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脳を守り、認知症を防ぐ――血圧コントロールが鍵

中年期の物忘れは、しばしばストレスや加齢のせいと考えられがちです。しかし研究によると、「血圧」は脳の健康状態を示す最も明確な指標の一つであることがわかっています。

2017年以降、初めて大きく改定されたアメリカの高血圧ガイドラインでは、アメリカ心臓協会(AHA)とアメリカ心臓病学会(ACC)が、医師に対して「軽度の血圧上昇の段階から早期介入を行うように」と呼びかけました。その理由は、血圧の上昇が心臓だけでなく脳の健康にも重大な影響を与えるからです。

シカゴ大学神経内科部長のシャイアム・プラバカラン医師は、エポックタイムズの取材に対し次のように語っています。「高血圧は、脳卒中や脳の合併症において最もコントロール可能なリスク因子です。脳の細胞は再生できません。ダメージは数十年前から蓄積していることもあります。だからこそ、脳の健康をガイドラインの中心に据えることが非常に重要なのです」
 

高血圧が脳を傷つける――白質障害から「無症状の脳卒中」まで

高血圧は、脳の中で最も細い血管に強い圧力をかけます。その結果、症状が出ないまま起こる「無症状の脳卒中」や「白質の損傷」、さらには「微小出血」を引き起こすことがあります。これらの損傷は、記憶障害などの症状が現れる何十年も前から進行している可能性があります。

「無症状の脳卒中」とは、脳の一部がすでに実質的に損傷しているにもかかわらず、当初は自覚症状がない状態を指します。プラバカラン医師は次のように説明します。「高血圧によって血管の壁が厚くなり、破れたり漏れたりすることがあります。こうした『隠れた損傷』は、認知症を予測するうえで最も強力なサインの一つなのです」

2023年の分析では、世界の認知症患者のうち約16%(およそ950万人)が高血圧と関連していることが明らかになりました。もし発症を5年間遅らせることができれば、新たな認知症の発症数を半減できるといわれています。

また、ジョンズ・ホプキンス大学による1万3,000人以上の成人を対象とした研究では、「中年期に高血圧を持つ人は、その後20年間で認知機能が急速に低下する傾向がある」ことが確認されました。一方で、血圧をしっかりコントロールできた人は、加齢に伴う認知機能の低下が緩やかでした。プラバカラン医師は次のようにまとめています。「脳へのダメージは、症状が出る何年も前から始まっています。高血圧を早期に治療することは、将来の記憶力や自立した生活を守ることにつながるのです」
 

早めの対策を!軽い高血圧でも行動を起こしましょう

高血圧の基準そのものは変わっていません。血圧が120/80未満であれば正常、130〜139/80〜89は「第1期高血圧」、そして140/90以上は「第2期高血圧」とされています。新しいガイドラインの変化は、この「第1期」に入りかけた段階での対応方針にあります。

これまでのように「経過観察」で様子を見るのではなく、「早期介入」へと考え方が変わりました。なぜなら、わずかな血圧上昇でも、心臓や脳に血液を送る血管に目立たない形でダメージを与える可能性があるからです。

現在、アメリカの成人の約半数が「第1期高血圧」の基準に該当します。糖尿病や腎疾患、脳卒中の既往歴がある人、または10年以内の心血管リスクが7.5%を超える人については、医師がすぐに薬の使用を勧める場合があります。その他の人は、より綿密なモニタリングと定期的なフォローアップを受けることが推奨されています。

しかし、血圧を下げれば良いというわけではありません。特に高齢者の場合、過度な降圧はかえってリスクになることもあります。アメリカ国立衛生研究所(NIH)が主導した「SPRINT臨床試験」では、厳格な降圧目標を支持する一方で、治療によって腎臓へのダメージや電解質のバランス異常、めまいなどの副作用が起こる可能性も指摘されています。また、2020年の研究では、歩行が困難な高齢者の場合、血圧がやや高めのほうが寿命が長くなる傾向があることも報告されています。

ランカスター病院家庭医療科の副主任、ケニー・リン医師は次のように話しています。「診察時間はわずか15分ほどしかなく、高齢の患者さんは複数の慢性疾患を抱えていることが多いため、実際の治療方針を立てるのは非常に難しいのです」。また、高齢者医療の専門家アンディ・ラズリス医師もこう指摘しています。「ガイドラインは、高齢者が抱える複雑で個別性の高い健康ニーズをしばしば見落としてしまうのです」
 

高血圧を防ぐには:生活習慣こそが最高の薬です

最新のガイドラインでは、高血圧対策の第一歩は薬ではなく、日々の生活習慣であると強調しています。医師たちは、体重管理、植物性食品の摂取、塩分を減らすこと、適度な運動、質の良い睡眠、ストレス軽減、そして飲酒の制限を勧めています。小さな変化でも効果が期待できます。

食事: 1日あたりナトリウムの摂取量を1,000mg減らすだけで、血圧を約5ポイント下げることができます。主な原因は加工食品に含まれる塩分です。また、カリウムを多く摂ることも血圧を下げる効果があります。

運動: 運動は最も確実で効果的な健康法のひとつです。定期的な運動を行うことで、収縮期血圧(上の数値)が5〜7ポイント下がり、一部の降圧薬に匹敵する効果を得られます。

睡眠とストレス管理: 良質な睡眠は、アルツハイマー病に関係する脳内の有害タンパク質を除去する働きがあります。また、ストレスをうまくコントロールすることで、ストレスホルモン「コルチゾール」が血管や認知機能に与える悪影響を防ぐことができます。

生活習慣の改善だけでは効果が出ない場合、または最初からリスクが高い場合は、薬を併用することが勧められます。血圧が140/90以上の人の多くは、薬による治療が必要になります。一方で、リスクが比較的低い人は、まず3〜6か月ほど生活改善を続け、それでも血圧が130/80を超えるようなら薬の使用を検討します。

シカゴ大学のシャイアム・プラバカラン医師は次のように述べています。「運動や良質な睡眠の効果は、単に血圧を下げることにとどまりません。血流を改善し、炎症を抑え、脳の老化を防ぐ助けにもなります。生活習慣の改善は、血圧だけでなく脳全体の健康維持にとって非常に重要なのです」
 

実践ガイド:脳を守る第一歩は血圧測定から

新しいガイドラインでは、より精密なツールやモニタリング方法も紹介されています。

PREVENT(プリベント)計算ツール: 2023年にアメリカ心臓協会が発表したリスク評価システムで、今後10年・30年における心臓病、脳卒中、心不全のリスクを個別に予測します。

家庭での血圧測定: 2024年の研究では、家庭用血圧計や24時間モニタリングのほうが、診療所での測定よりもリスクを正確に把握できると報告されています。特に「夜間高血圧」や「隠れ高血圧」の発見に有効です。

患者にとって、日常生活での取り組みはとてもシンプルです。自分の血圧を知ること、自宅で定期的に測ること、そして「体調が良いから大丈夫」と思わず早めに行動すること。しっかり血圧を管理することで、思考の明晰さを保ち、運転を続け、長く自立した生活を送ることができます。

プラバカラン医師はこう語ります。「脳の健康という視点から見ると、血圧管理の大切さをより実感できると思います。特に中年世代にとって、血圧を守ることは『将来の自分』を守ることです。誰も老後に自立を失ったり、生活の質を下げたりしたくはありません。血圧を管理することは、脳を守る『予防的アンチエイジング戦略』なのです」

さらに医師はこう補足します。「多くの人は『年を取ってから考えればいい』と思いがちですが、それでは遅すぎます。脳の健康は、私たち全員が大切にしたい『未来』そのもの――年を重ねても、自分らしく生き、人生を楽しむ力なのです」

(翻訳編集 華山律)

10年にわたる執筆キャリアを持つベテラン看護師。ミドルべリー大学とジョンズ・ホプキンス大学を卒業。専門知識を取り入れたインパクトのある記事を執筆している。バーモント州在住。3人の子を持つ親でもある。