し、消化器系の不快感を軽減します。これにより、エルダーベリーの効果をさらに引き出します。

・クローブ:古代から呼吸器疾患の治療に使われてきたクローブは、抗ウイルス、抗菌、抗炎症作用を持ち、エルダーベリーの感染対策効果を強化します。また、天然の去痰薬としての効果があり、風邪や咳、気管支炎、その他の上気道疾患の症状を和らげます。

・シナモン:体を温めるスパイスとして知られるシナモンは、抗酸化、抗ウイルス、抗菌作用を持ち、伝統医学では風邪の予防に利用されてきました。エルダーベリーとの組み合わせで免疫力を高める可能性があります。

・ハチミツ:エルダーベリーシロップの自然な保存料として利用されるハチミツは、抗菌作用に優れ、喉を癒す効果があります。2021年のレビューによると、ハチミツは上気道感染による咳の頻度や重症度を通常のケアと比較して減少させることが示されています。また、ハチミツにはプレバイオティクス効果があり、腸内環境を整えることで免疫力の強化を助けます。腸は免疫システムの80%が存在する重要な器官です。

 

レシピ:自家製エルダーベリーシロップ

このレシピは、免疫サポートに最適な栄養素とアントシアニンが豊富に含まれています。それに加え、美味しくて多用途です!
エルダーベリーシロップはそのまま飲むだけでなく、ジュースやお茶、スムージー、オートミール、パンケーキ、アサイーボウルなどに加えるのもおすすめです。

できるだけオーガニックの材料を使用しましょう。

材料:

  • 乾燥エルダーベリー 2カップ(または生エルダーベリー 4カップ)
  • 水 4カップ
  • シナモンスティック 1本
  • クローブ(すりおろし)3~4粒
  • ショウガ(すりおろし)大さじ1
  • アサイーパウダー 小さじ1
  • 生ハチミツ 1カップ(※1歳未満の乳児にはメープルシロップで代用してください)

作り方:

  1. 鍋にエルダーベリー、水、シナモン、クローブ、ショウガ、アサイーパウダーを入れます。
  2. 火にかけて沸騰させたら、弱火にして45分間煮込みます。
  3. 火を止め、1時間そのまま蒸らします。
  4. 細かいメッシュのざるやチーズクロスで液体をこし、固形物を取り除きます。
  5. 液体を室温まで冷ましたら、ハチミツを加えてよく混ぜます。ハチミツの量は煮液の量に応じて調整してください。煮汁が3カップの場合、最低でも1.5カップのハチミツを加えると保存性が高まります。
  6. 滅菌した瓶にシロップを注ぎ、冷蔵庫で保存します。保存期間は最大2か月です。

一般的な推奨摂取量は、予防目的で1日1回大さじ1杯、体調が悪いときは1日最大4回大さじ1杯です。

 

手軽にエルダーベリーを取り入れる方法

エルダーベリーは、シロップ、ティー、ジュース、カプセル、錠剤、グミ、パウダー、チンキ剤、トローチなど、さまざまな形で手に入れることができます。自家製のものを作るか、信頼できる供給元から購入することをおすすめします。市販の製品の中には、不純物が含まれている場合があるため、選ぶ際には注意が必要です。

2023年のレビューによれば、市販されているエルダーベリー製品には不純物混入が広く見られるとされています。一部ではブラックライスエキスや他の不明な物質が代用品として使用されていることが指摘されています。31種類の栄養補助食品を分析した結果、60%以上が本物のヨーロッパ産エルダーベリーとは一致しないアントシアニンプロファイルを持っており、ブラックライス、パープルキャロット、またはエルダーフラワー(果実よりもアントシアニン含有量が大幅に少ない)による汚染が疑われました。

摂取量について

エルダーベリーには、確立された推奨栄養所要量(RDA)が定められていません。また、臨床試験のデータも限られているため、明確な摂取基準は存在していません。

摂取量は製品の種類やエルダーベリーの含有量により異なります。たとえば、ある研究では、インフルエンザの大人に1日4回、大さじ1杯のエルダーベリーシロップを使用しました。一方、カプセル型の一般的なエルダーベリー製品は、1日あたり650~1500ミリグラムの範囲で販売されています。トローチの場合、風邪の症状が出始めた際に1日に数回服用するのが一般的とされています。

 

エルダーベリーシロップの吸収を最適化する方法

エルダーベリーシロップの効果を最大限に引き出すために、以下のポイントを参考にしてください。

・食事と一緒に摂取する:エルダーベリーシロップを、特に健康的な脂質を含む食事と一緒に摂ることで、脂溶性栄養素の吸収が向上する可能性があります。

・ビタミンCと組み合わせる:エルダーベリーシロップをビタミンCが豊富な食品(例: オレンジ、パプリカ、キウイ)と一緒に摂取すると、免疫サポート効果をさらに高めることが期待できます。

・コーヒーやお茶と一緒に摂らない:コーヒーやお茶に含まれるタンニンやカフェインは、一部の栄養素の吸収を妨げる可能性があります。エルダーベリーシロップは、これらの飲み物と間隔を空けて摂取するようにしましょう。

・病気のときは定期的に摂取する:体調を崩した際には、指示された用法に従い、定期的に摂取することで、アントシアニンなどの有効成分を体内で効果的に維持できます。

・標準化された製品を選ぶ:市販品を使用する場合、アントシアニン含有量が標準化されている製品を選ぶことで、より効果的な結果が得られます。

・冷蔵保存する:エルダーベリーシロップに含まれるアントシアニンは熱に弱いため、シロップやジュースは冷蔵保存して品質を保ちましょう。

 

特定の対象者について

2020年のレビューによると、妊娠中や授乳中の女性におけるエルダーベリーの使用を支持する十分な研究はまだ存在していません。また、エルダーベリーは1歳以上の子どもに対しては安全である可能性があるものの、乳幼児や小さな子どもには有害な影響が及ぶ可能性があるため、使用する際は特に注意が必要です。

エルダーベリーは免疫システムを刺激する特性があり、急性疾患に対して有益である可能性があります。しかし、一部の研究者は、免疫システムの過剰刺激が「サイトカインストーム」を引き起こし、自己免疫疾患や慢性疾患を持つ人に悪影響を与えるリスクを懸念しています。

ただし、2021年の系統的レビューでは、エルダーベリーが免疫系を過剰に刺激するという確たる証拠は見つかっていません。むしろ、継続的な摂取により、一時的な炎症反応が減少する可能性が示されています。

現在のところ、根拠が十分に確立されていないため、エルダーベリーを使用する際は慎重な判断が必要です。

 

毒性について

生または未熟なエルダーベリーの果実、葉、茎にはシアン配糖体が含まれており、摂取すると吐き気、嘔吐、下痢、さらには重篤な症状を引き起こす可能性があります。ただし、調理することでこれらの有害な化合物は中和されます。

また、エルダーベリーにはレクチンも含まれています。レクチンは有毒であり、アレルギー反応を引き起こす可能性がありますが、エルダーベリーを約10分間煮沸することで中和できます。

エルダーベリーは、米国食品医薬品局(FDA)によって「一般に安全と認められている(GRAS)」と分類されています。ただし、人間への影響や長期的な安全性についての研究は十分に行われていません。

 

エルダーベリーと薬剤の相互作用

エルダーベリーは、以下のような薬剤と相互作用する可能性があります:

  • 免疫抑制剤
  • 利尿薬
  • 糖尿病治療薬
  • ステロイド
  • 下剤
  • 化学療法薬
  • パゾパニブ
  • テオフィリン

特にこれらの薬を服用している場合、エルダーベリーを摂取すると薬剤の効果に影響を与える可能性があります。そのため、エルダーベリーを使用する前には、必ず医療専門家に相談してください。

(翻訳編集 華山律)

カリフォルニア大学デービス校で栄養生物学の博士号、神経生物学、生理学、行動学の理学士号を取得。同大学で生化学と生体エネルギー学を教えている。自然療法の専門家であり、ハーブ療法の指導者としても活躍。栄養補助食品会社の研究開発ディレクターを務めた経験を持つ。