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筋肉を超えて:タンパク質が神経系を支える仕組み

45歳のビジネス専門家、コリン・クーパー氏は、30代でブレインフォグやエネルギーの低下を感じ始め、それをストレスや加齢のせいだと軽視していました。明確な理由もなく気分が落ち込み、物の置き場所を忘れ、ときには手に奇妙なピリピリ感を覚えるなどして、不安を感じていました。

神経科学と人間行動の背景を持つクーパー氏は、その原因を探り始めた結果、一貫したタンパク質不足に気づき、ようやく状況の全体像が見えてきました。

タンパク質は筋肉を作るだけではなく、発達の初期段階から神経系の構造と機能を支える役割を担い、子どもが将来、十分な認知能力を発揮するために不可欠です。そして成人期以降も、神経伝達物質の生成、細胞シグナリング、神経可塑性、神経細胞の修復といった脳の重要な機能に関わり続けます。

「タンパク質が不足すると、注意力の低下、ワーキングメモリの低下、情報処理の遅れ、そして全体的な認知パフォーマンスの障害が見られる可能性があり、これは執行機能障害として知られています」と、全米神経栄養学アカデミー創設者で神経栄養学者のティモシー・フライ(Timothy Frie)氏はエポックタイムズに語りました。

研究によれば、幼少期のタンパク質不足は、脳内の主要な化学物質の低下を招く可能性があり、適切なタンパク質摂取は、加齢による主観的な認知機能の低下リスクを減らすことと関連しています。
 

神経伝達物質の生成

タンパク質は、セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質、そして神経活動を長期的に調整する神経調節物質(ニューロモジュレーター)の構成要素であるアミノ酸を供給します。神経伝達物質は神経細胞間の迅速かつ直接的な情報伝達を担い、一方でニューロモジュレーターはより広範囲にわたる神経ネットワークに影響し、その作用が長時間持続します。また、一部のニューロモジュレーターは、体内でホルモンとしても機能します。

これらの化学物質は、神経細胞が互いに、そして体の他の部分と円滑に情報を伝達するのに欠かせず、運動、思考、感情のすべてに関与しています。

タンパク質は消化の過程でアミノ酸に分解されますが、研究では食事中のアミノ酸バランスが、神経伝達物質の生成とその機能に影響を与えることが示されています。

「これらの神経化学物質は、気分、モチベーション、集中力、ストレス耐性を調節します」と、機能診断栄養士で神経栄養学者、認定脳健康コーチのケイシー・シア(Kacy Shea)氏はエポックタイムズにメールで述べました。「タンパク質が不足すると、認知力や精神的健康、短期・長期の脳機能に悪影響を与えるリスクがあります」

たとえば、タンパク質に含まれるトリプトファンは、気分と睡眠を調節するセロトニンの生成をサポートします。オンライン調査で、482人を対象にした研究では、トリプトファンが豊富な食品を多く摂取している人は、抑うつ感が少なく、他人の感情を理解する能力が高いことが示されました。

また、トリプトファンは、睡眠と覚醒のサイクルを調整し、安らかな睡眠を促すホルモンであるメラトニンの生成も助けます。

もう一つの重要なアミノ酸、チロシンは、ドーパミンやノルエピネフリンの生成に関与します。ドーパミンは運動、モチベーション、快感、注意力に関連し、ノルエピネフリンは覚醒状態、血圧、ストレス反応の一部を調整します。

「チロシンを摂取することで、朝から前向きな気持ちになり、仕事や運動へのモチベーションが高まり、社交性や集中力も高まります。そして、人生のあらゆる場面で『欲求』や『喜び』を体験するための脳化学物質をサポートできます」と、フライ氏は述べました。
 

神経細胞の構造と修復

タンパク質は神経細胞の主要な構成要素であり、保護外膜から信号を伝える長い突起に至るまで、神経細胞の構造を形成し、維持する役割を果たしています。

「タンパク質は、脳が修復し、適応し、加齢にともなっても強さを保つために必要な栄養素を提供します」と、ケイシー・シア氏は述べました。「神経変性は診断される何十年も前から始まる可能性があり、タンパク質はそれを防ぐ重要な役割を果たします」

この修復プロセスでは、身体が神経線維を修復し、失われた接続を再構築するために、アミノ酸を使用します。科学的研究では、タンパク質に含まれる分岐鎖アミノ酸(BCAA)が、外傷性脳損傷の前後で脳を保護する可能性があることが示されています。

さらにタンパク質は、食後の血糖値スパイクを抑制し、インスリンの調節をサポートする安定したマクロ栄養素であり、インスリン抵抗性に関連する酸化ストレスを軽減する可能性があります。

「これは神経変性の最も一般的な経路の一つであり、アルツハイマー病は『3型糖尿病』と呼ばれるほどです」と、シア氏は述べました。「良いニュースは、これらの要因は食事によってコントロール可能であるということです」

タンパク質は、脳の活動(神経系機能)を支える構成要素であると同時に、ストレス、炎症、血糖変動などの外的刺激から脳を保護する「緩衝剤」としても機能します。これは、認知機能を長期的に守るために極めて重要です。
 

髄鞘の維持

髄鞘(ずいしょう)とは、神経を包む保護層であり、電気信号を神経系内でより速く効率的に伝達する役割を担います。ここでも、タンパク質は重要な役割を果たしています。

髄鞘は乾燥重量の約70~85%が脂肪、残り15~30%がタンパク質で構成されています。これは、通常の細胞膜が脂肪とタンパク質をほぼ半々で構成しているのとは対照的です。髄鞘を健康に維持するには、十分な食事性タンパク質の摂取が不可欠です。

「髄鞘の完全性が損なわれると、ピリピリ感、しびれ、筋力低下、反射の遅れ、協調運動の障害、歩行の変化といった初期兆候が現れることがあります」と、ティモシー・フライ氏は述べました。「また、記憶力の低下、思考の遅さ、計画の困難といった認知症状も、初期には微妙な形で現れることがあります」これらの症状は、神経障害や髄鞘に関連する神経疾患のサインである可能性があります。

中枢神経系の再生能力は限られているものの、特定のアミノ酸は、加齢や病気、栄養不足といったストレス要因に直面した際に、髄鞘の維持と修復を助けることが研究で明らかになっています。

特に重要なアミノ酸であるセリンは、髄鞘の主成分であるスフィンゴ脂質の生成を助けます。セリンの低下は、特定の神経疾患における髄鞘損傷と関連していることが示唆されています。また、グリシン、システイン、メチオニン、アルギニンなどのアミノ酸も髄鞘の維持をサポートします。

「先進国であっても、持続的なタンパク質摂取の不足は、特に高齢者などの脆弱なグループにおいて髄鞘を徐々に弱める可能性があります」と、フライ氏は述べました。そのため、これらの構成要素が不足する食事は、時間の経過とともに神経の機能低下を引き起こす可能性があります。
 

神経可塑性と学習

脳は常に適応しており、この柔軟性(神経可塑性)は、新しいことを学び、記憶を形成し、怪我から回復することを可能にします。このシステムをスムーズに動かすには、タンパク質が必要です。

2022年に『Alzheimer’s & Dementia』に掲載された研究では、神経可塑性に関連するタンパク質が、早期アルツハイマー病で脳の強靭さを保つのを助ける可能性が示されました。研究者は、早期アルツハイマー患者と健康な人の脳スキャンと脊髄液のタンパク質レベルを比較し、強い脳ネットワークを持つ人は、特に神経可塑性に関与するタンパク質のレベルが高いことを発見しました。

神経可塑性は、脳細胞間の通信、シナプスの再形成、新しい接続の成長に依存しており、これらすべてには構造タンパク質やシグナリングタンパク質が必要です。

「必須アミノ酸の栄養不足は、シナプスタンパク質のターンオーバーを減らし、樹状突起の再形成を損ない、長期増強を害することがあります」と、フライ氏は述べました。「この関連は、幼少期、思春期、怪我からの回復、治療介入中の高い神経可塑性の期間に特に重要です」
 

ストレス反応と気分調節

精神的健康は心理的要因だけではなく、身体的な側面も含まれます。「不安を感じる人は、頭だけでなく胃や腕など全身にその感覚を覚えるのです」と、ケイシー・シア氏は述べました。「これは生理学的な問題でもあり、完全な生理学的治療が必要です。その中で栄養が非常に大きな意味を持ちます」

脳のストレス管理と感情調節能力は、アミノ酸から作られる神経伝達物質に大きく依存しています。タンパク質の摂取は、精神的健康を守り、うつ病のリスクを下げる可能性があることも、研究で示されています。

約18,000人を対象とした大規模なアメリカの研究では、最も多くタンパク質を摂取していた人々は、最も少なかった人々に比べて抑うつ症状のリスクが66%低かったと報告されました。中でも、牛乳や乳製品からのタンパク質摂取が特に抑うつ症状の軽減と関連しており、中~高摂取グループでは、他の健康要因を調整しても39~63%の抑うつリスク低下が認められました。

シア氏によれば、不安、うつ、注意欠陥障害を抱える多くのクライアントにおいて、神経伝達物質の一部またはすべてが不足していることが確認されています。

「血糖調節もまた気分と精神的健康に大きく関わる要因であり、毎食や間食でタンパク質を摂取することで、一日を通して安定した状態を維持できる」と、彼女は述べました。
 

脳の健康のためにタンパク質を増やす

自分自身の観察からタンパク質不足を疑い、その後の血液検査で確認されたコリン・クーパー氏は、エポックタイムズのインタビューでこう語りました。

「私の食生活はかなり雑で、コーヒーをよく飲み、会議や電話の合間に急いで食事を済ませていました。健康的とは言えませんでした。ですが、朝食から毎食でタンパク質摂取を増やし、それを追跡したところ、睡眠時間が短くても質が上がり、疲れにくくなり、モチベーションも上がりました」

年齢とともに、食欲や食の好みに加えて、消化能力も低下していきます。

シア氏は、タンパク質は人生のあらゆる段階で重要ですが、特に思春期、妊娠・出産、更年期、加齢といったライフステージの変化時には、より重要になると指摘します。

「体だけでなく、脳も再構築されていることを実感できるはずです」と彼女は述べました。

脳の健康をサポートするために、シア氏は毎日のタンパク質摂取量を増やす簡単で現実的な方法を次のように紹介しています。

  • 食事の中心にタンパク質を:メニューを考える際や外食時、まずタンパク質源を選び、そこからプレートを構成。
     
  • スナックを見直す:砂糖入りのおやつを、ジャーキー、ゆで卵、ナッツなど高タンパク食品に置き換える。炭水化物を食べる場合はタンパク質と組み合わせる。
     
  • 穀物を強化する:ご飯や穀物を炊くときに水の代わりにボーンブロスを使い、タンパク質と腸にやさしい栄養素をプラス。
     
  • 飲み物にタンパク質を加える:朝のコーヒーや夜のハーブティーにコラーゲンペプチドやプロテインパウダーを混ぜる。
     
  • 完璧を目指さず、継続を:小さな習慣の積み重ねが大切。毎日のタンパク質摂取を少しずつ増やすことが脳と体を守ります。

ビーガンの方は、すべての必須アミノ酸を摂取するために、多様な植物性タンパク質を組み合わせることが大切です。たとえば豆類と穀物を組み合わせるなどの工夫が推奨されます。

「最も良い方法は、一日を通して均等にタンパク質を摂取し、身体の変化に合わせて柔軟に調整することです」と、シア氏はまとめました。

クーパー氏にとって、朝食からタンパク質を意識して取り入れることは、体調や生活の質に明確な違いをもたらしました。彼は通常、1日3回の高タンパク食と1〜2回のプロテインシェイクを取り入れており、このルーチンで症状が改善され、生活の質が向上したと語っています。

「1〜2日サボっても、また戻れば大丈夫です。再び元気になります」

(翻訳編集 日比野真吾)

健康分野のジャーナリストであり、シアルコット医科大学の理学療法博士課程に在籍中。脳卒中、麻痺、小児ケア、ICUでのリハビリテーションなど、幅広い症例への対応経験を執筆に活かしている。患者と医療従事者の間にあるコミュニケーションギャップを埋めるために、思いやりと共感、そして明快な表現を大切にしている。