甘草(リコリス)は、その甘い風味と優れた効能により、消化器系をサポートする天然の味方とされています。
甘草の主要成分であるグリチルリチンは、砂糖の約50倍の甘さを持ち、天然の抗菌・抗酸化作用を備えています。これにより、腫瘍やウイルスの侵入を防ぐ働きがあります。抗酸化物質は、不安定でさまざまな病気と関連する「活性酸素(フリーラジカル)」を中和する力があります。
中医学では、甘草は「気」(生命エネルギー)を整えるために用いられ、特に健康と消化に重要な役割を担う「脾」に働きかけます。甘草の抗炎症効果は東洋・西洋医学の両方で認められており、肝疾患、がん、胃のむかつき、潰瘍、胃痛などの治療に広く使われています。
2022年に『国際分子科学ジャーナル』に掲載されたレビュー論文では、甘草が炎症性腸疾患に対して持つ治癒の可能性についても詳しく検討されています。
腸の炎症性疾患を鎮める
甘草はその潤い効果で注目されており、腸の粘膜に保護膜を形成して炎症を和らげるほか、気道を正常化させて痰を出しやすくする働きもあります。2014年に『Inflammatory Bowel Diseases』誌に掲載された研究では、粘液の欠乏が炎症性腸疾患の進行における重要な要因であることが示されました。
炎症は急性の病気やケガの自然な治癒過程の一部ですが、食生活、ウイルス、加齢、毒素などが原因で、慢性的かつ全身にわたる炎症を引き起こすこともあります。
2022年のレビュー論文では、炎症性腸疾患や大腸がんの発症率が上昇しており、毎年多くの命が失われていること、さらに炎症性腸疾患の患者はがんのリスクも高いことが指摘されており、新たな治療法の開発が急務であると強調されています。
この論文は次のように述べています。「腸の病気を治療するための新しい薬の開発が、今まさに求められている。」甘草は、中医学において数千年にわたって広く使用されてきました。
甘草およびその誘導化合物は、抗アレルギー、抗菌、抗ウイルス、抗炎症、抗腫瘍といった特性を活かし、炎症性疾患を治療する有望な存在となっています。
強力な植物性化合物
甘草はアジアおよびヨーロッパに原生する植物で、2021年に『Plants』誌で発表されたレビュー論文によると、甘草には約400種類の化合物が含まれており、そのうち300種がフラボノイド(血糖値を抑制する効果)に分類されます。甘草は「最も広く研究されている薬草の一つ」とされ、「確かな薬理特性」を持つとも評されています。
フラボノイドは、抗炎症、抗がん、抗酸化作用を持ち、心臓病リスクの低下とも関係しています。そのため、医薬品やサプリメントに広く利用されています。
研究によれば、甘草に含まれる12種類のフラボノイドは、がん細胞の成長を抑える「アポトーシス(細胞の計画的死)」を誘導し、細胞レベルで自己免疫疾患や炎症性疾患による組織の損傷を予防する働きを持つことが分かっています。
同論文では、甘草に含まれるもう一つの注目成分である「イソリクイリチゲニン」についても言及されています。これは、多様な抗がん効果を持ち、アポトーシスやオートファジー、さらに一部のがん治療薬にも見られる「抗血管新生作用」によって、がんの進行を抑制します。
またこのレビューでは、イソリクイリチゲニンが「ヒト肝がん細胞に対抗する天然の抗酸化剤」として評価されており、疾患に関連する活性酸素による損傷を減らす可能性があると指摘しています。
肝臓の健康を守る
甘草は、肝がんや肝疾患の治療に古くから用いられてきました。これらの疾患は、肥満や不適切な食生活などを背景に、近年ますます一般的になっています。『Plants』誌のレビュー論文では、甘草がアルコール、薬物の過剰摂取、抗がん剤、環境汚染物質などによる肝硬変、肝炎、脂肪肝に対して保護作用を持つことが報告されています。
「肝臓は、代謝、解毒、胆汁の生成を担っており、有害な外来化学物質を分解・排出することで、体を外部からの化学的なダメージから守っています。」
同レビューではさらに、「肝臓は体内で薬物の代謝と排出を担っているため、健康な肝臓は全身の健康にとって極めて重要である」と強調されています。
甘草は、中医学において肝疾患の治療によく用いられてきた薬草の一つです。
日本や中国では、肝機能を高めるための保護薬の中に、グリチルリチンを含む処方が多く存在しています。この資料の筆者らは、甘草が細菌の内毒素によって引き起こされる損傷に対して防御効果を持つことにも注目しています。この種の損傷は、命に関わる敗血症(化膿性感染症)を引き起こす可能性があります。
腸に対するその他の効果
甘草には抗菌・抗ウイルス・抗真菌作用があり、これらの特性は腸内で起こるさまざまな感染性疾患に対して顕著な治癒効果を発揮します。
2022年のレビュー論文では、甘草が大腸菌やカンジダ・アルビカンスの増殖を抑える可能性を示した複数の有望な試験管内研究がまとめられています。
腸内で大腸菌が過剰に増えると、吐き気、嘔吐、下痢、胃けいれん、胃痛などを引き起こすことがあり、カンジダの過剰増殖は炎症性腸疾患と関係しているとされています。
甘草はまた、胃潰瘍や胃がんの原因として知られるピロリ菌にも有効です。これらの研究では、使用された甘草の種類や投与量は異なるものの、有効性が確認されています。
「甘草の特性は効果が穏やかで、患部を冷やす作用があり、潤いをもたらすため、胃潰瘍や胃のむかつきを持つ人に好まれています」と、ハーブ専門家のロザリー・デ・ラ・フォレ氏はエポックタイムズの取材に対して語っています。
2014年に『Pharmacognosy Research』に掲載された研究では、甘草とビスマス製剤の効果が比較され、いずれも三種併用薬治療を受けているピロリ菌感染患者の痛みを緩和し、組織修復において同等の効果があることが示されました。さらに、甘草はすべてのピロリ菌株を素早く殺菌し、潰瘍症状を改善しつつ、腸内の善玉菌には影響を与えないことも確認されています。
また、2015年に『イラン薬学研究ジャーナル』に掲載された別の研究では、甘草が消化性潰瘍の治療に顕著な効果を示し、副作用が少なくコストも低いため、新たな抗潰瘍薬としての可能性があると報告されています。
「現在、研究者たちは低コストで毒性が少なく、効果の高い抗潰瘍薬の開発に取り組んでおり、薬用植物は新薬の最も魅力的な素材の一つであり、胃潰瘍治療の分野においても有望である」と付け加えられています。
使用時のリスクと注意点
甘草に関する研究では、用量の基準がまだ統一されておらず、研究ごとに使用される甘草の形態や種類、用量が異なるため、消費者が適切な摂取量を把握するのが難しい状況です。また、甘草は食品の風味付けとしても広く使用されているため、1日の総摂取量には注意が必要です。
甘草を過剰に摂取すると、高血圧を引き起こす可能性があり、特に体質的に敏感な人は、ハーブを扱う臨床医などの専門家による指導が望まれます。
「もし毎日大量に摂ると、一部の人は高血圧になりやすいです」と、ロザリー・デ・ラ・フォレ氏は語っています。「高血圧の傾向がない人でも、安全のために1日の摂取量は3〜5gを超えないようにすべきです」と彼女は助言しています。
乾燥した甘草は、粉末、カプセル、錠剤、液体などの形で利用できます。また、副作用を抑えた「脱グリチルリチン酸甘草(DGL)」製品も市販されており、これは安全性が高いとされています。
米国のマウントサイナイ病院によると、いくつかの研究では、このDGL甘草製品が胃潰瘍や十二指腸潰瘍に対して「より効果的」であり、長期使用に適しているとされています。デ・ラ・フォレ氏も「DGLの甘草茶は、長期的に使用する際に最も安全な選択肢」と述べています。
中医学の専門家であるリリー・チェイ氏は、「甘草は他の薬草と組み合わせて使うこと」を推奨しています。
『Journal of Ethnopharmacology』によると、甘草の根は中医学において「基本的な薬草」とされており、約90%の処方に含まれています。中医学では、甘草が脾のエネルギーを整えると考えられているため、中国で広く使われている多くの特許薬にも配合されています。
脾臓に注目
チェイ氏はエポックタイムズの取材に対し、「中医学では、脾の虚弱は代謝の低下、エネルギー不足、そして痰が多くなる原因と考えられています」と語っています。一方、西洋医学では、脾臓は悪く言えば「不要な器官」、よく言えば「毒素をろ過するリンパ系の器官」と認識されていますが、東洋医学の理論では、脾臓は非常に重要な役割を持っているとされています。
チェイ氏は、甘草が脾の機能を強化する作用を持つことから、中医学で非常に重視されていると述べています。
「多くの場合、腸内環境が乱れている人は、脾も弱っていることが多いです」とチェイ氏は説明し、「甘草は非常に効果の高い薬草ですが、単独で毎日使うのは避けるべきです。毎日摂取したい場合は、他の薬草と組み合わせた処方にするのが望ましい」と注意を促しています。
彼女は、甘草を2〜3日に一度、チンキ剤(抽出液)やお茶として摂取することを勧めており、苦味を和らげ、消化を助けるために、クコの実や菊花、ハスの実と一緒に摂るとよいと提案しています。
「甘草は他の薬草と調和して、日常生活に取り入れやすい薬草です。また、その効果を必要な部位に導く役割も果たしてくれます」とチェイ氏は述べています。
※本記事は診断または治療を目的としたものではありません。使用する際は、必ず医師や専門家にご相談ください。
(翻訳編集 華山律)
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