中医養生館「坤徳中医養生軒」の院長、馮羅小潔氏には、遠い親戚にあたる修道士の羅さんという高齢者がいました。彼はなんと102歳まで元気に生き、「健康を保つには、五穀のお粥を食べることだよ」と馮医師に語ったそうです。
羅さんは何十年もの間、毎朝欠かさず五穀を食べる習慣を続けていました。青・赤・黄・白・黒の五色の穀物や雑穀を組み合わせ、鍋でじっくり煮込んで柔らかい五穀粥にし、漬物を添えて食べていたのです。彼の食事はとてもシンプルで、調味料もほとんど使いませんでしたが、素材の味を生かした豊かな風味と、なめらかな食感を楽しんでいました。この食習慣を続けたおかげで、亡くなる直前まで体は丈夫で、心身ともに元気だったといいます。
93歳の中医師、黎文献教授も、五穀を取り入れた食生活を推奨しています。約16年前、彼は突然糖尿病と診断されました。規則正しい生活を送り、健康にも気を配っていたため、この結果に驚いたそうです。そこで、自分の食生活を見直し、中医学の考え方にある「五穀は体を養う」という教えを思い出しました。そして、五穀や雑穀を積極的に取り入れることを決意します。
黎教授はスーパーで、赤米、とうもろこし、オートミール、小豆、黒豆など、色とりどりの雑穀を購入。夜のうちに水に浸しておき、翌朝お粥にしたり、ご飯に混ぜたり、豆は豆乳にして飲んだりと工夫して食べるようになりました。
彼は週に3日間は五穀中心の食事をとり、それ以外の日は白米や小麦粉製品など、精製された主食を適度に摂るようにしました。その結果、現在では血糖値がしっかりコントロールされ、週に数回は屋外で泳ぎ、友人と一緒に歌を歌うなど、充実した生活を送っています。とても90歳を超えているとは思えないほど元気な姿に、周囲の人々も驚いているそうです。
五穀こそが健康の基本!
「健康のためには、ご飯を減らして野菜をたくさん食べるべき」――こうした考えをよく耳にしますが、実はこれは誤解です。主食であるご飯は、健康維持にとても重要な役割を果たします。
中医学の古典『黄帝内経』には、次のように記されています。
「五穀は体を養い、果物は助けとなり、肉類は益をもたらし、野菜は栄養を補う」
この中でも、五穀は食生活の基本とされており、五穀を食べることで体に必要な栄養を補い、エネルギーを得て、丈夫な体をつくることができると考えられています。
昔の「五穀」とは、主にうるち米、アサ(麻の実)、きび、麦、大豆を指していました。ただし、時代や地域によって異なる場合もあり、その時代に広く食べられていた主食が五穀とされていました。現代では、穀類や豆類全般を指すことが一般的です。
五穀の特徴は、すべて植物の種子であるという点です。中医学では、種子には生命力が凝縮されており、植物の栄養がすべて詰まっていると考えられています。そのため、五穀を食べることで、体の機能を活性化し、健康を維持し、寿命を延ばすことができると言われています。
また、現代の栄養学的な観点から見ても、五穀は主に炭水化物を豊富に含み、次いでタンパク質や少量の脂質を含んでいます。炭水化物は、人間が活動するための重要なエネルギー源であり、タンパク質や脂質と並ぶ三大栄養素のひとつです。体の機能を正常に保つためには、五穀から適度に糖質やカロリーを摂取することが大切です。
五穀を食べる=雑穀だけを食べることではない

五穀というと、「素朴で粗い食べ物」というイメージを持たれがちですが、実はなめらかで柔らかい白米や小麦粉も五穀の一部であり、五穀の主要な構成要素のひとつです。
「五穀を食べる=未精製の雑穀だけを食べること」というわけではなく、白米や小麦粉などの精製された穀物とバランスよく組み合わせることが大切です。中医師の黎文献氏は、週に3日は雑穀を中心に、残りの4日は白米や小麦粉を主食にするという食生活を実践しています。これは、栄養の偏りや胃腸への負担を避けるための工夫です。
心医堂中医診所の院長、吴国斌氏によると、粳米(白米)は「五穀の王」とされ、甘みがあり、性質が穏やかで、胃腸を守るのに最適な食材だといいます。そのため、食事の中に白米を適度に取り入れることは重要なのです。
また、中医師の朱雅莉氏は、粗い雑穀や豆類を食べすぎると消化に負担がかかり、特に体力が落ちている人は胃腸の不調を引き起こしやすいと指摘しています。そのため、白米と玄米、白い小麦粉と全粒粉などを、自分の体質に合わせてバランスよく食べることが大切です。
朱雅莉氏は、「昔の白米と今の白米は違う」と補足します。昔の白米は、精製度が低く、より多くの栄養素が残されていました。それでも、白米は体に良い食材であり、特に高齢者、子供、大病をした後の回復期の人は、五穀の中でも白米を多めに摂るのが望ましいとされています。
五穀を色と効能で選ぶと、健康効果が倍増します
102歳まで長生きした羅さんは、生前、五穀を食べる際に「色のバランス」を意識していたそうです。特に朝食では、さまざまな色の穀物や豆類をバランスよく摂り、それ以外の時間には黒色の食材を積極的に取り入れていました。たとえば、黒豆をよく食べていたそうです。
中医学には「五行説」という考え方があり、食材の色と体の臓器には深い関係があるとされています。どの臓器が弱っているかによって、それに対応する色の食材を選ぶことで、健康維持や不調の改善につながると考えられています。
中医師の馮羅小潔氏によると、黒色の食材は「腎」を補う作用があるため、腎の働きが弱い人におすすめだといいます。たとえば、夜中に何度も目が覚めてトイレに行く人や、手足が冷えやすい人は、黒豆や黒ゴマを五穀に加えることで腎の働きを整えることができます。

また、五穀にはそれぞれ異なる色があり、それぞれの臓器をサポートするとされています。赤色は「心」を補い、赤米や赤豆、あずきなどがこれにあたります。黄色は「脾」と「胃」に良いとされ、キビ、黄米、小麦、大豆が代表的な食材です。青色は「肝」を養う働きがあり、緑豆やエンドウ豆が適しています。白色は「肺」を潤す効果があり、白米やハトムギがその役割を果たします。
馮氏は、五穀には色による効能だけでなく、それぞれ独自の働きがあることも重要だと指摘します。たとえば、黄色のキビは「脾」を補うだけでなく、「心」にも良い影響を与えます。白いハトムギ(薏米)は肺を潤すだけでなく、体内の余分な水分を排出し、熱を取り除く作用もあるといいます。
実際に、五穀を活用して体調を整えたケースもあります。馮氏のもとを訪れたある患者は、体内の水分が滞り、頭が重い、口臭が気になる、便秘しやすいといった悩みを抱えていました。しかし、その患者は漢方薬を飲みたくないと考えていたため、馮氏は「毎朝ハトムギご飯を食べること」をすすめました。患者がこの食習慣を続けたところ、わずか2週間で体の余分な水分が排出され、体が軽くなり、すべての不調が解消したといいます。
五穀をおいしく食べるための4つのコツ
五穀は栄養豊富ですが、食感が苦手で続けられないという人も少なくありません。馮羅小潔氏によると、適切な下ごしらえや調理をしないと、食感や風味が損なわれ、消化にも負担がかかるのだそうです。
「それぞれの穀物には独特の香りや食感があります。食材の特性を理解し、適した調理をすれば、本来の味わいはしっかり引き出されます」
彼女が実践している、五穀をおいしくするための4つのコツを紹介します。
1.浸水 白米や黒もち米(紫米)は、洗った後に1~2時間浸水させると、ふっくらと炊き上がります。玄米は3~4時間、ハトムギは4時間以上が目安です。手間を省きたい場合は、前夜に洗ったハトムギを炊飯器に入れ、たっぷりの水を加えた状態で「保温モード」にしておくと、翌朝にはしっかり吸水され、柔らかく炊き上がります。
2.2回に分けて煮る 例えば、緑豆や小豆を煮る場合、まず20分ほど浸水させ、浸け水は捨てる。その後、新しい水を加えて15分煮てから火を止め、自然に冷ます。完全に冷えたら再び火にかけると、短時間で柔らかく煮上がります。煮るときに少量の砂糖を加えると、豆類がより早く煮崩れるのでおすすめです。
3.冷凍庫を活用 五穀を前日に浸水し忘れた場合は、洗った穀物をそのまま冷凍庫へ入れておくと、翌朝すぐに炊飯でき、短時間でふっくら炊き上がります。
4.少しの油を加える 炊く前にオリーブオイルやココナッツオイルを数滴加え、少量の塩を入れると、五穀のモチモチとした食感が際立ち、風味もよくなります。
馮羅小潔氏は、こうした五穀養生法を患者にも指導し、体調管理に役立てています。多くの人が五穀を取り入れることで、体の調子が良くなり、健康を実感しているそうです。
中医師の黎文献氏も、20年近く五穀を食生活に取り入れており、今も元気そのもの。彼は笑いながら、「妻と一緒に100歳まで生きるのが目標です」と語っています。
レシピ付き 脾胃を整える「十穀ご飯(粥)」
材料
・十穀米 250グラム
・なつめ(種を取ったもの)3~4個
・黄耆(おうぎ)30グラム
作り方
- 十穀米と黄耆を一晩水に浸します。
- 黄耆をガーゼの袋に入れ、種を取った紅棗と十穀米と一緒に鍋へ入れます。数滴の油を加え、ご飯またはお粥を炊きます。炊き上がったら黄耆の袋を取り出し、そのまま食べます。
仕上げに氷砂糖を少し加えると、脾を補い、胃の働きを整える効果が高まります。また、ほんの少し塩を加えると甘みが和らぎ、味が引き締まるのでおすすめです。
中医師の馮羅小潔氏によると、黄耆は気を補い、紅棗は血を養う働きがあるため、五色の穀物と組み合わせることで免疫力を高める効果が期待できるそうです。特に季節の変わり目に食べると、体調を崩しにくくなるとされています。
(翻訳編集 華山律)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。