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AIに思考力を奪われないために──過信による認知機能の低下に注意

生成系AI(例:ChatGPT)は、私たちの文章作成、仕事、学習の方法を急速に変えつつあり、かつてない利便性と効率をもたらしています。しかし、あらゆる技術の進歩には代償が伴います。AIに依存しすぎることで、私たちは思考力や創造力という主体性を失ってしまう恐れがあります。真の賢さとは、AIを「支え」として使いこなし、「思考の杖」にしてしまわないことです。
 

AIによって加速する執筆、しかし創造力は静かに失われる可能性も

マサチューセッツ工科大学(MIT)は2025年6月、54人の学生を対象にライティング実験を実施しました。参加者にはChatGPT、Google検索、もしくは自身の知識のみを用いて文章を作成してもらいました。

その結果、ChatGPTを使用した学生のうち、83%が数分後には自分が書いた内容を覚えていませんでした。脳波スキャンでは、AIを使用した学生の脳における「集中」と「創造」に関わる領域の活性度が、手書きで執筆した学生の半分(29%対62%)にとどまっていました。

アリゾナ州立大学のスティーブン・グレアム教授は次のように指摘しています。「書くという行為は、本来、学習の一部であるべきです。しかし、脳が関与していないなら、いったい何を学んだことになるのでしょうか?」
 

短期的な効率の代償は長期的な思考力の低下──「認知債務」という概念

この実験から4か月後、MITの研究チームは同じ学生たちに追跡テストを実施しました。たとえ手書きで書いたとしても、一度AIに頼った経験がある学生の脳では、「創造」と「記憶」に関わる領域の活性が、AIを使ったことがない学生よりも明らかに低い状態が続いていたのです。

研究チームはこの現象を「認知債務(Cognitive Debt)」と命名しました。それは、短期的な効率を得る代わりに、長期的な思考能力を犠牲にする状態を指します。

ウォータールー大学の名誉教授モハメド・エルマスリ氏は述べています。「人間の脳には部品はありませんが、それでも鍛錬が必要なのです」
 

テクノロジーは両刃の剣──利便性とリスクの共存

AIは認知機能への影響について初めて議論された技術ではありません。たとえば、GPSナビゲーションが普及した際にも、同様の議論がなされていました。

2020年に『Scientific Reports』に発表された研究では、長期的にGPSを使用しているドライバーは、ナビゲーションがない状況下での経路計画や空間認識能力が大きく低下していることが確認されました。

とはいえ、これらの技術は大きな利便性と効率の向上ももたらしています。GPSはドライバーが迅速かつ正確に目的地へ到達する手助けとなり、AIは私たちが情報を素早く検索・整理し、文章の草案を作成する際に、特にビジネスや学習面で大きな力を発揮しています。

研究によれば、問題は「技術そのもの」にあるのではなく、「その使い方」にあるとされています。脳の海馬は空間記憶や学習に関わる重要な領域であり、刺激の欠如が続くと萎縮する恐れがあります。逆に、ロンドンのタクシー運転手たちは街の地図を暗記する必要があるため、学習とともに海馬の体積が明らかに増加するという研究結果もあります。

海馬の萎縮はアルツハイマー病やうつ病などとも強い関連があるとされています。研究者たちは、日常生活の中で歩行中に道を覚えたり、ランドマークを記憶したりするなど、自発的な探索行動を通じて脳を活性化させ、老化を防ぐことを推奨しています。
 

科学技術を活用:AIは補助として、思考力の代替ではない

人工知能は人類にとって大きな可能性を秘めた進歩の一つですが、それを本当に役立てるためには、「理性的な使用」と「主体的な思考」を前提としなければなりません。AIを「ツール」として活用することでこそ、創造力、判断力、記憶力といった人間本来の力を保ち続けることができます。

グレアム教授は、AIを情報整理や文章の最適化に活用することには賛成しつつも、重要な内容や論点の構成は人間自身が行うべきだと述べています。

彼はこう助言しています:「まず自分で考え、それからAIに表現を手伝ってもらう──そうすれば脳を使わずに済ますことはありません」

方海冬
郭小卉